香取慎吾と祐真朋樹に聞く!アートな服作りの現在形。

Fashion 2020.10.20

2020-21年秋冬のヤンチェ_オンテンバールの新作がついに発表された。4シーズン目となる今回、コロナ禍での制作とあって、いつもとは違うテンポで進んだというコレクション作り。フィガロジャポン10月20日発売号(12月号)でも香取慎吾が新作を纏った撮り下ろし写真と、香取慎吾とスタイリスト祐真朋樹のインタビューを掲載中だが、こちらではふたりのリアルな声をノーカットのロングインタビューで紹介! 最新コレクションが出来上がるまでのストーリーを、思う存分語ってくれた。

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「長い耳と赤い目がチャーミングでしょ? 構想2年、失敗を繰り返してやっと出来上がりました。バックパックが大好きで、今回は満足できる仕上がり。小さいサイズは女性に使ってもらいたいですね」(香取)。しばしば絵のモチーフに使う黒ウサギがバックパックに。エコファーを配したショルダーストラップがウサギの耳のよう。チェスターコート(11月下旬入荷予定)¥121,000/ J_O×サンヨーコート、パンツ(参考商品)、バックパック(12月入荷予定)¥96,800/J_O×ヴァジック(以上ヤンチェ_オンテンバール)

――今回のコレクションで核となっている香取さんが描いたアートピース『リー』と『プレ』が生まれた経緯は?

香取慎吾(以下香取) なんでこれにしたんでしたっけ? ちょっと前のことなので、思い出さないと……。実は、もういま、来季のための絵を描いている最中で。そうだ、そうだ。本来、いま頃は東京オリンピックとパラリンピックが終わった時期のはずだったので「リボーン」と「デカダンス(退廃的)」をテーマにしました。昨年の暮れにこのふたつのテーマを決めたものの、実際に描く頃には世の中の状況が変わっていて。特に『プレ』のほうはコロナ禍で描き始めたので、ちょっと意味合いが変わってきて、「デカダンス」から『プレ』にテーマ変更したんです。そして『リー』は、J_Oが始まってからのアートピースのコラージュ。これまでのアートが全部入っています。なんとなく人の手が伸びて光を掴もうとしている感じ。今回『リー』も『プレ』も、これまで以上にやりたいことができました。いつもアートピースを柄にするためにアトリエで撮影してデータにするんですが、『リー』に使っているカモフラージュは、コラージュする前に、この絵だけ撮影しておいたほうがいいかなと閃いた。結果、カモフラージュだけをコートの裏地に使えたので、撮影しておいてよかったなと。あと『プレ』のほうはアートピースのスケールを小さくし、リピート柄にしてチェスターコートの裏地に使いました。絵を壊したり部分的に使いたくても、いままでなかなかできなかったけど、今回はトライできたのもよかった。

祐真朋樹(以下祐真) あの裏地の『プレ』は、絵というよりは、完璧にひとつの柄として使うことができたよね。絵を小さくして柄にしてみたりと。『リー』のほうは、コートの内側にカモフラージュを使って、コラージュ部分に使ったアートワークをコートの表にプリントして、アートピースを解体して使ってみました。コレクションも回数を重ねて、そういう遊びもできるようになってきたよね。いままでは絵をそのまま使わなくてはいけないって気持ちがあって、その絵そのままを生かすことを考えていたけど、もうちょっと客観的に見て、この絵を小さくしてみようとか、分けてみようとか、そういう進歩が今シーズンはあった。

香取 話しているうちにだんだんと思い出してきた。『プレ』の絵の白い部分は、日比谷公園の噴水の鶴の像がモチーフ。この絵のために、日比谷公園まで像を見に行きました。左右にある白い部分をくっつけると、1羽の鶴になるんです。そして、赤い部分は帝国ホテルにあるフランク・ロイド・ライトの照明が着想源。なので、J_Oのショップがあるエリアに因んだものがヒントです。『リー』は、J_Oが誕生して3年ってことで、再び生まれ変わるために、これまでのアートを切って貼って壊して、新しく作ったもの。そして『プレ』は、朽ちた黒い花の美しさや、そこに光に向かって羽ばたく白い鶴の姿を描きました。鶴を選んだのも、本来、世界中から多くの人が集まるはずのオリンピックとパラリンピックを経た、いまだったわけで。そんなイメージで描いていたから、途中で一回この絵はやめようかなと思った時もあった。

