舞台はインド!? 尾上菊之助が新作歌舞伎への想いを語る。

インタビュー

『マハーバーラタ』……それは、古代インドの神話的叙事詩。紀元前400年から紀元後400年の間に成立したといわれる全10万詩節にもわたる壮大な書物だ。10万詩節、といってもピンとこなければ、聖書の約4倍の長さ、といえば少し想像しやすくなるだろうか。とにかく長い、世界最長の物語。そこには、神の世界と人間界を舞台に、個性豊かなキャラクターが次々と登場し、さまざまなドラマが展開していく。

この秋、『マハーバーラタ』が新作歌舞伎となって上演される。その名も『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』。インドの叙事詩が歌舞伎化されるのは実は初めてのことで、大きな注目が集まっている。演出を担当するのはSPAC(静岡県舞台芸術センター)の芸術総監督であり演出家の宮城聰さん。宮城さんは2003年以来、祝祭音楽劇『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険〜』を国内外で上演し、大好評を得ている。脚本は、舞台やテレビドラマの作品を多く手がける青木豪さん。現代の演劇界をリードするふたりが日本の伝統演劇・歌舞伎とどのように融合するのだろう。さらに、そもそもこの画期的なプロジェクトのきっかけを作ったのが歌舞伎俳優の尾上菊之助さんであったと聞けば、ますます興味が湧いてくる。今回、主役の迦楼奈(かるな)を演じる菊之助さんに『マハーバーラタ』の魅力、そして新作にかける想いを語ってもらった。

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「私が宮城さんの『マハーバーラタ〜ナラ王の冒険〜』を観たのは、2014年9月のことでした。インドの話をどのように演出されるのか、とても興味があったのです。観ていて、何度も心を動かされました。神様と人間とが織りなすお話、特に両者の関わり方が非常に近いところに惹かれました。ナラ王のドラマティックな人生に、人間の思惑だけではなくて神様が関わっているという……その脚本の不思議さに魅了されたのです。

パーカッションを使った血が沸き踊るような音楽も響いてきて、全体的に日本というよりアジアを意識されているような印象を受けました。それで、『マハーバーラタ』を歌舞伎にできないだろうかという想いが強く湧いてきて、宮城さんにご相談したのが始まりです。いま、こうしてその舞台が現実の形になろうとしていることに、ワクワクしています」

宮城さんの作品をそのまま採用するのではなく、あらためて新しい歌舞伎の『マハーバーラタ』を作ろう、と始まったプロジェクト。誰に主軸を置くのか、どのような物語にするのかというところから、じっくり時間をかけて脚本を練り上げていったという。

「『マハーバーラタ』の根幹をなしているのは、パンダヴァ家とカウラヴァ家という、同じ一族間のふたつの家の対立の話です。これはまさしく歌舞伎でいうところのお家騒動ものに共通するテーマであり、神と人間の世界に魅力的なキャラクターがたくさん登場するところも、歌舞伎で生かせるのではないかと思いました。そして、実は片方の家と関わりがあるのだけれど、それを知らず、外の世界から戦いをやめさせるべく渦の中に飛び込んでいく迦楼奈という人物の目線で物語を進めていけば、全体的に『マハーバーラタ』の世界を描くことができるのではないか、ということで迦楼奈を中心とした物語とすることを決めました。

青木さんに書いていただいた一場面ごとのプロットを製作に携わる皆さんと相談しながら、この言葉は歌舞伎だとこういう言い方にした方がいいのではないか、初めてのお客様にはもう少し平易な言葉の方がわかりやすいのではないか、と、アイデアを出し合って肉付けしていきました」

スーツ、シャツ、ウエストコート、ネクタイ/以上ジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン)

●問い合わせ先:
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
Tel. 03-6274-7070

>>12年ぶりに新作歌舞伎を手がけるにあたって想うこと。

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170920_mahabharata_02.jpgインドで撮影された『マハーバーラタ戦記』のスチール写真。迦楼奈=尾上菊之助

取材をしたのは、いよいよこれからお稽古に入る直前という時期だった。実際に歌舞伎の様式に合わせながら、ここからさらに演技に磨きがかけられていく。

「毎月のように、歌舞伎の舞台に立っていて“常識であること”を、今回の『マハーバーラタ』の脚本の中でどのように生かすことができるのか、ということを考えています。宮城さんと私、現代劇と歌舞伎の常識をぶつけ合い、問いかけ合いながら、新しいものを作っていく。現代劇の方と一緒にお仕事をする時は“常識であること”をひとつひとつ再確認する機会でもあります。

宮城さんは歌舞伎の芸のことを、“400年の蓄積、あるいは知恵”という風に表現してくださいますが、それを携えて宮城さんの要求にこたえていくことで、一場面一場面を作っていくことが、楽しみな毎日です」

