稲垣吾郎&二階堂ふみが演じる愛のファンタジー、『ばるぼら』について。

インタビュー

芸術家の産みの苦しみにエロスとスキャンダル、そしてオカルティズムまで濃厚につまった手塚治虫作品「ばるぼら」。1973~74年に発表され、いまなおカルト人気の高い原作漫画を、息子である監督・手塚眞が満を持して映画化した。ダンデイな人気作家・美倉洋介役と、彼を翻弄する“フーテン”のミューズ「ばるぼら」役に飛び込んだのは稲垣吾郎と二階堂ふみ。手塚眞が手放しで絶賛する演技で期待に答えたふたりの役者に、難役に挑んだ心境を聞いた。

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二階堂ふみ:ジャケット¥61,600、パンツ¥42,900/ともにロキト(アルピニスム) その他/スタイリスト私物  稲垣吾郎:ジャケット¥330,000、シャツ¥198,000、ベルト (参考商品)、パンツ¥66,000、ブーツ¥148,500/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ (サンローランクライアントサービス)

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――夢とうつつの狭間を描く今回の『ばるぼら』は挑戦作だったと思いますが、どのようなところに惹かれて出演を決められたのでしょうか。

稲垣吾郎(以下、稲垣) そもそもオファーをいただいたのが、ちょうど2年前、新しい環境でスタートを切った頃でした。それまで映画でお芝居の楽しさを教えられ、新しい自分を引き出してもらってきたので、今後も映画をやっていきたいと思っていた時に、20代の頃『白痴』という映画に衝撃を受けた手塚監督から声をかけていただいて。いつかご一緒したいと思ってきたので、そんな思いって届くというか、響き合うんだな、と。これまでの僕のイメージを、良い意味で裏切ることもできる作品だったので、ありがたきチャンスと思いました。撮影も結果的にうまく運び、クランクアップの時、「稲垣さんでよかった」と手塚監督が言ってくださって。何十年も映画化を望んでこられた手塚治虫先生の原作だけに、監督の「稲垣さんでよかった」というお言葉は何よりうれしかったですね。

二階堂ふみ(以下、二階堂) 監督はいつも現場でニコニコと穏やかな空気でいてくださって。もともと原作は読んでいたのですが、名だたるメンバーの中に呼んでいただいたので、自分にできることがあればと思って参加しました。

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――クリストファー・ドイルのカメラにかかると、見慣れた新宿の路地裏がウォン・カーウァイ映画の舞台のように無国籍の匂いが立ち昇り、トレンチコートにブロンドのウィッグを被った「ばるぼら」がブリジッド・リンのように!

二階堂 何気ない風景もドイルの目には違ったものに映っているんだろうかと思うほど、本当に見たこともない絵を撮る方です。普段は陽気なおじさんという感じですが、みんなを気遣う繊細さもあって。クリストファー・ドイルが撮るウォン・カーウァイ監督作に魅了されていました。

稲垣 ウォン・カーウァイ映画も20年以上前に出会い、ドイルにしか出せないアジアの色彩が目に飛び込んできて衝撃でした。彼が撮った映画、彼が監督した映画、そして写真集まですべて好きで、僕の愛する美しいものの原体験にもなっています。

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――芸術家の創作の苦悩の物語であり、ラブストーリーでもあり、ファンタジーでもある。さまざまな視点から観ることができる映画ですが、おふたりが共感された部分はどこでしたか。

二階堂 実在するのかしないのか定かでないミューズといった役はいままでも演じてきましたが、「ばるぼら」は特に想像の産物というか、男性芸術家の願望の象徴なので、フェミニズムの観点からいっても、最後まで理解できなかった部分も多くて。とにかく「まな板の上の鯉」状態でした(笑)。でも、いま考えてみると、そこで私自身が自我を持ってしまうと保てない部分もあったと思います。

