終わらない"悲劇の連鎖"を、内側から告発する問題作。

インタビュー

長編デビュー作『レ・ミゼラブル』が第72回カンヌ国際映画祭審査員賞に輝き、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされたフランスの新進監督ラジ・リ。自らが生まれ育ったパリ郊外のモンフェルメイユを舞台に、繰り返される悲劇の連鎖を描いた社会派映画だ。アカデミー賞授賞式後、初来日を果たしたラジ・リ監督に聞いた。

*インタビューには本編のラストシーンに関わる内容が含まれています。本編をまだご覧なっていない方は何卒ご了承ください。

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『レ・ミゼラブル』の冒頭では、フランスがサッカーワールドカップで優勝した時に歓喜に沸いたシャンゼリゼ通りが映し出される。

ほぼすべて、地元で自分自身が体験したこと。

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今年2月に『レ・ミゼラブル』ジャパンプレミアに合わせて来日、登壇したラジ・リ監督。

——この作品の舞台となっているパリ郊外のモンフェルメイユは、ヴィクトル・ユゴーの名著『レ・ミゼラブル』にも登場する土地ですが、いまではすっかり犯罪多発エリアとして有名になってしまっています。この映画はそれを内側からの視点で告発している点で、とても意味深いと思います。あなたはその町で生まれ、育ったわけですが、自分の地域が荒れているという自覚が生まれたのはいつですか?

10代の頃から、この地域は特別だと意識はあったんだ。僕は最初は役者をやっていたのだけれど、1997年に短編映画『Montfermeil Les Bosquets(原題)』を監督した。それはさまざまな問題が複雑に積み重なっている“ボスケ”というスラムを映し出したものなんだ。

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移民や低所得者が多く住むモンフェルメイユに赴任した警官のステファン(左/ダミアン・ボナール)。ベテラン警官のクリス(中/アレクシス・マネンティ)とグワダ(右/ジェブリル・ゾンガ)が率いる犯罪防止班に加わり、町のパトロールを始める。

——『レ・ミゼラブル』のテーマは、映像作家としては23年ほどキャリアがあるあなたがドキュメンタリーでこれまでも扱ってきたものですが、本作をフィクション映画で撮ろうと思った理由は?

ドキュメンタリーとして10本ほど撮り、技術を少しづつ磨いてきたつもりなので、そろそろフィクションに挑戦してもいいかな、と。それに、ドキュメンタリーの場合は、テレビでは放映してくれない。だから無料動画として自分たちで配信するしかなかった。そうするとどうしても観客は限られてくる。僕が訴えたいことをもっと観客に届かせたいというのが、フィクションを作ろうと思った最大の動機なんだ。

『À voix haute(原題)』はドキュメンタリーだけれど劇場公開することができて、20万人くらいの観客を動員した。ドキュメンタリーでそれだけ集められるテーマなのだから、フィクションならもっと多くの人に観てもらえると思った。でも、フィクション映画はプロデューサーを見つけなければならないし、製作資金もドキュメンタリーと比べて高い。簡単ではないけどね。

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モンフェルメイユに暮らす少年イッサ(中央)が仲間たちと起こしたある事件によって、ギャングが絡む騒動へと発展していく……。

——この映画に描かれていることは、ご自身の経験、あるいは目にしたものがほとんどだそうですが、自分を投影しているキャラクターは誰ですか?

すべてのキャラクターに、自分自身の何かを投影しているんだ。ドローンを操っているバズという少年は自分の息子(アルーハサン・リ)が演じているし、いちばん自分が投影されているともいえる。彼がドローンを操っているように、僕自信、子どもの頃からカメラを回していたしね。

——息子さんはすでに、役柄と同じようにドローンを使ったりして撮影を始めているんですか?

そうだね、とっくに撮影しているよ。でも、この映画に出演したことで、役者としての味を占めたみたいで、作り手というより役者になりたがっているけどね(笑)。

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以前ラジ・リ監督自身が住んでいた団地が物語の舞台に

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世界に共通する、いま描くべきテーマ。

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撮影現場でのラジ・リ監督。

——スラムと化している集合住宅で警官が子どもたちに襲われ、階段に追い詰められた時、バズは心配そうにドアの隙間から覗いてたように思いますが。

バズは、あの地区の住民のひとつの視点なんだ。で、あの事件は僕自身が体験していること。何年も前に、あの団地の1階に住んでいたんだけれど、その時にあれと同じような事件をドアの覗き穴から見た。今回、撮影のため数年ぶりにあの建物を訪れて、事件を再現したんだけど、その時に住民にもちょっと聞き取りのようなことをしたんだ。“あの時、あなたはなぜ助けようとしなかったのですか?”って。みんな“助けようとしたら、かえって自分たちが危ない。だから覗き穴から見ていた”と答えていたよ。それが現実なんだ。

——子どもたちが警官さえも襲うそのラストシーンは、衝撃的でした。含みは残していますが、子どもが警官に向かって火炎瓶を投げつけるシーンまで撮ったという噂をカンヌで聞きました。やはり過激すぎるということで、その部分はカットしたのですか?

確かに撮った。でもそれは僕の映画監督としての興味から一応撮っただけで、どちらにしようかと迷っていたわけではないんだ。脚本に書かれていたのは最初から、本編で採用されているほうだよ。

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警官のクリスはパトロール中、煙草を吸っていた少女たちに詰め寄る。

——本作の舞台はモンフェルメイユですが、冒頭は2018年、フランスがサッカーワールドカップで優勝した時に歓喜に沸いたシャンゼリゼが映し出されます。このシーンを冒頭に使用した理由は?

冒頭は、ラストのシーンと呼応しているんだ。ワールドカップでフランスが優勝した時、フランス中がお祭り騒ぎになった。皮肉なことに、人種も宗教も階級も違うフランス人たちが唯一、ひとつになるのが国民的スポーツともいえるサッカーの試合の時。それが終われば、またそれぞれの地域、家に帰っていく。まるでフランス人同士の連帯なんて何もなかったかのような生活が始まる。イッサのような郊外の子も、パリに出ていろいろな人に出会い、かけがえのない歓喜を味わった。けれど、フラストレーションがたまる無秩序の町で生きるなかで、大人たちに反旗を翻し、自分たちで権力を掴もうとするのがあのラストなんだ。

——『ジョーカー』(19年)や『アス』(19年)など、下層階級からの爆発を描いた作品が同時多発的に製作されました。この偶然についてどう思いますか。

それがまさに“いま”だから、だと思う。一触即発で爆発しそうな国や地域は世界中にある。「アラブの春」があったり、ベネズエラやキューバもそうかもしれない。似非民主政治、機能していない体制に対して、人々はうんざりしている。政治家たちの大半はシニカルな詐欺師ということもみんなわかっているからね。

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“ミゼラブル(悲惨)”な世界に生きることを強いられる少年たちが、思わぬ事態を引き起こす。

ラジ・リ Ladj Ly
フランス・モンフェルメイユ出身。役者として、また1995年に友人たちとアーティスト集団「Kourtrajmé」のメンバーとしてキャリアをスタート。97年、初の短編映画『Montfermeil Les Bosquets(原題)』を監督・出演。2004年、ドキュメンタリー『28 Millimeters(原題)』の脚本を写真家JRと共同で手がける。初めての長編映画である本作は第72回カンヌ国際映画祭で絶賛され、審査員賞に輝いた。
『レ・ミゼラブル』
●監督・脚本/ラジ・リ
●出演/ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバールほか
●2019年、フランス映画
●104分
●配給/東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
●2/28(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開
http://lesmiserables-movie.com
© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

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