「日常に起こり得るカオス」Netflixシリーズ「ガス人間」出演俳優4人が語る、片山慎三監督の演出とは?【前編】

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7月2日から配信されたNetflixシリーズ「ガス人間」は、『ゴジラ』の生みの親である本田猪四郎が監督を務めた1960年の映画『ガス人間第一号』のリブート版だ。オリジナル版の世界観を現代社会への問題定義を込めて再解釈し、ガス人間がが起こす前代未聞の連続予告殺人と、そこに巻き込まれる人々の群像劇が8話の完全オリジナルストーリーで展開する。人間が特殊なパワーを得て、変身・変質する物語はアメリカでは『スパイダーマン』や『スーパーマン』を筆頭に時代を超えてヒーローものとして光り輝くが、1950年代後半、東宝で製作された「変身人間」シリーズは、第一弾の『美女と液体人間』(1958年)、『電送人間』(60年)、『ガス人間第一号』と、変容した人間が抱える業や悲しみをメインテーマとする。元となった『ガス人間第一号』は宇宙開発のための人体実験の被験者として体がガス化した男と恋人との悲しい恋を描き、当時、アメリカでも英語吹き替え版が商業的にヒットした。

キャスト陣、左からUTA、小栗旬、広瀬すず、林遣都。

映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』、Netflixシリーズ「地獄が呼んでいる」「寄生獣 -ザ・グレイ-」など次々と世界的な話題作を生み出すヨン・サンホがエグゼクティブプロデューサーと脚本を担当し、配信シリーズ「ガンニバル」など野心作を次々と手がける片山慎三が監督した『ガス人間』。参加した俳優、小栗旬広瀬すず、林遣都、UTAに取り組みと見どころを聞いた。

※この先、ストーリーに関するネタバレが含まれる可能性があります。


俳優の”身体性”に語らせる、片山監督の演出とは?

――まずは小栗旬さんに代表して伺います。小栗さんが演じた刑事の岡本賢治と、蒼井優さん演じた記者の甲野京子はガス人間の起こす連続殺人事件を追う立場としてオリジナル版からの役柄を踏襲した人物ですが、内容的には21世紀の世相が強く反映され、大きく広がった社会問題を扱っています。今回のリブート版の特色や、大切にされた点を教えてください。

謹慎中の刑事、岡本(小栗)の元に緊急の招集がかかる。テレビに出演していた大学教授が、生放送中に身体が膨張し、破裂して死亡する怪事件が起きたのだった……。

小栗旬(以下、小栗) 1960年に公開されたオリジナル版の『ガス人間第一号』はガス人間となってしまった男性と、彼が愛を捧げる日本舞踊家の女性の悲恋を描いていました。今回のリブート版もオリジナル版からの要素を引き継ぐ形で、いろんな登場人物たちの愛の形を描いた話だと僕は感じています。

蒼井優さん演じる甲野京子と僕が演じた岡本の関係、そしてガス人間をめぐる人々の関係性は、この作品においてのいちばんの謎で、同時に軸になっている部分でもあります。

――演出を担当した片山慎三監督の作品は長編デビュー作の『岬の兄妹』(19年)から『さがす』(22年)『雨の中の慾情』(24年)、配信ドラマ「ガンニバル」(22年)まで、俳優の肉体ありきで成り立つ物語であり世界観だと感じるのですが、だからこそ、演じる側のみなさんも他の作品と違った肉体性を披露する苦労や準備がいるかと思います。アクションが必要とされる場面での忘れがたいエピソードを教えてください。

「ガス人間」を名乗る男(UTA)は動画を通じて、一連の怪死事件は自分が引き起こしたことだと語る。彼の犯行動機とは? そして、彼の正体は?

UTA 僕は撮影現場に入るまで、周りから「すごく大変だよ」というコメントをはじめ、いろいろな話を聞いていたんですけど、実際に撮影が始まると、片山監督は監督としてこんなにもの熱を作品に注いでいるのか、と間近で実感しました。片山監督だからこそのチーム感というか、キャストだけでなく、スタッフの方も、監督の自由に冒険するスタイルを好きでいて。いろいろ試している姿を見ている中で、自分もだんだん「もっと試していこう」と思ったり、片山監督が目指しているものを理解し始めて。「肉体的に大変だよ」ってたくさん言われたんですけど、没頭する日々で、あっという間の8か月でしたね。本当にやりがいのあった、宝物のような撮影期間でした。キャスト同士、スタッフ同士の絆と愛に関してはいままで感じてきたことのないくらいの空気だったので、感謝でしかないです。

