カンヌで発表!ケイト・ブランシェットとユニクロが支える映画基金とは?
文・立田敦子
映画人が結集するカンヌ国際映画祭では、上映以外にもさまざまなイベントやミーティングが開催される。そういった国際映画祭の特徴を積極的に利用して、人道的な支援活動の幅を広げているのがオスカー俳優のケイト・ブランシェットだ。
今年のカンヌでは、ブランシェットが主導する難民映画基金(Displacement Film Fund)の新しい展開を発表する会見が公式プログラムとして開催された。この基金に創設パートナーとして参加しているのがユニクロである。ファーストリテイリング取締役で映画『Perfect Days』のプロデューサーとしても知られる柳井康治に、このプロジェクトの背景について話を聞いた。
権威主義体制に立ち向かう映画の力。
会場にはブランシェットのほか、第2弾の助成対象として選ばれたモハメド・アメル、アンマリー・ジャシル、アクオル・デ・マビオル、バオ・グエン、リティ・パンが登壇。司会をロッテルダム国際映画祭(IFFR)マネージング・ディレクターのクレア・スチュワートが務め、映画と難民支援、そして表現の自由について語り合った。ブランシェットは近年世界各地で進む権威主義化に触れながら「権威主義体制はまず文化を攻撃する」と警鐘を鳴らし、「難民問題を数字ではなく、ひとりひとりの人生として感じてもらうために映画には力がある」と訴えた。
難民映画基金は、2025年に創設が発表された映画助成プロジェクトだ。俳優・プロデューサーであり、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)親善大使を務めるブランシェットと、ロッテルダム映画祭のヒューバート・バルス基金が共同で立ち上げた。UNHCRも戦略パートナーとして参加し、避難を余儀なくされた映画制作者、あるいは難民・亡命の経験を描いてきた映画作家たちを支援することを目的としている。特徴的なのは、難民を描く映画ではなく当事者自身が語る映画に重点を置いている点だ。2025年の第1弾では、5人の監督に各10万ユーロの短編製作助成金が与えられた。選ばれたのは、ウクライナのマリナ・エル・ゴルバチ、ソマリア・オーストリアのモ・ハラウェ、シリアのハサン・カッタン、イランのモハマド・ラスロフ、アフガニスタンのシャフルバヌ・サダト。いずれも戦争や政治的抑圧、亡命の経験と深く結びついている映像作家たちである。
柳井はこのプロジェクトについて「難民というと苦しくて大変というイメージで語られがちですが、難民の中にも医師もいれば弁護士もいるし、才能のある俳優や監督もいる。そういう人たちが才能を発揮する場所を作ることが重要だと思った」と説明する。ユニクロは2001年からUNHCRと協働し、難民への衣料支援や自立支援を続けてきた。当初は衣料支援が中心だったが、現在では教育、自立支援、雇用支援へと活動を広げているという。「服を届けるだけでは根本的な解決にはならない。難民の方々が最終的に自立し、移住先で仕事を得られるような支援が必要だとわかってきた」と語る。
この基金誕生のきっかけは、2023年のグローバル難民フォーラムだった。柳井はその場で偶然ブランシェットと同じテーブルになったが、その際「彼女に会ったら渡してほしい」とヴィム・ヴェンダースから託されていた『PERFECT DAYS』のDVDを渡した。「偶然席が近くて自己紹介してDVDを渡したら、そこから一気に映画の話で盛り上がった」と、振り返る。同じテーブルには、難民としてベトナムから渡米した経験を持つ俳優キー・ホイ・クァンも同席していた。ブランシェットは「映画の力で難民をサポートする」と、ステージ上で宣言。その後、同じテーブルのメンバーはオンラインミーティングを重ね、この基金の構想が具体化していったという。当初は難民映画祭の案もあったが、同じことをやっても意味がないと考え、最終的に短編映画製作支援という形に落ち着いた。特にラスロフ監督は、イラン政府批判によって国外脱出を余儀なくされた人物として知られる。今回の基金は単なる制作支援ではなく、表現の自由を守るための避難所としても機能していることがうかがえる。
東京国際映画祭でも上映される作品たち。
5人の監督による短編作品は、今年1月の第55回ロッテルダム国際映画祭で世界初上映され、大きな反響を呼んだ。その成功を受け、すでに第二弾の実施も決定している。さらに今年のカンヌでは、新たな助成対象監督も発表され、昨年『パレスチナ36』により東京グランプリを受賞したアンマリー・ジャシル監督や『私たちは森の果実』で審査委員特別賞を受賞したリティ・パン監督らが名を連ねた。東京国際映画祭(TIFF)もこの基金の理念に共鳴。10月に開催される東京国際映画祭(TIFF)でも第1弾の5作品がジャパンプレミアされる予定だ。なお、第1弾の監督のマリナ・エル・ゴルバチ監督の『世界が引き裂かれる時』が2022年東京国際映画祭(TIFF)で、モハマド・ラスロフ監督の『悪は存在せず』が2020年東京国際映画祭(TIFF)で上映されており、日本の映画ファンにとっても決して遠い存在ではない。
近年のカンヌでは、戦争、亡命、検閲、ジェンダー、多様性といったテーマが以前にも増して前景化している。難民映画基金はそうした時代を背景に、誰が物語を語るのかという問いを映画産業に突きつける試みでもある。そして、その中心にハリウッドスターのケイト・ブランシェットと日本発のグローバルブランドであるユニクロが並んでいることは、現在の映画祭がエンターテインメントだけでなく文化・政治・人道支援が交差する場へと変化していることを強く印象づけた。
- text: Atsuko Tatsuta
- editing: Momoko Suzuki