映画『私をくいとめて』にはインテリアの魔法がかかってる。

インタビュー

脳内に作り出した相談役の「A」とともに、おひとりさまライフを謳歌する31歳のみつ子。「A」との蜜月関係を崩しにかかったのは、まさかの近所に住む年下男子とのリアルラブだった。いま時な女子の感覚を独自のタッチで描いた綿矢りさの小説『私をくいとめて』の映画化に挑戦した大九明子監督は、登場人物をより鮮明に映し出そうと、美術&装飾をインテリアスタイリストの作原文子に依頼。ふたりが表現した世界から見えてくる、この作品の魅力とは?

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おひとりさまライフを満喫する主人公みつ子をのんが演じる。

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大九明子監督(左)とフィガロジャポンでもおなじみのインテリアスタイリスト作原文子(右)。みつ子が暮らす東京という街を象徴するように、目まぐるしく変化する渋谷にて。photo : MEGUMI SEKI

色に満ちた原作のイメージを、映像にするために。

──大九監督はなぜ今回、映画専門の美術監督ではなく、スタイリストの作原さんを指名したのでしょうか?

大九明子(以下、大九) 確かに私はほぼ同じスタッフで撮影組を構成し、作品づくりをすることが多いのですが、『私をくいとめて』の原作を読んだ時に、色に満ちているというか、色がスパークしているような情景が目に浮かんだんです。それを映像にしていくには、いつもとは違う手法でシーンを作らなければと直感的に感じました。

作原文子(以下、作原) 2007年の大九監督の作品『恋するマドリ』を少しお手伝いさせていただきましたが、映画美術を本格的に手がけるのは今回が初めてです。普段手がけている広告や雑誌の仕事は、ある瞬間を切り取って表現することが多い世界ですが、映画作品には時間軸が存在します。常にシーンの前後関係を意識する必要がありますし、さまざまなパターン、あらゆる設えを想定して準備しなければいけないので、かなり緊張しましたね。

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作原文子が手がけたみつ子の部屋。さまざまなディテールがみつ子の人物像を雄弁に物語る。photo : NORIO KIDERA

──監督から作原さんには、どのような指示を出しましたか?

大九 これはすべてのスタッフに共通したやり方ですが、脚本をお渡しするだけなんです。カメラ、照明、録音、それぞれの専門性に応じて読解し、提案してもらう。作原さんには、シーンごとにどのようなセッティングにするのかをご自身で考えてもらったうえで、私を含めた全員にプレゼンしてもらいました。

作原 当初は段階的に細かく条件を聞いて決めていくのかなと思ったので、「えっ、私が全部決めていいの!?」と最初は戸惑いました。でも、主人公の性格や行動様式を自分なりに読み解き、迷った時は監督に相談しましたね。

大九 「主人公のみつ子は、コーヒー派? それとも紅茶派?」と作原さんから聞かれた時は、そこまで考えてくれているのかと感動しました。

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年下の営業マン・多田くん(林遣都)に恋をしたみつ子。脳内相談役「A」はみつ子を励ますけれど……。

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みつ子はコーヒー派か紅茶派か、ぜひスクリーンで確かめたい。photo : NORIO KIDERA

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異なる要素を組み合わせ、キャラクターを際立たせる。

──主人公の「みつ子」の人物像を、それぞれどのように捉えていますか?

大九 私独自の感覚で原作を読解し、素直に表現しています。特定のキャラクターを設定したつもりはないので、ある種、みつ子はどこにでもいる普遍的な人なんだと思っています。「自分の中に住む相談役と会話をする」なんて説明すると変わった人物像に映るかもしれませんが、自問自答したり、心の声に問いかけることって、意外と誰でもしていそうな気がしますからね。

作原 衣装打ち合わせの時に、みつ子が着る予定の服を見て、ユニセックスな印象を受けました。洋服や部屋について何も考えていないのではなく、無造作でシンプルなところもあれば、ときにこだわりというか、偏った好みを持っている人のように捉えています。

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鉢植えの花の名前が書かれたタグを無造作にクリップで留めているところにも、みつ子らしさが表れているよう。photos : NORIO KIDERA

──作原さんが手がけたみつ子の部屋の、インテリアのポイントはずばり何ですか?