――ガス人間の動きがコレオグラフィというか、モダンダンスのようでした。

UTA 自分でもそう感じた時はありました。片山監督が最後の最後まで、こだわりみたいなアイデアをどんどん出していく方なので。本当に楽しんでいらっしゃる姿が見られて、自分もそれに応えて頑張りたいなと。

――小栗さんはご自身がアクションシーンの達人でもあるので、刑事と半グレ集団の乱闘など、ファイティング場面がほかの登場人物と比べても抜群に多い設定でしたが、いかがだったでしょう?

小栗 UTA君がいま言ったように、僕も大変だと思うことはなかったんですよね。それは、片山監督から、ある理由があって登場人物はこういうアクションをしようとしていて、その動きにきちんとした感情がある、という説明があるから、しんどさを感じない。ただ一点だけ、いま、UTA君が喋っている間に、めちゃくちゃしんどかったことを思い出しました(笑)。とある重要人物が逆さ吊りの状態で高所から落ちそうなところをずっと掴んでいる場面があったんですけど、僕、あのシーンは一生終わらないんじゃないかと思いましたね。ずっと逆さまでぶら下がっているその俳優の方が、もちろん僕よりずっと大変だったと思いますが、スタッフさんはみんな吊るされている方の心配ばかりで……。けどその間、僕はその方の重さをずっと手で支えていて、すごく大変だったんです。その大変さが誰にも伝わっていないという状況が一日続いて、あの時だけはイラっとしました(笑)。

――広瀬すずさんも、かなり長い距離の川を溺れながら流される場面がありましたが、あれはどうみてもCGではなく、実際、泳いでいましたよね?

オカルト系動画配信者の華歩、富士太の兄妹(広瀬、林)は、ひょんなことからガス人間の手がかりを得て撮影を試みるが……。

広瀬すず(以下、広瀬) 片山監督から、溺れるのがすごい上手だと褒められました(笑)。

林遣都(以下、林) すごく褒められて、実際、4時間も現場が早く終わったんだよね。

広瀬 ほぼ1発でオッケーみたいな感じでした。あの場面、落ちた瞬間と、落ちてからかなり流されていく場面の引きと、アップと、結構何時間も溺れる演技を続けていて。監督から「3秒だけ顔を水面に出して溺れて」とか細かい要求があったりもして。ジェットによる波も強かったんですけど、自分的には結構いい筋トレになったな、みたいな(笑)。あそこが体力的に唯一ハードだった場面かもしれません。

――林さんもぐわーっと宙を舞う場面がありました。

 宇都宮の橋の上で、経験したことのない高さまでクレーンで上がりました。ワイヤーで吊るされてすごく怖かったですけど、なかなかできない経験だなと思って最初はうれしかったです。ただ、同じ場面をセットで、別カットでも撮ったんですけど、その時は本当に「いつ終わるんだろう」っていう瞬間がありました。でも、片山監督にとっていちばんの理想形ができるまでやってほしいという思いがあるので、ぜんぜん苦には感じませんでした。僕がクレーンで高所から吊るされて本番を待っている時、大変な体勢だったんですけど、ふと見ると、片山さんがずっと何か悩まれていて。僕がポケットからあるものを出しながら葛藤を表す場面だったので、それはポケットからの出し方の角度とか、出し方のタイミングで悩んでいるのかなと思っていたら、「あ、そうだ、お兄ちゃんのポケットにアメちゃんのごみとレシートも入れてもいいですか」と言われて(笑)。僕が吊るされていた時に、そんな細かなところまで考えられていたのか! いやあ、でもおもしろいなと思って(笑)。多分、そのセットにいたスタッフの誰ひとり、そんな些末なところまでは考えていないだろうなって。何気ないシーンでも細かな発想がポンって出てくる。それが撮影期間中随所にあって、本当に楽しかったです。