稲垣 いま聞いていて、最後まで迷われていた、ってことが意外でしたね。ただ、ふみちゃんに関していえば迷いながらやってたとしても幻想的で、それがまさしく「ばるぼら」に見えた。本人は大変だったかもしれませんが、迷いながらやっていることが魅力的に映る女優って、すごいじゃないですか。自信たっぷりで自我が強くて、苦手意識を持ってしまうような人だっていますよね。無垢な子役のように、もしくは動物のように、欲もなく演じていることが魅力的に映る、それがいちばんだと思いますね。とにかく、ふみちゃんは「ばるぼら」にしか見えなかったし、僕はそれに助けられたというか、引っ張られたというか、巻き込まれたというか。でも僕自身も最後まで、まな板の上で鯉のようにピチャピチャしてた感じもありますね(笑)。

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70年代の手塚治虫先生ご自身を投影されてる部分もあるだろうし、僕自身、共感というより、こういうことってあるのかな、と。特に美倉というキャラクターは、求められるものと自分のやりたいものの狭間で悩みますが、僕ぐらいの歳になって、やっと、これから先の道について思い悩むのはわかります。僕らがやってきたグループも、娯楽を意識してずっとやってきた中で、グループという特性上、このポジションでいなきゃいけない、演じなきゃいけないというものとの戦いだったんです。それを全く否定しているわけではないんですけど、それがあって出来上がった企業みたいなものがSMAPだったと思うし、いまの自分がいると思うんです。でも美倉の異常性欲という部分は、素直にわかるとは言えないですけど(笑)、「ばるぼら」みたいなミューズが現れて、僕を変えて欲しいという思いはゼロではないよね。

二階堂 素直に共感はしづらくて。先ほど自意識って言いましたけど、自意識や自分の感情を、どこかに置いて演らないと成立しない気がして、そう演じたんですが、原作の70年代という時代ならでは、というか、現代だとなかなか生まれてこない物語じゃないかなと。70年代ってカッコいいなと憧れているんですけど、映像や作品を見てもカオスだったんだろうなって想像するんです。

稲垣 そうか、現代なら生まれえない物語なのかな。原作の舞台1973年は、僕が生まれた年なんですけど、時代の空気は70年代だけでなく、80年代でも90年台でも、いまよりずっと自由でしたよね。

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二階堂 現代は許容範囲がずっと狭くなってきているのを感じますね。でも70年代は携帯もないから、他者を遮断しようと思えば遮断できる世の中だったんだなって。

稲垣 携帯、ネットの干渉って大きいよね。おっしゃる通りで、カオスだったから見たくなければ見なくてもいいし、同調圧力みたいなものもないから同調しようがない。だから表現も自由だったと言われていますよね。

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――原作では、美倉が生きる70年代の世界はもっとマッチョでしたが、映画ではより現代に寄っていましたね。

稲垣 原作のマッチョ感はもともとの僕にはないものなので、その点、僕が演じたことで美倉がマイルドになったかもしれない。映画の美倉と「ばるぼら」は原作よりも対等。監督が「この映画はラブストーリーにしたい」と言ったのは、より現代的に描きたかったからかもしれないし、僕もそこは迷いがなかった。むしろいまの時代に合った「ばるぼら」になっていると思いますけどね。

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――二階堂さんは、カオスから生まれたミューズを現代に移し変えるに当たって、彼女の象徴である自由を、どのようにして獲得したのでしょうか。

二階堂 他者が創った幻想の中で生きている「ばるぼら」を演じるのは、自分の感情が先行しないぶん、難しかったんです。だから身体性が結構手助けしてくれてたのかもしれないですね。

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――その姿は美倉を虜にするのも納得で、彼のエゴを粉砕するほど美しかったです。

二階堂 演じる前は躊躇もあったので、女性が「ばるぼら」を肯定的に見てくださるとうれしいですね。でも演りながら、私が普通に恥ずかしいのは何でだろう、って考えると、やっぱり自意識なんですよね。「ばるぼら」は自意識が全くないから自由だし、その自由さが彼女を魅力的に見せているんだと思います。

