attitude クリエイターの言葉
声なき女性の物語を語る『彼女たちの部屋』。
インタビュー
自由に向かって進む、女性の物語の代弁者。
レティシア・コロンバニ|作家
「4年前、道に迷って、偶然パレ・ドゥ・ラ・ファム(女性会館)という大きな建物の前に出たんです」
それが新作『彼女たちの部屋』誕生のきっかけだったという。
「パレ(宮殿)という言葉に興味を惹かれて調べたら、100年近く前からある欧州最大の女性向け施設。しかも以前は修道院だった。この場所を舞台に、この場所を巡る女性たちを書こうと思いました」
第1作『三つ編み』が世界中の共感を呼んだレティシア・コロンバニ。『三つ編み』では、インド、シチリア、カナダで、それぞれに苦しみを乗り越えて前進する3人の女性を描いたが、2作目では、「フランス社会の中での女性の位置や危うい立場を語ろうと思った」と話す。
弁護士のソレーヌは、燃え尽き症候群と診断され、医師からボランティアを勧められる。代書人として訪れた施設で彼女が出会ったのは……。パリに実在する女性のための施設が舞台。その設立に奔走した1920年代の女性と、それぞれの苦難に立ち向かう現代の女性たちの運命を繋ぐ物語。
『彼女たちの部屋』(早川書房刊)¥1,760
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2作目となる今作は、自身が暮らすパリを舞台に。
パレ・ドゥ・ラ・ファムは、さまざまな理由から住む場所を失った女性たちのための施設。作品では、その設立に奔走した1920年代のブランシュと、現在のパリに生きるソレーヌのふたつの物語が並行する。ボランティアの代書人として初めて施設を訪れ、そこに暮らす女性たちの人生に出会うソレーヌの視線は、そのまま、読者の視線とひとつになる。
「ソレーヌは、読者が自己投影できる女性です。世界中の大都市で、貧困はいまや日常の風景になってしまった。路上に座り込んでいる女性ひとりひとりに物語があることを、私たちは忘れてしまっています。私もこの作品の取材で、彼女たちを巡る危険な状況に目を開かされた」
言葉を持たない女性たちの代わりに代書人として文章を綴るソレーヌには、著者本人の姿も重なってくる。第1作に続き、コロンバニは、まるで世界中の女性たちの代書人を務めるかのように、差別や貧困に苦しみながらも勝利に向かって前進する女性たちの姿を描く。『彼女たちの部屋』の原題『Les Victorieuses』は、勝利した女性たちという意味でもある。
「私はフェミニストを自負しています。女性の声を代弁し、不平等を告発したい。脇役や欲望の対象ではなく、自分を認め、自立し、自由で、強い、完全な人格を持った女性。その、自由を追求する姿勢を語りたい」
第1作が出版された2017年、世界を#MeTooが席巻した。
「#MeToo以降、女性たちはこれまで発言できなかったことを発言するようになった。何世紀も耐えてきたことに、ノーと言う。その動きに、私なりのやり方で貢献することは喜びであり、誇りでもあります」
フランス・ボルドー生まれ。映画界でキャリアをスタート。監督作に『愛してる、愛してない…』(2002年)などがあるほか、女優としても活躍。17年、『三つ編み』(早川書房刊)で作家デビュー。監督として同作の映画化も進行中。
*「フィガロジャポン」2020年10月号より抜粋
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interview et texte : MASAE TAKATA