attitude クリエイターの言葉

オランダの現代美術家が目指した、「建物としての自画像」とは?

インタビュー

心の脆さと向き合い続け、災禍から学び続ける大切さ。

マーク・マンダース|アーティスト

この春いちばんのうれしい報せは、オランダ出身の現代美術を代表する作家マーク・マンダースの個展が予定どおり開かれるというニュースだ。好評を博したミヒャエル・ボレマンスとの二人展の感動も覚めぬうち、再び彼の作品に出合えるのだ。

18歳の時、彫刻やオブジェの配置によって架空の芸術家としての自身の人物像を構築する「建物としての自画像」という構想を得て、以来30年以上にわたり制作に取り組んでいる。

「その頃、道で出会ってひと目惚れした女性と初めて恋をしたんです。両親と同居していたので、自分だけの建物を作りたかったんですね」と、当時の創作のきっかけを語る。

「『作者の不在』をテーマに、建物のすべての部屋で同じ瞬間に作家が立ち去った後のように、未完成のまま残されたものを緻密に配置しています。彫刻の表面をひびの入った粘土のように見せることで廃墟に残されたものが持つ脆さを表現したい。実際はブロンズなど強度と重量のある素材なので、両面性を持っています」

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国内美術館初の大規模な個展となる本展では1000㎡の1フロア全体をひとつの作品として構築する。本邦初公開の数々の代表作のほか、長いコリドーでのドローイングのインスタレーションやこよなく愛するスタジオの空間を再現した部屋の展示も出現する。『マーク・マンダース マーク・マンダースの不在』は、3月20日より6月20日まで東京都現代美術館にて開催。

作品を作ることは、時間を止めること。

少年時代、大工だった父から、世界に新しいものを届ける特別な瞬間の喜びと誇らしさを教えられた。

「ものを作る時、何度失敗してもいいから諦めずに挑戦してごらんと言われました。いまも多くの問題を抱えるたびに思い出しています」

そう語る彼自身も、ふたりの息子の玩具はすべて手作りで、道具まで自作している。以前見せてくれた、美しく精巧な町の模型で埋め尽くされた子ども部屋の写真は忘れがたい。

「子どもたちとも一緒に試行錯誤しながら、ものづくりを楽しんでいます。私の作品はメランコリックな印象を与えますが、創作する人生は楽しい。作品制作によって時間を凍結し、残すこともできます」

マンダースの作品世界は謎めいていて、心を鎮めて向き合うほどに割り切れないアンビバレンスが際立つ。

美術史に連綿と受け継がれ、いまだ解明されない「人間の心」という主題は、彼の創作活動に深いモチベーションをもたらしてきた。

「私の母は、第二次世界大戦中に最初の赤ちゃんを亡くしてから精神を病んでしまいました。人間の脳や心の脆さを知り、一度は心理学者か精神科医になろうとも思いましたが、芸術家として人間の精神を学ぶようになりました。災禍は被害者を生むこともあれば、学びも生み出す。語り口はそれぞれですが、芸術という手段で、常に何かを与え続けることができると考えているのです」

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マーク・マンダース/Mark Manders

1968年、オランダ生まれ。第55回ヴェネツィアビエンナーレ(2013年)のオランダ館代表を務める。国内では20年度、金沢21世紀美術館の『ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース ダブル・サイレンス』が注目された。

*「フィガロジャポン」2021年5月号より抜粋

interview et texte :CHIE SUMIYOSHI

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