立田敦子のカンヌ映画祭レポート2019 #12 【カンヌ映画祭】パルムドールは韓国ポン・ジュノ監督に!

Culture 2019.05.26

映画祭12日目。日中は、コンペティション部門で上映作品のリピート上映があります。コンペは基本的にすべて観ていますが、時間の都合がよいラジ・リ『Les Miserables』(英題)とテレンス・マリックの『A Hidden Life』(原題)を再見。両作品とも、1000人規模の大きめの会場だったのですが、満席で割れんばかりの拍手が起こりました。『A Hidden Life』(原題)が約3時間の作品ということもあり、そうこうしているうちに、クロージングセレモニーのレッドカーペットが始まりました。

ポン・ジュノ、エリア・スレイマン、アントニオ・バンデラス、クエンティン・タランティーノらが続々と登場します。プレスルームでは、お気に入りの作品の監督や俳優が登場すると大きな歓声があがります。今年はなんといっても、ポン・ジュノ組への歓声が最も大きかったのが印象的でした。カトリーヌ・ドヌーヴやマイケル・ムーアなど、直接作品には関係ない人も登場しますが、彼らはプレゼンターと予想。

ついにカンヌ受賞作品が発表。

さて授賞式が始まり、各賞が発表に。人気の高かったフランスの新鋭ラジ・リの『Les Misérables』(英題)が審査員賞でタイ受賞と発表があった時にはどよめきが。私もパルムドールならずとも、グランプリなどもっと大きな賞を予想していたのでちょっと意外でした。

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主人公の青年が荒んだエリアの抗争に巻き込まれていく様子を描いた社会派ドラマ『Les Misérables』(英題)。

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#MeTooムーブメント以降、女性監督の注目がさらに高まっていますが、今年は、21作品中4作品が女性監督。そのうち3作品、受賞しています。グランプリを受賞したのがセネガル系フランス人のマティ・デイオップ、叔父がセネガル映画界の巨匠、父が作曲家という芸術一家に育ち、自らもル・フレノワ芸術スタジオで学び、短編や中編で賞を多数受賞している注目の女性監督です。ルックスもチャーミングでクレール・ドゥニの映画に女優として出演したことも。

脚本賞を受賞したのが、『Portrait of a Lady on Fire』(英題)のセリーヌ・シアマ。イタリア系フランス人で、本作にも主演しているアデル・エネルも出演している『水の中のつぼみ』(2007年)がカンヌの「ある視点」部門に選出され、注目を浴びました。長編2作目の『トム・ボーイ』(11年)がベルリン国際映画祭のパノラマ部門のオープニングを飾っています。また、アニメ『ぼくの名前はズッキーニ』(16年)の脚本も手がけるなど、その筆力は確かで本作での脚本賞受賞も納得です。

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18世紀の女性画家とモデルとなる令嬢の恋愛を描いた美しい物語『Portrait of a Lady on Fire』(英題)。

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エイミー・ビーチャムが女優賞を受賞した『Little Joe』(原題)のジェシカ・ハウスナーは、英国期待の新進監督。その独特なスタイルと美意識には業界でもファンが多いのです。次作として、女性版フランケンシュタインの製作が発表されていますが、美しいビジュアルの中に底知れぬ怖さを感じさせる緊張感のある演出が上手い監督なので、期待がもてます。

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植物研究所に務めるシングルマザーを主人公にしたSF『Little Joe』(原題)。

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韓国のポン・ジュノ監督が念願のパルムドールに!

パルムドールは下馬評通り、韓国のポン・ジュノ監督の『Parasite』(英題)。定職のないキム家の人々は、ある日、長男が娘の家庭教師になったことから、裕福なパク家に近づき始める。貧富の格差が社会問題ともなっている韓国の現在を反映しながらも、ポン・ジュノらしいジャンル映画のスタイルを取り入れた社会派ブラックコメディ。笑えるだけでなく、最後には心を動かされるエモーショナルな場面も。想像を超える展開の意外さもあり、監督からは「ネタバレ厳禁」のお願いも。ということで詳しくは書けませんが、パルムドールにふさわしい傑作であることは間違いありません。

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定職に就かないキム一家を舞台にしたブラックコメディ『Parasite』(英題)。

受賞式では、「本当に光栄です。私はフランスの映画から多くの影響を受けてきました。特にふたりの監督、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーとクロード・シャブロルに感謝したいと思います。『Parasite』(英題)は、とても特別な冒険でした」とコメント。

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パルムドールを受賞した韓国のポン・ジュノ監督。©Getty Images

また、授賞式後の審査員団の記者会見で、審査員長のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、『Parasite』(英題)のパルムドール受賞の理由を、さまざまなジャンルを取り込み予期しない展開をみせ、(韓国を舞台にした)ローカルな映画にも関わらず、世界に共通する緊迫した重要なテーマをユーモアも交えておもしろく、しなやかに中立に訴えかけ、さらには映画というメディアの本質をよく理解し、素晴らしく効果的に活かしていました。我々は観た途端に心を奪われ、(その印象は)後になってどんどん大きくなっていきました。そのため、満場一致での判断なったのです」と語りました。

『Parasite』(英題)は、日本でも公開も決定しているので、楽しみにお待ちください!

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以下、受賞リストです。

●パルムドール(最高作品賞)
『Parasite』(英題) ポン・ジュノ監督(韓国)

●グランプリ
『Atlantics』(英題) マッティ・ディオップ(フランス)

●監督賞
『Young Ahrmed』(英題) ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(ベルギー)

●審査員賞(2作品)
『Les Misérables』  (原題)   ラジ・リ監督 (フランス)
『Bacrau』(原題) クレベール・メンドンサ・フィリオ & ジュリアーノ・ドルネレス(ブラジル)

●男優賞
アントニオ・バンデラス(スペイン) 『Pain and Glory』(英題)ペドロ・アルモドヴァル監督

●女優賞
エミリー・ビーチャム(イギリス) 『Little Joe』(原題)ジェシカ・ハウスナー監督

●脚本賞
セリーヌ・シアマ(フランス) 『Portrait of a Lady on Fire』(英題)セリーヌ・シアマ監督

●スペシャル・メンション
エリア・スレイマン(イスラエル) 『It Must Be Heaven』(原題)エリア・スレイマン監督

 

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

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texte:ATSUKO TATSUTA

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