尾上菊之助のインド・マハーバーラタ紀行。

インタビュー

古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』が歌舞伎になった新作『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』が、いよいよ10月に歌舞伎座で上演される。自ら『マハーバーラタ』の歌舞伎化を企画した尾上菊之助さんが、物語のルーツを巡るべくインドへ飛んだ。初めて訪れたインドで過ごした貴重な時間を振り返る。

170921_mahabharata_01.jpg舞踊の競演を行ったカタカリのダンサーたちと記念撮影。右から川瀬露秋さん(唄・箏)、藤井泰和さん(唄・三味線)、菊之助さん。カタカリの衣裳やメイクの鮮やかさは歌舞伎と通じている?

「今年は日印文化協定発効60周年にあたり、日印友好交流年に定められています。奇しくもそのような記念すべき年に、日本で『マハーバーラタ戦記』の公演ができることを、とてもありがたく思っています」

そう話す菊之助さん。少なからぬインドとのご縁を感じながら、現地を訪れたのは8月のことだった。まずは首都ニューデリーの日本大使館で、文化交流として歌舞伎とインドの伝統舞踊の競演が行われた。菊之助さんは地唄舞『鐘ヶ岬』を披露、そしてインドの舞踊として、南部ケララ州の舞踊劇「カタカリ」が上演された。

170921_mahabharata_02.jpg歌舞伎や能でも知られている「道成寺」を地唄にした『鐘ヶ岬』の清姫を踊る菊之助さん。「道成寺」は若い僧侶を見初めた清姫が、恋に執着するあまり蛇となって僧侶を焼き殺してしまうお話。

「『カタカリ』は、かつては男性だけが演じていた芸能で、男性が女性を演じたり、隈取りのような派手な文様を顔に描くなど、歌舞伎との共通点がたくさんあります。もしかしたら歌舞伎のルーツはここにあるのかもしれない、と思いました」

インドというと、タージ・マハル廟に代表される豪華なドーム屋根や緻密な象嵌細工の建物を想像してしまいがちだが、それはインドにイスラム教が入ってきてからのスタイル。『マハーバーラタ』はそれより数百年も前の時代に書かれた物語だ。

170921_mahabharata_03.jpgオールドデリーのヒンドゥー教寺院では、シヴァ神の壁画と対面。『マハーバーラタ戦記』で迦楼奈とシヴァ神の二役を演じる菊之助さん。ここであらためてシヴァ神やヒンドゥー教についての説明を受けた。

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170921_mahabharata_05.jpgオールドデリーの寺院にて、額に信仰の装飾的な印、ティラカを塗ってもらった。

170921_mahabharata_06.jpgオールドデリーの街に出て、人々の日常に触れる。早朝からたくさんの人が行き来して、活気がみなぎっていた。礼拝に向かう人にもたくさん出会った。

>>聖地ハリドワール、そしてリシケシへ。ガンジス川のほとりで撮影に臨んで感じたこと。

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ヒンドゥー教の聖地がある北インドの町、ハリドワールに移動して、ガンジス川を臨んだ時、大きく心を揺さぶられたという。

170921_mahabharata_07.jpg聖地ハリドワールで、生まれて初めて臨んだガンジス川。広い、大きな流れ。迦楼奈は神と人間の子として生まれながら、生を受けてほどなくガンジス川に流される。

「人々が罪を清め穢れを祓うために沐浴する様子を見たり、毎日、日没後に行われる『アールティ』というお祈りを見学しました。川に身を浸して先祖への感謝を伝えたり、神への許しを乞うたり、人々が川を通して天にお祈りすることで神とつながっている姿を見て、インドの方たちにとって、神は本当に近しい存在なのだということを強く感じました。あの瞬間、神と人間と自然とが一体になっている。『マハーバーラタ』も神様と人間のお話で、その精神が現在にもつながっていることを実感することができたのは、本当によかったと思います」

170921_mahabharata_08.jpgハリドワールのマーケットを自由に歩いている牛に出会った。牛、特に牡牛はシヴァ神の乗り物として知られる。シヴァ神を演ずる菊之助さん、ゆったりと歩く現地の牛に一層親近感を感じたようだ。