作原 「〜系」というような、定型のスタイルはありません。デザインが気になって何気なく手元に置いているショップカードやパッケージを壁にランダムに貼ってみたり、異なるテイストのラグを2枚重ねたり、カーテンの前にスカーフを垂らしてみたりする。異なる要素を意識的に重ね合わせながら、みつ子独自のキャラクターを際立たせています。

大九 31歳の女性って、シンプル&スタイリッシュに身の回りを整えるよりも、気になったものを無意識に取っていくので、図らずも家がモノであふれてしまう。そんなリアルな物量は表現したかったです。

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壁にはショップカードやポストカードをコラージュ。photo : NORIO KIDERA

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枕元のスピーカーはティヴォリ オーディオ、ベッドに敷いたチェック柄キルトはザ テイストメイカーズ アンド コーのもの。『私をくいとめて』公式サイトには、みつ子の部屋のインテリア情報も掲載。

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日本で再現した、ローマの部屋の空気感。

──いっぽう、みつ子がローマに住む親友を訪ねるシーンは、どのように作ったんでしょうか?

大九 当初はイタリアロケを予定していたのですが、奇しくも新型コロナウイルスの非常事態宣言と重なり、急遽国内で撮影することに。ローマを日本で再現しなければならなかったので、作原さんにはかなりの無理難題をお願いしました。

作原 国内でロケ地を探すのに手こずりましたが、最終的には趣のある暖炉が付いた素敵な部屋を見付けることができました。ヨーロッパの人たちは、代々家具を受け継ぐことも多いので、家具はヴィンテージを中心に。映像でははっきりと見えませんが、柱にはイタリアのブランド、リチャード・ジノリの食器を飾ったり、棚の中にイタリア語の本を並べたりしたことで、本当に現地で撮影したような空気感にまとめられたと思います。

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みつ子はローマへ嫁いだ親友、皐月(橋本愛)を訪ねる。日本で再現したローマの部屋にも、こだわりが詰まっている。photo : FUMIKO SAKUHARA

──撮影を振り返って、どんな思い出が残っていますか?

作原 映画製作には驚くほど多くの人々が関わっていますが、そのひとりひとりが正真正銘のプロ。それだけに互いを尊重し、敬意を払って仕事しています。おかげで勝手違いの私も、きちんと受け入れていただいた。広告も雑誌も、リアルな状況を演出で作り出していく世界ですが、映画はさらにそれをもう一度本物に戻すような仕事だと思います。

大九 「本物に戻す」って素敵。いい言葉ですね。それがわかる作原さんは、映画に向いていると思います。もっと映画の仕事をしていただきたいです!

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フィガロジャポン本誌でも、人の気配や温もりを感じさせてくれるスタイリングが人気の作原文子と、大九明子監督が丁寧に作り上げた美術にもぜひ注目してみて。photo : NORIO KIDERA

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和やかな雰囲気で取材と撮影に応じてくれたふたり。photo : MEGUMI SEKI

大九明子 Akiko Oku
1999年、『意外と死なない』で映画監督デビュー。以降、『恋するマドリ』(2007年)『東京無印女子物語』(12年)『でーれーガールズ』(15年)などを手がけ、17年に監督・脚本を務めた『勝手にふるえてろ』では、第30回東京国際映画祭コンペティション部門・観客賞をはじめ数々の賞を受賞。近年の作品では映画『美人が婚活してみたら』(19年)、テレビ朝日系ドラマ「時効警察はじめました」(19年)、テレビ東京系ドラマ「捨ててよ、安達さん。」「あのコの夢を見たんです。」(ともに20年)、映画『甘いお酒でうがい』(20年)などがある。
作原文子 Fumiko Sakuhara
インテリアスタイリスト。岩立通子氏のもとでアシスタントを経験した後、1996年に独立。雑誌やカタログ、テレビCM、企業エキシビション、ショップディスプレイ、舞台などのスタイリングを中心に活動。2007年に『恋するマドリ』で初めて映画美術に関わる。手がける雑誌は「フィガロジャポン」をはじめ女性誌、インテリア誌、男性誌と幅広く、さまざまなテイストをミックスした独自のスタリングは、男女問わず定評がある。空間プロデュースやブランド・店舗ディレクションなどを手がける「Mountain Morning」主宰。
www.mountainmorning.jp
『私をくいとめて』
●原作/綿矢りさ
●監督・脚本/大九明子
●出演/のん、林遣都、臼田あさ美、片桐はいり/橋本愛ほか
●2020年、日本映画
●配給/日活
●12月18日より、テアトル新宿ほか全国にて公開
https://kuitomete.jp
©2020『私をくいとめて』製作委員会

interview et texte : HISASHI IKAI

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