祐真 でも、結果よかったんだよ。鶴が上を向いて羽ばたいていて、未来に希望があるって感じもして。

香取 ちょうどNHKの番組「songs」の取材、撮影を受けていて、その時に描き始めたのが『プレ』。番組の映像にも映っています。生花をいっぱい用意して、それを置いてスプレーしたら花の跡が残るんじゃないかと思って。トライしてみたら、全然、残んなくて。それから、アトリエでも何度も挑戦したんだけど、全然ダメで。最終的に絵にある黒い花は、絵の具を素手で取り、自分で描いたものです。5~10分で花は描き上げました。それまでスプレーを使ったりして、何日も完成しなかったのに、結局、速攻で花は全部が描き上がって。ちょっと離れてその絵を見てみたら、素晴らしいじゃないか! って。そのことはすごく覚えています。本当の花を買ってきて、スプレーをかけていたのはなんだったのかと(笑)。

祐真 まあ、それがあったから、この花が生まれたんだしね。

香取 そうね。あれがあったからだし、少しだけ、スプレーした部分がシルエットみたいに残っています。

――J_Oで使うアートピースのテーマや方向性は、どのように決めていますか?

香取 最近では、そのあたりは祐さん(祐真朋樹)とスタッフが主導でテーマを出してもらって、僕がそれに沿って描く流れになっているよね。

祐真 今回の『プレ』に関しては、僕らが提案したデカダンスのイメージに近い感じが上がってきたなと思いましたね。『リー』に関しては、いままでの作品を重ね合わせたらおもしろいかなって。まったく違うイメージに仕上がって、こんな絵、過去にあったっけ? ってアートピースになりました。まるで初めて見るような気分になった。まさしくリボーンですね。

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「作っている時には、全体に柄を入れるのは派手すぎるかな? と思っていたけど、進むうちに、これはいける! と確信。僕は2色とも入手する予定」(香取)すべてのコートがアートの配置が異なる一点もの。香取:バルマカーンコート(10月下旬入荷予定)¥143,000/J_O×サンヨーコート(ヤンチェ_オンテンバール) シャツ¥12,273、パンツ¥12,273、ブーツ¥22,728/以上コス(コス 銀座店) 女性:カーキのコートは吸湿発熱素材を挟み込んだ仕様で、着用時に温度の上昇を体感できる。バルマカーンコート(10月下旬入荷予定)¥154,000/J_O×サンヨーコート、ニットワンピース¥38,500/J_O×ウェイ(ともにヤンチェ_オンテンバール) ブーツ¥127,000/ジャンヴィト ロッシ(ジャンヴィト ロッシ ジャパン)

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あらためてファッションが好きだと気づいた。

――今季はコロナ禍でのコレクション作りとなりましたが、何かクリエイションにおいて影響を受けたことはありましたか?

香取 それはめちゃめちゃありましたよね。今年の3月頃は、何も進んでないのに、すべてストップしてしまっていて。動けるようになってから一気に仕上げるっていうか、いつもより短い期間でここまできた感じで。

祐真 そうだね。だからアイテム数もいつもより減っているし、いろいろと大変でした。

香取 6月くらいまですべてがストップしていて、7月からようやく着手できたのですが、これまでもずっと一緒に組んできた人たちとのコラボレーションなので、そこは乗り切れましたね。会えない、話もできない期間にも、その限られた期間でクオリティを下げることなく、できることをそれぞれが考えていたので、なんとかなりましたね。

祐真 みんな踵はいつも上がっていて、すぐにでも走り出せる状況でいてくれたんで。

香取 J_Oがデビューして3年。同じスタッフたちと取り組んできたからこそ、今シーズンのコレクションを作ることができたんだと思います。1年目だったら、今回のコレクションは作れなかったかもしれない。

祐真 当初は、今回はコロナ禍で難しいようなら1点だけでも何か作ろうかとも話していたんです。でもみんなの協力があって、コレクションが発表できてよかった。

――コロナ禍の今季は、どのように共同作業を進めたのですか?

