コール・ド・バレエの昇級コンクール、男子の部が開催された。上がった7名は?

Paris

パリ・オペラ座バレエ団コール・ド・バレエの昇級コンクールが、10月29日と30日に開催された。今回はカドリーユからコリフェ、コリフェからスジェのダンサーが対象だった。男女ともカドリーユからコリフェは4席、コリフェからスジェは男性3席、女性2席。なおスジェからプルミエについては、女性については空席がないためにコンクールはなし。男性についてはプルミエ・ダンスールに1名の空席があるそうだから、これは任命制でということだろうか。

課題曲は今回も昨年同様に男女とも各クラスについて、クラシック作品、ネオクラシック系、コンテンポラリーという3種からの選択制だった。10月29日の午前・午後に行われたのは男性の部だ。この結果、来年1月1日から新しい階級に上がるダンサーは以下のとおりである。

コンクールの日はオーケストラ席に座るのは審査員のみ。ステージ上のダンサーの緊張はいかに? photography: Mariko Omura

男性|カドリーユからコリフェ(参加者13名/コリフェ4空席)
課題曲
A. ハロルド・ランダー『エチュード』からマズルカ(9名が選択)
B. セルジュ・リファール『レ・ミラージュ』から若者のヴァリエーション(3名が選択)
C. トリシャ・ブラウン『O złożony / O composite』からマニュエル・ルグリのソロ(1名が選択)

昇級決定 4名

  1. Hector Jain(ヘクター・ジャイン)
    課題曲A/自由曲 ピエール・ラコット振付『マルコ・スパダ』第2幕
  2. Samuel Bray(サミュエル・ブレ)
    課題曲C/自由曲 トワイラ・ソープ『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』
  3. Corentin Dournes(コランタン・ドゥルヌ)
    課題曲A/自由曲 ルドルフ・ヌレエフ版『白鳥の湖』第3幕王子のソロ
  4. Martin Paul(マルタン・ポール)
    課題曲A/自由曲 フレデリック・アシュトン振付『リーズの結婚』第1幕コーラスのソロ

カドリーユは25名中、13名が参加。中にはコンクールの雰囲気に気圧されたのか、実力を発揮できなかったようなダンサーも何名かいたが、その中で誰の目にも昇級間違いなし!と思わせるパフォーマンスを課題曲・自由曲で見せたのが、昨年入団しコンクールに初参加したヘクター・ジャインだ。1位で昇級を決めた。いまから約10年前にポール・マルクがコリフェに上がった時のコンクールを思い出させるように、群を抜いていた彼。フロリダ生まれのアメリカ人で、モナコ王立プリンセス・グレース・アカデミーで5年間学んでいる。2006年10月生まれというから20歳になったところだ。2019年YMGP第3位、2025年のローザンヌ・コンクール優勝者で、2025年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。コンクールでは技術面での素晴らしさに加え、音楽性、ステージ上での存在感、時間の使い方の余裕、舞台空間に広がる動きの大きさ。そして何よりも踊る喜びが身体からあふれ、見る者の心を強く惹きつけ彼が描く世界へと誘うのだ。入団以前から多くのバレエコンクールに出場しているので、ステージ経験は豊富である。コリフェに上がってから、どのように配役されてゆくか楽しみである。

ヘクター・ジャイン(2025年入団)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

2位のサミュエル・ブレが入団したのは2017年で、同期はブルーエン・バティストーニ、ビアンカ・スクダモアという世代のダンサーだ。『眠れる森の美女』ではパ・ド・ドゥでは長靴をはいた猫役でパ・ド・ドゥを踊り、『椿姫』では主人公の友人のひとりとして……というようにクラシック作品に多く配役されている。しかし今回のコンクールで彼が選んだのは課題曲も自由曲もコンテンポラリー作品だった。自由曲ではしっかりとしたテクニックをベースに、ユーモラスかつシャープに踊り、最後は余裕の投げキス。個性を見せるこの作戦が功を奏したのだろうか。入団9年目でコリフェに昇級を決めたのだ。これからはコンテンポラリー作品に多く配役されるようになるのか。興味のあるところだ。