170921_mahabharata_09new.jpg170921_mahabharata_10.jpg

ガンジス川に臨むに当たり、お祈りの仕方を習った。花や聖なる水、火なども神への祈りに捧げられる。

旅の終盤、ハリドワールからさらに上流へと足を延ばし、もうひとつのヒンドゥー教の聖地、リシケシへ。リシケシはガンジス川の源流があるヒマラヤの麓に位置する小さな町。ここで菊之助さんは、新作『マハーバーラタ戦記』の主人公、迦楼奈(かるな)の衣裳に身を包み、スチール撮影に挑んだ。

「川岸から連なる岩を渡って大きな岩の上に立ち、弓をつがえた時、とても不思議な気持ちが湧き起こってきました。リシケシはガンジス川の原風景が残る町で、山の前に、いつの時代のものだかわからないような建物が並び、どことなく神聖な、幻想的な雰囲気に包まれていました。私が演ずる迦楼奈は生まれて間もなくガンジス川に流され、数奇な運命をたどります。インドを巡った数日間、聖なるガンジスから受け取ったものを胸にカメラの前に立ちました。出来上がった写真を見た時に、川の流れや空に立ち込める雲が、あたかも戦いに臨む迦楼奈の決意を映し出しているように思えて、舞台への想いを新たにしました」

170921_mahabharata_12.jpgガンジス川の原風景が残る町、リシケシ。緑の山に囲まれた川の流れは早くなり、乾期には水も透明度を増してくる。一瞬、さらに神に近づいた気持ちに包まれた。

今回の旅で、さまざまな意味で日本とインドのつながりを実感することができたという。

「『マハーバーラタ』の中にも、日本の昔話に出てくるようなお話がいくつかあります。たとえば迦楼奈のように、子どもが箱に入れて川に流され、それを拾った人が育てる……桃太郎を思わせる話ですね。また、これも今回の新作に出てきますが、鉄のように硬い肉塊を砕いたら100人の子どもができたという話は、似た話が中国の説話にもあります。おそらく『マハーバーラタ』に書かれたお話が世界各地に散らばっているのでしょう。仏教もそうですが、元をたどっていけばインドから流れてきたものがたくさんあることにあらためて気が付きます。近くて遠い国のような気もしますが、今回の新作歌舞伎を通して、インドを身近に感じてもらえたらいいなと思っています」

170920_mahabharata_02.jpgリシケシで撮影された『マハーバーラタ戦記』スチール写真。迦楼奈=尾上菊之助

尾上菊之助 Kikunosuke Onoe
1977年、七代目尾上菊五郎の長男として生まれる。84年2月歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。92年には、祖父梅幸、父菊五郎とともに歌舞伎座で『京鹿子娘三人道成寺』を踊る。96年5月歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精で五代目尾上菊之助を襲名。『伽羅先代萩』の政岡や『摂州合邦辻』の玉手御前など女方の大役や、『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官、『義経千本桜』の狐忠信など家ゆかりの狂言に積極的に取り組み、女方、立役双方で活躍。2007年にはロンドンにて蜷川幸雄演出『NINAGAWA十二夜』で獅子丸、主膳之助、琵琶姫の三役を勤め、演劇賞を多数受賞、09年にはシェイクスピアの母国であるロンドンでの上演を果たした。15年には北京にて『春興鏡獅子』を披露。
今回の『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』では、物語の主人公である迦楼奈(かるな)と、シヴァ神の二役を勤める。

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舞台はインド!? 尾上菊之助が新作歌舞伎への想いを語る。
歌舞伎界のホープ、片岡千之助、17歳。

芸術祭十月大歌舞伎(昼の部)
『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』

10月1日(日)〜25日(水)11:00開演
歌舞伎座
東京都中央区銀座4-12-15
全席指定 1等席¥18,000、2等席¥14,000、3階A席¥6,000、3階B席¥4,000、1階桟敷席¥20,000

●問い合わせ先:
チケットホン松竹 Tel. 0570-000-489 または Tel. 03-6745-0888
www.ticket-web-shochiku.com

photos : TAKASHI KATO, texte : YOKO MAKINO, collaboration : SHOCHIKU

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