attitude クリエイターの言葉
念願の日本初個展! トム・サックスの茶会へようこそ。
インタビュー
茶道を "見立て" た作品で見せる、僕たち人類が向かう未来って?
トム・サックス|アーティスト
プラダのロゴが描かれた便器やエルメスを摸した箱に入ったマックのハンバーガー、NASAやナイキとのプロジェクトなど、スーパーブランドへの批評性と彫刻としての拡張性を持つ作品を発表し続けるアーティスト、トム・サックス。彼は生粋のニューヨーカーでもある。2012年から本格的に茶道を学び始め、日用品や工業用素材で茶道具やしつらえをハンドメイドする、独自の作品世界を構築してきた。
「ニューヨークでは、茶道の嗜みは白人中年男性のエリート意識をくすぐるステイタス。でも、わざと質素に振る舞うスタイルがクールだとか、本質から離れている。純粋性や調和、静謐、敬意といった、人間がすでに知っている概念を自由に解き放つことが元来の茶道の精神ですよね」
今作は、イサム・ノグチの「古い伝統の真の発展を目指す」という姿勢に触発され、もてなしやリスペクトの意味を再定義。富裕層が支えてきた茶道の伝統を自己流で発展させ、誰もが楽しめるように「やりたい放題やってやった」という。そこには、茶道の核となる価値観とそのダイナミズムが未来の世界をよりよくするだろうという信念がある。
「茶道では、価値観の共有によって、ホストとゲストが入れ替わることができる。人新世(新たな地質年代)に突入した現在、地球上ではこれまでゲストだった人類が、環境に影響を与えるホストになり替わった。人類救済と環境保護の両立は難題だけど、茶道の精神である敬意や調和に対して敏感になることで、我々はよいホストになれるかもしれない」
透明性のある手仕事が、僕のアートの命。
とはいえ、実際の現場では「精神より彫刻が優先」と断言する。筋金入りの“コントロールフリーク”である彼が、スタジオクルーたちに徹底させてきた手工芸の掟10カ条に従って、独自のブリコラージュ(寄せ集め)的手法で、茶道の世界を“見立て”た作品たちは理屈抜きで痛快だ。
「吸血鬼が生き血を吸うように、僕にとって手仕事は命。取り上げられたら死んでしまう。制作工程をオープンにする透明性が重要で、剥き出しのビスとか手の痕跡をあえて残している。たとえばiPhoneは歴史的な発明だけど、そこに人類の創造物である証は見えない。アーティストが大企業を超える、唯一のブランディングは手仕事なんだ」
デビュー以来、手工芸の技術とアイデアだけを頼りに活動してきたトム・サックス。その反骨の姿勢とユーモアのセンスは健在である。
1966年、ニューヨーク州生まれ。主な展覧会に、『Spece Program:Europa』イエルバ・ブエナ芸術センター(2016年)、『トム・サックス:Boonbox Retrospective1999-2016』ブルックリン美術館(16年)などがある。
2016年ニューヨークのノグチ美術館からスタートした展示会が、アメリカを巡回した後、トム・サックスがかねてより切望していた日本に到着。すべて手作りで、庭、合板の茶室、鯉が泳ぐ美しい佇まいの池、そしてさまざまな門によって構成される、体感型の空間。『トム・サックス ティーセレモニー』は、東京オペラシティアートギャラリーにて6月23日まで開催中。
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*「フィガロジャポン」2019年7月号より抜粋
interview et texte : CHIE SUMIYOSHI