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GORO INAGAKI 1973年12月8日生まれ、東京都出身。91年CDデビュー。新しい地図として、2018年に『クソ野郎と美しき世界』出演。2019年には阪本順治監督作『半世界』が公開。21年には舞台『No.9 -不滅の旋律-』の再再演も決定した。

――「ばるぼら」ほどの自由を持たない美倉は、幻想、妄想へと走りますが、おふたりに妄想、幻想は必要ですか。

二階堂 10代から仕事をしてきて、現場では常に最年少だったのが、いま、自分は大人になりかけているんだな、と感じます。それにパブリックな場で自分の意見を発言するということは、アクティビストとしての自覚を持たなければならないから、現実で起こっていることを学ばなければいけないし、10代の頃に比べると妄想は圧倒的に減りました。そのぶん、夢では相変わらずぐちゃぐちゃな、言語化不可能な妄想のような夢を見ていて……。最近、小さい頃からそうだったと気づいて。もしかして日中、脳が処理しきれない情報が夢の中で妄想になっているのかもしれないです。

稲垣 僕も口で説明できない夢ばかり。目覚めるとニュアンスや感情や匂いとかしか覚えていない。ずっと同じ景色が繰り返されたり、登場するひとつひとつのピースは子どもの頃から変わらないから、少し怖いと思うけど、ワケのわからない夢を見なくなってしまうのも怖い。僕もふみちゃんと同じく、幼くして14歳でデビューして、ふみちゃんのいまの年齢の26歳ぐらいの頃、どうだったかなと考えながら聞いていたんだけれど。まあ、こんなにしっかりしてなかったことは確かですけど(笑)。

二階堂 当時、このまま仕事を続けていく怖さはなかったですか?

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稲垣 それはやらなきゃならないこと、覚えなきゃならないことが多すぎて、迷ってるヒマもなかった気がするね。どんどんグループが大きくなっていっちゃって。芸能の仕事が特技というか、怖くなかったんだよね。逆に、いまは冷静に、明日大丈夫かなとか、NG出したら恥ずかしいなとか、考えちゃうの。昔は本当にそんなこと考えなかった。無神経、鈍感力があったんだよね(笑)。

二階堂 私はコロナ禍になってから、映画までオンライン中心になってきて、映画の価値とか存在がどんどん変わっていくことが気になって(編集部注:インタビューは2020年9月下旬に行われた)。月千円、二千円払えば、劇場に行かなくても家で手軽に観られるという選択もできるいま、自意識を取り払うのに苦労した『ばるぼら』という作品を観客のみなさんがどのように観てくれるのか、興味が尽きないというか、複雑です(笑)。

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●FUMI NIKAIDO 1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2009年『ガマの油』で映画デビュー。以来今日まで日本を代表する作家主義の映画監督たちに起用され続ける。NHK連続テレビ小説「エール」のヒロインを務め上げたばかり。

『ばるぼら』
人気小説家・美倉洋介は、ばるぼらという名の不思議な女と出会う。浮浪者のようなばるぼらを疎ましく感じながら、魅かれ、やがて深い関係となる美倉。小説の創作意欲、性欲も刺激され、幻想的な状態にふたりは堕ちていくが・・・・・・。
●監督・編集/手塚眞 
●原作/手塚治虫 
●出演/稲垣吾郎、二階堂ふみほか 
●2019年、日本・ドイツ・イギリス映画 
●配給/イオンエンターテイメント 
●11月20日より、シネマート新宿、ユーロスペースほか全国にて公開
©2019『ばるぼら』製作委員会
●問い合わせ先:
アルピニスム
tel:03-6416-8845

サンローラン クライアントサービス
0120-95-2746(フリーダイアル)

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photos : HIROKI SUGIURA(foto), stylisme : AKINO KUROSAKI(G.INAGAKI), ERI TAKAYAMA(F.NIKAIDO), coiffure et maquillage : JUNKO KANEDA(G.INAGAKI), MARIKO ADACHI(F.NIKAIDO), interview et texte : REIKO KUBO

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