忘れられない「片山監督語録」。

小栗 へええ。片山さん、そんなことを考えてたんだ。

 片山監督の全てを忘れたくなくて、発した言葉は全部メモして記録しています。

――他に、忘れがたい片山語録をひとつお願いします。

 いくつかあるんですけど、僕と広瀬さん演じる妹が、とある建物に侵入する場面で、僕はオカルト系動画の配信者なのですが、怖がるという設定だったんです。そこのセリフとして、「恐怖に敏感なほど、ホラーの醍醐味がわかるってものなんだよ」みたいなセリフがあったんですけど、そこでは、その語尾の感じをすごく、ずっと悩まれていて。セリフを言う度に、なんか違うなみたいな。最終的に、1回言おうとして、やめて、もう1回言ってくださいとなって。そういうことは自分の発想では到底思いつかないですね。他の日では、「いまのこのセリフを、たとえばそういう歌詞があったとしたらどう言いますか」と聞いてきくださったりして。その都度、自分の可能性が広がる演出が出てくるのでワクワクしました。またご一緒したいとずっと思っています。

――映画『雨の中の慾情』に出演された成田凌さんも、片山監督は俳優とずっと一緒に悩んでいると話していました。

小栗 そうですね。もうギリギリまで悩んで、何かを考えている人で、自分の中に降りてくるのを待ってるような時間はあるんじゃないかなという気はしますね。ご本人としても、本来はこれでもいいんだけど、まだなんかありそうだなみたいなことで「ちょっと今度はこういう風にやってみましょうか」というのは結構ありました。

――このシリーズでおもしろいのは、みんながうわーっと動いて、動的なアクションが展開するのに、それぞれ何を考えているのかはわからせない。ガス人間もそうですけど、岡本から見る京子もわからない人物で、観客にそう簡単に登場人物の感情を読み取らせない片山監督の演出をどう思われますか?

 人と違うことをやろうとか、誰もやったことがないことをやろうという感じじゃないのが、すごく魅力的な方だなと思いました。

小栗 そうだね。日常に起こり得るであろうことからのカオスだからおもしろいんだと思う。

Shun Oguri/1982年、東京生まれ。子役としてデビュー以来、舞台、ドラマ、映画で活躍。『キングダム 魂の決戦』(7月17日公開、佐藤信介監督)、『バッド・ルーテナント:トウキョウ』(公開日未定、三池崇史監督)と出演作の公開も続く。シャツ¥260,700、カットソー¥71,500、パンツ¥280,500/すべてボッテガ・ヴェネタ(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)
Suzu Hirose/1998年生まれ、静岡県出身。2012年にデビューし、数々のドラマや映画で活躍。舞台『華氏マイナス320°』(7月22日〜8月2日、新歌舞伎座)、映画『汝、星のごとく』(主演、10月9日公開、藤井道人監督)、『存在のすべてを』(2027年2月5日公開、瀬々敬久監督)など、出演作の公開が続く。シャツ¥26,400、プリーツスカートベルト¥22,000、パンツ¥35,200/以上アモーメント (AMOMENTO TOKYO FLAGSHIP STORE) ピアス¥103,400、チェーンブレスレット¥223,300/ともにシャルロット シェネ (シャルロット シェネ 青山店) ブラックキャミソール/スタイリスト私物
Kento Hayashi/1990年、滋賀県生まれ。2007年、映画『バッテリー』主演で俳優デビュー。以来、舞台、ドラマ、映画で活躍。7月からは日曜劇場「VIVANT」第2シーズン(TBS系)に出演。
UTA/1997年、東京都出身。12歳の頃からスイスに単身留学、16歳でアメリカに渡りバスケットボールに打ち込む。2018年、パリ・コレクションでモデルデビュー。本作で俳優デビューを果たす。ジャケット¥729,300、シャツ ¥209,000、タイ参考商品、パンツ ¥240,900/以上トム フォード(トム フォード ジャパン)

>>後編:【ネタバレあり】社会派SF作品が映し出す現代とは? Netflixシリーズ「ガス人間」、出演者が語る見どころ!【後編】は7月13日(月)公開予定

Netflixシリーズ「ガス人間」
2026年7月2日(木)より世界独占配信中

https://www.netflix.com/title/81714240

  • photography: Seiji Tonomura
  • text: Yuka Kimbara
  • styiling: Shinichi Mita(KiKi inc., Oguri), Yoko Kageyama(eight peace, Hirose), Yonosuke Kikuchi(Hayashi), Rena Semba(UTA)
  • Hair&make: Kentaro Shibuya(SUNVALLEY, Oguri), Aiko Tokashiki(Hirose), Tazuru Takei(&'s management, Hayahi) hair: Jun Goto(Republish-ota office, UTA) makeup: Hiroko Uejima(UTA)