絢爛豪華な衣裳や大がかりな大道具(*1)も歌舞伎ならではの魅力。今回の新作に合わせて、それらも新しいものを揃えるのだろうか。

*1 大道具:歌舞伎の舞台に飾られるセットの中でも、山、川、海、岩、木など大がかりなもののこと。廻り舞台やセリなどの舞台装置も大道具の一部。

「新しく作るものもありますが、古典の様式を大事にしたいので、衣裳は基本的には歌舞伎の衣裳で、『マハーバーラタ』の役を歌舞伎の役柄に落とし込んでいます。歌舞伎は衣裳の色や柄、化粧などで人物の役柄や性格がわかるようになっています。たとえば荒事(*2)は、誇張された派手な色合いや赤い筋の隈取り、お姫様は赤姫、位の高い敵役の場合は藍色の隈取りなど、ひと目でわかる工夫があるので、効果的に生かしたいと思います。

また、『マハーバーラタ』の世界で代表的なおもしろい場面を抽出し、そこに所作事(*3)や義太夫(*4)なども入ってきます。音楽や道具にも新しい試みを入れていますので、楽しみにしていてください」

*2 荒事:歌舞伎の特殊な演出で、豪快で力強い人物や超人的な役柄を表現するもの。荒々しく誇張的な衣裳、化粧が特徴。
*3 所作事:舞踊、または舞踊劇。
*4 義太夫:義太夫節のこと。もともと文楽(人形浄瑠璃)の劇音楽として生まれたもので、のちに歌舞伎にも用いられるようになった。三味線の伴奏に合わせて太夫が登場人物の台詞、心境、場面の状況などを語るスタイル。

菊之助さんといえば、12年前に父、尾上菊五郎さんとともにシェイクスピアの戯曲を新作歌舞伎として上演した『NINAGAWA十二夜』も忘れられない。菊五郎劇団(*5)の伝統として、新しいものに挑戦するということを常に意識しているという。

*5 菊五郎劇団:1949年、六代目の菊五郎が死去したのちに菊五郎の薫陶を受けた俳優たちにより結成され現在に至る。

「ジャンルの違う舞台などを観て、歌舞伎の新作にできるようなものはないか、常に考えているようなところはあります。ただ、新作歌舞伎を作るためには、歌舞伎以外にも知っておかなければいけないことや、乗り越えなければならないことがたくさんありますし、プロデュース能力も必要です。いま振り返ってみると『NINAGAWA十二夜』の時は正直、自分では手も足も出ませんでした。12年が経って、当時と比べると少しは成長しているかもしれませんが、やはり今回も異国の作品で、奥深い人間ドラマであるだけでなく、哲学、宗教、階級の問題などが含まれている。その世界観をしっかり残しつつ歌舞伎にするという作業は、とても大きな課題でした。12年ぶりの新作に気合いが一段と入っています。歌舞伎のエッセンスと『マハーバーラタ』のエッセンスをぎゅっと凝縮した、新作歌舞伎をご覧になっていただけると思っていますので、ぜひご期待ください」

次回は、新作『マハーバーラタ戦記』のスチール撮影のために、菊之助さんが初めてインドを訪れた旅のエピソードを語っていただきます。お楽しみに!

尾上菊之助 Kikunosuke Onoe
1977年、七代目尾上菊五郎の長男として生まれる。84年2月歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。92年には、祖父梅幸、父菊五郎とともに歌舞伎座で『京鹿子娘三人道成寺』を踊る。96年5月歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精で五代目尾上菊之助を襲名。『伽羅先代萩』の政岡や『摂州合邦辻』の玉手御前など女方の大役や、『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官、『義経千本桜』の狐忠信など家ゆかりの狂言に積極的に取り組み、女方、立役双方で活躍。2007年にはロンドンにて蜷川幸雄演出『NINAGAWA十二夜』で獅子丸、主膳之助、琵琶姫の三役を勤め、演劇賞を多数受賞、09年にはシェイクスピアの母国であるロンドンでの上演を果たした。15年には北京にて『春興鏡獅子』を披露。
今回の『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』では、物語の主人公である迦楼奈(かるな)と、シヴァ神の二役を勤める。

【関連記事】
尾上菊之助のインド・マハーバーラタ紀行。
歌舞伎界のホープ、片岡千之助、17歳。

芸術祭十月大歌舞伎(昼の部)
『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』

10月1日(日)〜25日(水)11:00開演
歌舞伎座
東京都中央区銀座4-12-15
全席指定 1等席¥18,000、2等席¥14,000、3階A席¥6,000、3階B席¥4,000、1階桟敷席¥20,000

●問い合わせ先:
チケットホン松竹 Tel. 0570-000-489 または Tel. 03-6745-0888
www.ticket-web-shochiku.com

photos : TAKASHI KATO, stylisme : AYAKO NAKAI, texte : YOKO MAKINO, collaboration : SHOCHIKU

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