ハリス・ディキンソンの長編初監督作『URCHIN/アーチン』を、映画ライターSYOがレビュー。
人生をやり直そうとしては、何度も同じ場所へ引き戻されてしまう男。そんな不器用な主人公の姿を、痛みとユーモアを交えて描いた『URCHIN/アーチン』が公開中。俳優ハリス・ディキンソンの長編初監督作としても注目を集める一作。
『URCHIN/アーチン』

© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025
精神的な脆さが愛しい、地べたからの人間讃歌。
文:SYO 文筆家、コラムニスト
近年ジェシー・アイゼンバーグやクリステン・スチュワート、シアーシャ・ローナンほか俳優の映画監督デビューが目覚ましい。なかでもこの映画が長編初監督・脚本作となるハリス・ディキンソンにいま、熱視線が注がれている。彼はカンヌ国際映画祭最高賞受賞作『逆転のトライアングル』(2022年)、A24の『ベイビーガール』(24年)などに出演し、サム・メンデス監督によるビートルズの伝記映画でジョン・レノンを演じる予定。次期ジェームズ・ボンドの有力候補にも入るなど、次世代を代表する英国俳優のひとりだ。
そのため突然の監督業に驚くかもしれないが、実は16歳時点で短編映画を手がけており、俳優業が軌道に乗って監督業に“戻った”かたちともいえる。そのディキンソンが「地元で暮らすひとりの若者に焦点をあてたい」と長期間の取材を経て書き上げた『URCHIN/アーチン』には、これまでの歩みで培ってきた作劇力と演出力、独創性が集約。ロンドンの路上生活者マイク(フランク・ディレイン)が何度も人生を立て直そうとするも“クズルート”に戻ってきてしまう現実を、悲哀とユーモアを交えて描写していく。
特筆すべきは、徹底した地べたの目線だ。罪の意識も底辺生活を脱したい向上心もあるが精神的に脆く、就労先でも小さなミスで心折れては誘惑に流されてしまうマイク。再出発からの転落劇がリアルで痛々しく、当事者性の高さが随所に光る。それでいて悲観的に映さず、どうしようもなさがむしろエネルギッシュに見えてくるバランス感覚も巧みで、終盤には映画的なギミックで魅了。新世代の『トレインスポッティング』(1996年)と呼びたくなるような、堂々として愛すべき人間讃歌に仕上がっている。
『URCHIN/アーチン』
●監督・脚本/ハリス・ディキンソン
●出演/フランク・ディレイン、メーガン・ノーサム、ハリス・ディキンソンほか
●2025年、イギリス映画
●99分 ●配給/スターキャットアルバトロス・フィルム
●10月23日より、ヒューマントラス トシネマ渋谷ほか 全国にて順次公開
SYO
東京学芸大学で映像・演劇表現を学び、2020年に独立。映画やネトフリドラマほか、エンターテインメント系全般の文筆活動に力を注ぐ。WOWOWの連載映画コラムを担当中。
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