映画『半世界』のいい男たち、取材現場から。 渋川清彦の包容力。
Culture 2019.01.21
2019年2月15日より公開される映画『半世界』。本作に出演する、稲垣吾郎さん、長谷川博己さん、渋川清彦さん、阪本順治監督の、いい男たち4人にフィガロジャポン本誌3月号掲載記事のため取材した際の舞台裏を紹介。互いの印象も個別インタビューで語ってくれた素敵な男たち、第3回目は、作品に温かみを与える光彦役を演じた渋川清彦さん。
カーディガン¥181,440、中に着たシャツ¥149,040/ともにロエベ(ロエベ ジャパン カスタマーサービス)
「え、昔会ってましたか? そんなところで!」
阪本監督もインタビュー中に「なんとも可愛らしい人物」と渋川清彦さんのことを表現していたが、その気持ちにシンパシーを覚える。同じ場にいる人を寛がせてくれる包容力のひと。先の渋川さんの言葉は、モデル時代の渋川さんが活躍していた媒体の編集者(筆者の友人)と一緒にいた時に、プライベートだったのに気さくに話しかけてきてくれたエピソードを伝えた際の反応だ。
撮影前、スタイリストと一緒に服を選んだ。
「こんなにかっこいいものがたくさんある中に、コレがあったらコレしかないでしょ!」。ボトムが見せられず残念だが、おしゃれなパジャマルックのようなロエベだ。ユーモアのあるセレクトも人柄を思わせた。
「言葉かな……言葉にするとな……」と、“言葉で表現すること”への不安を正直にこちらに伝えてくれる。それはなぜなのだろうと観察していると、阪本監督の演出を受けるうえで、言葉で伝えることの大切さ、言葉を持っていることへの尊敬が、心の奥深くにあるからだと思った。
ただし、インタビューを終えて、渋川さんは映画のこと、共演者のこと、すべてを正しく掴んでいる、と思った。言語にするだけが、“他者に伝える表現”であるわけではない、と思わせてくれる、とことん本質的な人。
---fadeinpager---
今回のインタビューで4人に共通に尋ねたのは、今回のキャスティングの監督の意図について、どう思ったか。阪本順治監督のキャスティングのポリシーは、俳優の中に、演じてもらう役柄のエッセンスを見出すこと。決して、意外性を狙って稲垣吾郎さんにニット帽姿の炭焼き職人を充てたのではなく、その人の中にある何かに役柄との共通項を見出している。その阪本監督の意図を深く理解しているのは渋川さんだった。
「画面に必ずその人の人となりがにじみ出る。断片だけでも。だって、まったく消せるわけではないですから」とインタビュー中に語った。だから、画面に映る渋川さんの魅力は、やはり渋川清彦という人物の断片。光彦役も、言葉で伝えるのではなく、佇まい、心の温かさが、じんわり伝わってくるような‥…。
阪本監督の過去の作品ではどれが好きか、の問いに対し、「やっぱり『どついたるねん』かな。創り手の初期衝動が好きなんです」。現在の、上質な日本映画のものすごく重要な役柄が渋川さんになる理由も、こういう感慨にあるのではないか、と思った。
インタビューが終了し、同日直後の取材だった阪本監督のポートレート撮影に向かったが、渋川さんはインタビュアーと時間が過ぎても談笑していた。
監督を撮影している場所に丁寧に挨拶までしにきてくれた渋川さん。この後、ラジオ高崎でパーソナリティを務める番組の収録のため、地元群馬へ向かった。
『半世界』
●監督・脚本/阪本順治
●出演/稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦
●2018年、日本映画
●120分
●配給/キノ・フィルムズ
●2月15日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開
©2018『半世界』FILM PERTNERS
ロエベ ジャパン カスタマーサービス
tel:03-6215-6116
photos : MASAHIRO SAMBE(portrait), stylisme :TOSHIHIRO OKU