香取 ネットでのリモート会議とか。サンプルだけ送ってもらって共有して、それを手に画面を通して話をしたりもしました。J_Oの服作りはいつもそうなんですけど、このコロナ禍でも比較的パッパと新しいことが決まって。

祐真 今回はこれまでにあったダブルとかベルト付きのものではなく、楽に着られるコートを作りたいっていうのがあって。それはなんとなく、ステイホームのムードと関係があったかも。いまは家の中にいることが多いけど、外出する時にパッと羽織れるコートがあったらいいよね、みたいな感じで。

――ステイホーム中、おふたりもファッションとの距離感に変化はありましたか?

香取 自粛期間、家で過ごした間は、正直、少しファッションから離れました。でも、いま、また外出が少しずつ増えて、服を選ぶようになって、あらためて僕はファッションが好きなんだなって気づきました。

祐真 数カ月、自宅で過ごしていて、自分がどんな服を持っているのかをすっかり忘れてしまっていたのも怖かったですね。あれ? こんな服持ってたっけ? って、いま思ったりしています。ちょっと出かける機会も増えてきて、服を着るとやっぱり楽しくなって、また新しいものがほしくなってきました。ステイホームの反動で、ものすごく服がほしい衝動に駆られています(笑)。やっぱり持っている服を忘れてしまっているのが問題で、またすでに持っているようなものを買ってしまうんですよ。とはいえ、まだおしゃれして出かけて行く場所はあまりないけど(笑)。

香取 これからって感じはありますよね。少し外出する機会があって、服を楽しみたいと思っても、日本の夏はとても暑かった。でもやっと寒くなってきて、うれしいです。

――自粛期間は、アトリエで絵を描いたりされていましたか?

香取 いや、ほとんど描いてないかな(笑)。それこそ、J_Oのアートピースを描いていたかな。実は、あの頃のことはあんまり覚えてないですけど、絵を描きたいってムードじゃなかった気がする。仕事再開は、「明日なの? 」「来週なの? 」「いつなの? 」って気持ちのままでずっと過ごした感じで。そしたら、もう1カ月経っていた、みたいなね。その間にすごく時間がありそうだから絵を描こうっていうより、いつ再開するの? いつになったら昔みたいに出かけられるようになるの? って考えている間に、時が経ったって感じです。長い自由時間のような意識はなかったですね。外にも出られないわけだし。

祐真 僕は、ずっとNetflixとか観ていたかな。あと料理していたね。そんなことくらいしかすることなかったよね、本当。

香取 その頃は、新型コロナウイルスの感染が広がる前の生活にいつ戻れるの? って考えていたから、辛かったんでしょうね。いまは、もう前の暮らしには戻らないことがわかってきたし、どう新しく進んでいくかを考えなくてはいけない。もちろんいままでどおりで残るものもあるけど、違う道ができて、それこそ自分だけじゃないし、この国だけでもないし、この地球みんなが新しい道を歩み始めるということをやっと認められるようになってきました。「もう10月だよね」みたいな感覚を、世界中の人たちと共有できることってほかにはないですよね。

――そんな時だからこそ、ファッションにできることはなんだと思いますか?

香取 リモートワーク全盛期の時は、このままリモートを意識した服に本気でみんながシフトするのかと思ったら、正直「嘘だろ?」となりましたけどね(笑)。リモートでパソコンの画面に映ることだけを意識した服が流行り始めた時、ええ! そんな社会になっちゃうの? みんなパンツもスカートも要らなくなるの? と危機感を感じました。4月、5月くらいでしたかね。危なかったですよね、あれは。

祐真 流行りってすごいよ。日常ではなく、画面の中の自分が映えることが大切ってね。それはそれですごい考えだなと思ったけど。室内着に革命が起きたんだよ。

香取 アイテムが増えたとも考えられるよね。たとえばマスクとか。あのリモートで好まれる服が流行り出した時は、危機を感じたけど、いまとなると定番化するアイテムは増えるんじゃないかとも思う。でもこんなに世界が大きく変わっても、ファッションへの欲望と、そこに新しい何かを身に纏いたい欲望は消えないと思うし、消えてほしくないな。

