編集KIMのシネマに片想い

『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督、朝まで飲みました?

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日本時間の2020年2月10日の午後。第92回米国アカデミー賞がライブ中継されている赤坂のWOWOW視聴室でジャーナリストたちの間で拍手が起こりました。ポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞監督賞を受賞した瞬間です。プレゼンターはスパイク・リー監督。それまでの間に、『パラサイト~』は、脚本賞、国際長編映画賞をすでに受賞していて、ポン監督は3度目に舞台に上がったことになります。

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ソウルの貧しい人たちが暮らすエリアで、まさに半地下に暮らす、父母、姉弟の4人家族。収入を得る手段にも苦労しているが、演出は不気味に明るい。個人的には姉役のパク・ソダムに興味津々。また、父役のソン・ガンホはすごく好みのタイプです。イ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』(2008年)のラストで、好きな女性の髪を切ってあげるシーンは、『愛と哀しみの果て』(1985年)でロバート・レッド・フォードがメリル・ストリープの髪を洗うシーンを思い出しました。ハナシが逸れましたが、とにかく男らしい「男の中の男」なのです。ソン・ガンホは。

「今日の仕事は終わったかと思っていました……昔、映画を学んでいた時、心に残った言葉があります。Most personal, most creativeという言葉です。これは、マーティン・スコセッシ監督(『アイリッシュマン』)の言葉です。私の映画をアメリカのほとんどの人々が知らなかった時に、クエンティン・タランティーノ監督(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)が私の作品のことを、いつも応援してくれた。クエンティン、愛してます。こういう監督たちと、一緒に並べることだけでもうれしい。オスカー像を5つに割って分け合いたいくらいです。トッド(・フィリップス『ジョーカー』の監督)、サム(・メンデス『1917 命をかけた伝令』監督)、尊敬しています。明日の朝まで、呑み続けます!」
こんなスピーチを、ポン・ジュノ監督はしました。暑苦しい顔なのに(失礼!)、汗ひとつかかず、落ち着いた顔で。

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私が『パラサイト~』を観たのは昨年の8月末。観た後、椅子から立ち上がるのが大変なくらい、ものすごい情報量の作品だなあ……としみじみしました。韓国の貧富の差、格差社会、全世界にいる呑気な金持ちの美しい妻、恐怖政治の生き残りのような人物……社会が持つ問題点をてんこ盛りに盛り込んで、観客が飽きないように、ブラックな笑いとともに映画に組み立てていったのは、ポン・ジュノ監督の明晰すぎる頭脳によるところです。
この作品は、きちんと掴もうとしたら、多大な脳疲労が生じるほど細かな描写で創り手のメッセージが内包されているので、元気な時に観ることをオススメします。
すでに観ている人も多いと思いますが、デザイン物件の一軒家に住まうリッチファミリーと、貧しく半地下でドブ臭い家に住む4人家族の物語で、この貧しい家族が裕福な家族に取り入り、生き抜いていく。まさにパラサイトする人生模様がストーリーの軸です。

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チェ・ヨジュンは可憐な奥様を演じる。

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この家はセットとして造ったものらしいですね。弟は金持ち家の姉の家庭教師に。姉はアートの先生として、幼い男の子に付きます。

ほえる犬は噛まない』(2000年)でポン監督作を観て以来、ずっとファンでした。韓国で実際にあった連続殺人事件をモチーフにした『殺人の追憶』(03年)は、本国韓国でも大ヒット。フランスでもその存在が認められる映画作家となりました。パリ在住のカメラマンが帰国した際に、いま話題なのは「Memories of murder」っていうアジア映画だよ、と語っていたことが思い出されます。

以前、川崎で『TOKYO!』(08年)というオムニバス映画中の「シャイキング・トーキョー」の撮影現場にセットヴィジットして、ポン監督を見かけました。「アクション!」という声が轟き、「いまどき、こんな大きな声で演出する人いるんだなあ」とフシギに感じたことを覚えています。

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監督賞のスピーチが素晴らしかったので、そこから触れましたが、アカデミー賞作品賞を得た際に、出演者(お手伝いさん役の女優でしょうか)が壇上で、「監督のすべてが私は好きです。話し方、演出の仕方、この変な髪形も。何よりそのユーモアが好き。自分自身を笑うこともできる、決して真面目すぎない人なんですよ」と言いました。
ポン監督は、4度目に舞台に上がった作品賞受賞の際には、何も話さなかったんです。

いちばん最初に受賞した脚本賞の時には、
「大変な名誉です。書くのは本当に孤独で寂しい作業です。国のために書くわけでもないのですが、韓国初のオスカーとなりました。妻に感謝します」
ペネロペ・クルスがプレゼンターとなった2度目に舞台に上がった国際長編映画賞の際には、
「外国語映画賞から国際長編映画賞へと名前が変わった、その最初の年に受賞できたことをうれしく思います。この名前はアカデミーの目指す方向を象徴していて、その考えに敬意を示したい。明日の朝まで飲もう!と思ってます」とここで、オールの呑みを宣言していました。

WOWOWのアカデミー賞生中継番組がすごくためになるのは、スタジオで解説してくれる映画ジャーナリストの町山智浩さんやゲストトーカーのコメントです。
流通が巧みに発達していて、人口が1億2千万人いる日本のような国では国内ヒットだけでも十分かもしれないが、人口がほぼ日本の半分である韓国は海外戦略として映画産業を考えていて、国策として10年以上前から映画技術的側面を育てており、ハリウッドと同じレベルで撮影ができるのだそうです。機材もハリウッドレベル。確かにポン監督作には、『グエムル 漢江の怪物』(06年)や『スノーピアサー』(13年)、『オクジャ』(17年)のようなCGも使った大作がありますもんね。

ビターズ・エンドという映画配給会社がポン監督の作品をずっとサポートしているのですが、日本での大ヒットに結びついて、映画好きとしては個人的にも本当にうれしいです。カンヌで何度も賞をとっているダルデンヌ兄弟もビターズ・エンドに仕事を頼みたい、と言います。「いい作品を創って結果を出したい」と願っている映画作家たちに寄り添って、私たち日本の観客に作品を配給してくれているのです。そういう会社が作品のヒットにより少しでも潤ってくれれば!

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若手の俳優たちがアカデミー賞やカンヌ映画祭のような大きな場所で讃えられるのは、映画産業の未来にとっても素晴らしいですよね。

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そうそう、ポン監督とスタッフ&キャストたちは本当に朝まで呑んだんでしょうか。私、編集KIMはアジア映画好きの会合によく参加しているのですが、その中の友人が以前、プサン映画祭に訪れた時、ポン監督と飲む機会があったそうです。ありとあらゆる映画の名前が会話に出てきて、真のシネフィルであり、映画愛の人だったそう。そして、気さくですね、映画祭の観客と、和んで飲んでくれるとは。
きっとLAのどこかで、朝まで飲み続けたのだろう、と予測しています!

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©Getty images

今回のアカデミー賞、作品賞など主要賞にノミネートされた作品を授賞式前にほとんど観ておくことができて、とっても幸せでした。
この後も続けていくつかの作品について書いていきたいと思っています。

『パラサイト 半地下の家族』
●監督・脚本/ポン・ジュノ
●出演/ソン・ガンホ、チェ・ヘジン、パク・ソダム、イ・ソンギュン、チェ・ヨジュン
●2019年、韓国映画 ●132分
●配給/ビターズ・エンド
●全国にて公開中
www.parasite-mv.jp
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