サミュエル・ブレ(2017年入団)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

3位は2024年に入団したコランタン・ドゥルヌ。今回が2回目のコンクール参加だ。オペラ座バレエ学校出身の彼は、在学中にロマン・フォレ監督の短編映画『Juste au corps』で敬愛するダンサーのマチアス・エイマンと共演している。優秀な生徒だったのだろう。シーズン2025/26年の『ロミオとジュリエット』ではパリス役に配役された。確実なテクニックの持ち主。クラシック作品で活躍してゆくに違いない。

コランタン・ドゥルヌ(2024年入団)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

4位のマルタン・ポールはパリ・オペラ座バレエ学校で7年学び、2024年に入団。細身で長身というプリンス役向けの体型、くっきりとした目鼻立ち群舞でも目立っている。12月はガルニエ宮の公演『Pulsations』に配役されている。コンクールの自由曲のトゥール・アン・レールは大変美しく、この作品で豊かな音楽性、安定したテクニックを見せた。今後、クラシック作品で活躍してゆくのではないだろうか。

マルタン・ポール(2024年入団)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

順位4位内に入らず昇級は叶わなかったが、2年の契約団員の後、今年入団したEric Pinto=Cata(エリック・ピント=カタ)は課題曲の『レ・ミラージュ』は指先まで気を配った美しく力強いパフォーマンスを見せた。また自由曲に選んだモーリス・ベジャールの『アレポ』ではリズム感の良さ、しなやかさ、エレガンスが感じられ、またステージで踊ることの喜びは観客席まで伝わるほどだった。契約団員時代からコンテンポラリー作品の創作に参加している彼。12月にオペラ・ガルニエで踊られる創作『ボレロX』では、ファーストソロの第一配役に選ばれている。彼同様に『アレポ』を自由曲に選んだManuel Giovani(マニュエル・ジョヴァニ)もまた注目に値するダンサーである。この作品ではそう大柄でもないにも関わらず、ステージ空間に広がるようなパフォーマンス、空気を遠くへと押し出すような気を感じさせる腕の動きが印象的だった。昨年のコンクールでもなかなかの出来栄えだったので、次回の昇級を期待しよう。今回が最初のコンクールだったCamillo Petochi(カミロ・ペトキ)は自由曲にマニュエル・ルグリの『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』を選び、素晴らしいクラシックのテクニックの持ち主であることを見せた。これから1年後のコンクールで成長ぶりをぜひ見たいと思わせるダンサーだ。

このほかコンクールに参加したカドリーユの男性は次のとおり(順不同)。Marcos Silva Sousa(マルコス・シルヴァ・スーザ)、Jérémie Devilder(ジェレミー・ドゥヴィルダー)、Manuel Garrido(マニュエル・ガリド)、Mathéo Gouze(マテオ・グーズ)、Rémi Hairy(レミ・エリィ)、Hadrien Moulin(アドリアン・ムーラン)。

男性|コリフェからスジェ(コンクール参加者13名/スジェ3空席)
課題曲
A. ルドルフ・ヌレエフ版『ラ・バヤデール』第2幕ソロルのヴァリエーション(4名が選択)
B. ピエール・ラコット『セレブレーション』から男性のヴァリエーション(4名が選択)
C. ポール・テイラー『Speaking in Tongues』からソロ A Man of the Cloth(5名が選択)

昇級決定 3名

  1. Hugo Vigriotti(ユーゴ・ヴィリオッティ)
    課題曲C/自由曲 ローラン・プティ振付『若者と死』
  2. Milo Avêque(ミロ・アヴェック)
    課題曲C/自由曲 ルドルフ・ヌレエフ版『白鳥の湖』第1幕 王子のスロー・ソロ
  3. Théo Ghilbert(テオ・ギルベール)
    課題曲C/自由曲 ジャン=ギヨーム・バール振付『泉(ラ・スルス)』第2幕 ジャミルのソロ

昇級を決めたダンサーは、3人とも課題曲にコンテンポラリー作品の『Speaking in Tongues』を選んでいるのが偶然とはいえ、興味深い現象である。長いコンクールの歴史において課題曲はクラシック作品と決まっていた。もし、それが続いていたら彼らは昇級に苦労したことになったのでは、と想像する。