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香取慎吾が描いた『リー』と『プレ』のアートをプリントしたオリジナルマスク各 ¥2,200/ヤンチェ_オンテンバール

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ファッションは人を想うことに繋がっていく。

祐真 ちょうど1カ月前に、東京で開催されたルイ・ヴィトンのメンズファッションショーに行ったんですが、実際ショーに行くなんて1年ぶりくらいで。やっぱりじっくり考えて、着ていく服を選んだりするのっていいなと思ったね。会場に来ていたほかのゲストも同じだったんじゃないかな。特別なオケージョンを考えて服装を選ぶことも、コロナ禍ではあまりなかった気もしていて。ブランドのショーやパーティといったイベントは、これまで日々開催されていて、さして珍しい機会ではなくなっていたんだよね。この前のルイ・ヴィトンのファッションショーは、その失われていた特別感みたいなものを思い出しましたね。やっぱりファッションのこういう面っていいよね、と思った。いままでは当たり前だと思っていたショーに行くコーディネートを熟考するのも楽しかったし、スペシャルな時間っていいなと思いましたね。

香取 いまの祐さんの話を聞いていると、ファッションって人を想うことに繋がっているなと思って。今日はどこに行くからとか、この人に会うからとか、きっとあんな人たちに会うんじゃないかってことで服を替えたりとかね。自分が着たい服を着るのはもちろんだけど、その先も考えて選んでいるんじゃないかな? やっぱりその服を着ている自分を見てほしかったり、見られる意識がどこかにあるから。

祐真 リモートじゃ無理だよね。それは僕もすごく感じます。

香取 僕がいま困っているのは、サングラスができないこと。みんなマスクするでしょ。マスク、サングラスに帽子ってさすがに多すぎる感じがして(笑)。

祐真 わかる! これじゃタクシーも止まってくれないかもな、みたいなね。

香取 ファッションとしてのメガネも大好きだけど、最近は着ける機会もめっきり減ってきた。これはなんとかならないもんかと。帽子も好きだから被りたい、しかもマスクもしなくちゃ。そうなっちゃうと、マイケル・ジャクソンか稲垣吾郎みたいになっちゃう(笑)。

祐真 マスクしてると、メガネは曇っちゃうしね。

――今シーズンは、ミラノコレクションのナビゲーターを務められているそうですね。

香取 そうなんです。キックオフの動画に出演させてもらいました。

祐真 慎吾ちゃんが登場することをきっかけに、ミラノコレクションで開催されるファッションショーがネットでライブ配信されることを知って観てくれる人も増えるだろうね。

――ヤンチェの未来はいかがですか?

香取 アイテムとしてはほしいものがたくさんあるし、リモートワークが続いて服が売れない状況だからこそ、あえて服を作りたいとも思う。どのブランドもコレクション、そして発表形式をどうしようと試行錯誤しているいま、答えはどこにもなくて。世界中が模索しているからこそ、もしかしてチャンスなんじゃないかと。そこに臆することなく、なんでもやってみてよい時なんじゃないかな。ファッションを通じて、このコロナ禍の波をひとつ越えてふたつ越えて、ニューノーマルの世界も楽しくなってきていますよ、僕は。それこそ、ステイホームが続くから要らないと言われても、あえて靴を作ろうかなとか。家を飛び出して、素敵な靴がほしいなとも思うし。ファッションショーもいつかやりたいね、とは、話しています。

祐真 そうよ、夢は大きく!

●問い合わせ先:
ヤンチェ_オンテンバール
東京都千代田区内幸町1-1-1
帝国ホテルプラザ東京1F tel:0570-022-771
営)11時~19時 不定休 
https://j-o.tokyo
※各アイテムの発売日は公式HPでチェック

コス 銀座店(コス)
tel:03-3538-3360

ジャンヴィト ロッシ ジャパン(ジャンヴィト ロッシ)
tel:03-3403-5564

 

photos : YOSHIYUKI NAGATOMO, stylisme : TOMOKI SUKEZANE, interview et texte : TOMOKO KAWAKAMI, coiffure : HIRO TSUKUI (PERLE / S.KATORI), maquillage : MIKI (PERLE / S.KATORI), coiffure et maquillage : YOSUKE NAKAJIMA (PERLE / WOMAN)

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