死の天使を演じた美少年の、エネルギッシュな素顔に興味津々。

ロレンソ・フェロ｜俳優

何食わぬ顔で豪邸に忍び込み、我が物顔でレコードプレーヤーに針を落とす。音楽が鳴った瞬間、彼はしなやかに踊りだす。『永遠に僕のもの』が始まって数分で、観客はこの危険な少年にたちまち興味が掻き立てられるだろう。

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルがプロデュースを務めたこの作品で、主役に抜擢されたロレンソ・フェロ。舞台は1971 年のアルゼンチンで、17歳にして窃盗と殺人に手を染め、逮捕時にはその美貌から「死の天使」と喧伝された実在の人物を演じた。監督のルイス・オルテガは、フェロが演じるカルリートスと、彼と犯罪コンビを組む同級生ラモンとの関係性に、肌に絡みつくようなセクシャルな匂いをちりばめる。映画初出演でこの設定、怖くなかったのだろうか？

映画デビューで主役に、巨匠が見いだした新星。

「カルリートスは、1000の役者がいたら1000通りの演じ方がある人物で、彼は社会というガラスを割ることに意味を感じている。普通の会社員を演じるよりもクールだったし、まるで火星人を演じろと言われるようなものだった。唯一怖かったのは、映画公開時にポスターがブエノスアイレス中に貼られて、もうバスにも電車にも乗れなくなるんじゃないかってことだった。でも蛇が抜け殻を破るように、この映画に出ることは僕にとって次のステップに行く過程だった。この1年で5段階くらい成長した気がするよ」

映画では寡黙な佇まいでスクリーンを掌握していたけれど、取材では椅子から飛び上がらんばかりにエネルギッシュにまくしたてる熱弁家。リズムのある話し方なので、「ラップをやっているのは納得ね」と言うと、「そんなこと初めて言われた。オリジナリティのあるコメントだね」と、突然シャイボーイになったりもする。「韻とリズムに気を配っているけど、メッセージ性のある曲じゃない。SpotifyやYouTubeで『Resfriado』と入れたら聴くことができるから、感想を教えてほしい」

ロレンソ・フェロが「Kiddo Toto」名義でラップシンガーとしてリリースしたアルバム『Resfriado』。

俳優である父親ラファエル・フェロは、彼が子どもの頃、友だちが遊びに来るとピエロの格好になり何時間も笑わせたという。

「そんな父親の姿勢が、知らず知らずに、自分の肌に染み込み血になっていると思う」

昨年のカンヌ国際映画祭デビュー以来、南米のディカプリオと騒がれていることには、「おもしろい！　だって、サッカーの試合に勝ったらメッシだって言われるもんでしょ」

美しすぎる17歳の少年、カルリートスは、呼吸をするように自然体にほしいものは何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。やがて転校先で、荒々しい魅力を放つラモンと出会い、強く惹かれ合う。新しい遊びに熱狂するように犯罪に手を染めていくふたりだったが……。1971年、アルゼンチンで起こった衝撃の実話を映画化。『永遠に僕のもの』は、新宿武蔵野館ほか全国にて公開中。

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＊「フィガロジャポン」2019年10月号より抜粋