1位のユーゴ・ヴィリオッティは2003年にオペラ座バレエ学校に入り、2008年にカンパニーに入団。その2年後、ローラン・プティの『Le Rendez-vous』でニコラ・ル・リッシュとステージを共にするコブのある男役に抜擢されている。『ラ・シルフィード』のジェームスのソロを自由曲に踊ってコリフェに昇級したのは2011年。柔軟性、敏捷性に優れた彼は、最近はコンテンポラリー作品での活躍が目覚ましく、前シーズンはマルコス・モラウの創作『Etude』でソリストに選ばれていた。今回のコンクールで課題曲『Speaking in Tongues』を選んだダンサーは5名いたが、ユーゴは高い身体能力を発揮しつつ、指先まで配慮を欠かさぬ丁寧さ、そして演技面でも強い感動を残すというコンクールを超え、まるで本公演を見ているようだった。学校時代から踊りたいと願っていて今回自由曲に選んだローラン・プティの『若者と死』でも、それは同様。コンクールでは珍しく、ベッドと机と椅子という小道具が登場し、ピアノ伴奏ではなく録音の音楽で、というのも効を奏したのかもしれないが、いつか彼がこの作品で若者に配役されることがあるようにと彼のために祈りたい。ちなみに、2008年の学校公演ではローラン・プティの『旅芸人』でピエロを演じている彼。ローラン・プティ作品は彼に幸運をもたらすようだ。

ユーゴ・ヴィリオッティ(2008年入団、2011年コリフェ)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

2位のミロ・アヴェックはコリフェに上がったのは2025年だが、入団は2017年と結構なキャリアの持ち主である。この2~3年の間に『ジゼル』『ロミオとジュリエット』の主役に抜擢されるという幸運を得ているが、前シーズンの最後はマッツ・エクの『Solo for Two』、今シーズンの始まりはのAszure Bartonの『Busk』というようにコンテンポラリー作品が続いている。このコンクールの課題曲に『Speaking in Tongues』を選んだのも自然な流れだろう。それに対し、課題曲は『白鳥の湖』から王子のスロー・ヴァリエーション。コーチに恵まれたのかもしれないが、ひとつひとつの動きについてカウント内ギリギリまで動きを保ちステージ空間に余韻を残すという仕事が見事で、最後はちょっとトゥーマッチ?と感じさせる長さだったけれど見ごたえのあるパフォーマンスだった。

ミロ・アヴェック(2017年入団、2025年コリフェ)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

3位はテオ・ギルベール。2014年にオペラ座バレエ学校に入った彼は、2021年に入団し、2024年コリフェに昇級した。課題曲はユーゴ同様、演技も達者に綺麗に踊り、自由曲ではクラシックの安定したテクニックの持ち主であることを見せるパフォーマンスだった。これまでクラシック作品では『ジゼル』の収穫のパ・ド・ドゥ、『眠れる森の美女』のブルーバードに配役された一方、イリ・キリアンの『Gods and Dogs 』、クリスタル・パイトの『The Season’s Canon』などコンテンポラリー作品ではキレの良い動きを見せている。注目してゆきたいダンサーだ。

テオ・ギルベール(2021年入団、2024年コリフェ)©︎Maria-Helena Buckley/ OnP

参加した中にはコリフェとしては配役に恵まれて、すでにステージでそれぞれの個性を見せているダンサーも少なくない。たとえばLou Marcault=Derouard(ルー・マルコー=ドゥルアール)。いまオペラ座のコンテンポラリー作品に不可欠なダンサーで、映画『オペラ座の怪人』にも出演している。コンテンポラリー作品が選べるようになった前回のコンクールで、待ってました!とばかりにコリフェに上がったダンサーだ。ステージでの活躍が目覚ましい彼の昇級が今回かなわなかったのは残念だ。コンテンポラリー作品がプログラムを占めるパーセンテージが増えているオペラ座ではあるが、Léo de Busserolles(レオ・ドゥ・ビュスロル)、Mikah Levine(マイカ・レヴィン)、Rémi Singer=Gassner(レミ・サンジェール=ガスネール)といったクラシック作品で見てみたいダンサーたちには次回是非とも健闘してほしい。

このほかコンクールに参加したコリフェの男性は次のとおり。Ruben Simon(ルーベン・シモン)、Shale Wagman(シェール・ワグマン)、Nathan Bisson(ナタン・ビソン)、Aurélien Gay(オーレリアン・ゲイ)、Isaac Lopes-Gomes(イザック・ロペス=ゴメス)、Alexander Maryanowski(アレクサンダー・マリアノウスキー)。

大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。