パリで発表、ディオールが示す肌老化の15の指標の背景とは?
老化は逆転できるのか――世界の長寿研究や皮膚科学の第一人者18名とともに設立したディオールのリバース エイジング ボードは、今年で3年目を迎えた。パリで開かれたカンファレンスで発表されたのは、30万以上の細胞と1万2000もの遺伝子を解析し、肌老化に関わる15の生物学的経路を示すスキン ロンジェビティ コンパス™という新たな指標。その背景にあるリバース エイジング研究の最前線を、4人の研究者の発表から紹介する。

老化を遅らせ、生物学的年齢を若返らせることも可能に。

ヴァディム・グラディシェフ
Vadim Gladyshev
ブリガム・アンド・ウィメンズ・ホスピタル医学教授/健康寿命研究の専門家
ハーバード大学医学部教授。数老化・健康寿命研究の世界的権威として、数々の賞を受賞。長寿生物のゲノム解析や生物学的年齢の研究を通じ、老化研究の最前線を切り拓く。
「老化とは、若い状態から高齢の状態へ移行する極めて複雑な生物学的プロセスで、長年、不可逆的なものと考えられてきた。しかし近年、生物学的年齢は完全ではないにせよ、部分的に若返らせることができることがわかってきた。
私の研究室では、長寿動物と短命動物の遺伝子や代謝パターンを比較し、『長寿シグネチャー』と呼ばれる分子パターンを特定。また、化学物質の組み合わせによって細胞を若い状態へ戻す研究や、胚発生の過程で生物学的年齢が最小になる現象の解明にも取り組んでいる。
さらに、生物学的年齢は一定の速度で進むものではなく、ストレスによって一時的に加速し、回復によって再び若返る可能性があることもわかってきた。
ディオールとの共同研究では、DNAメチル化解析(エピジェネティック クロック)や遺伝子発現解析を用いて30万以上の細胞を解析し、細胞ごとの生物学的年齢を測定。老化のバイオマーカーの特定を進めている。
もちろん、老化は完全に逆転できるわけではない。突然変異や組織の損傷のように不可逆的なものも存在する。しかし、除去可能な損傷や細胞の置換によって、生物学的年齢をある程度若返らせることは可能だ。目指しているのは時間を巻き戻すことではなく、身体がより若々しく機能する状態へ近づけること。その可能性を科学的に解き明かそうとしている」
肌の健康寿命をどう延ばすか、がリバース エイジングの課題。

マリー・ヴィドー
Marie Videau
LVMHリサーチ所長
生物学博士。フランス国立農業研究所(INRA)、パスツール研究所や化粧品会社などで研究開発を担い、2025年よりLVMHビューティ部門のリサーチ&イノベーションを統括。
「再生医療や幹細胞研究、エピジェネティクスの進歩によって、リバース エイジング研究は大きく前進している。2050年には100歳まで生きることも珍しくなくなるかもしれない。しかし重要なのは寿命そのものではなく、健康で充実した時間をどれだけ長く保てるかということだ。
LVMHリサーチが6カ国・約5000人の女性を対象に行った調査では、多くが実年齢を受け入れながらも、『自分は実年齢より若い』と感じていることがわかった。年齢には、生年月日で決まる『暦年齢』、自分が感じる年齢、他者から見られる年齢、そして細胞レベルで測る『生物学的年齢』という4つの側面がある。ディオールが着目しているのは、この生物学的年齢だ。50年以上にわたり皮膚研究を続けてきたLVMHリサーチが目指すのは、老化の兆候を隠すことではなく、肌が本来持つ再生力を維持し、高めること。目標は赤ちゃんの肌に戻ることではない。年齢にふさわしい美しさと活力を保ちながら、自分らしく年齢を重ねることこそ、リバース エイジングの本質だと考えている」
肌老化を科学的に地図化する、研究全体の枠組み。

カール・ペイズ
Karl Pays
LVMHリサーチ グローバル リサーチ ディレクター
フランス国立科学研究所(CNRS)の物理化学研究で博士号取得後、化粧品会社で14年間研究開発に従事。日本を含む国際的な製品開発を経て、2015年よりLVMHで革新的技術開発を率いる。
「リバース エイジング研究の出発点は、老化は避けられない衰退ではなく、少なくとも部分的には可逆的な現象である、という考え方だ。
この2年間で、肌の老化と全身の老化との関係を整理した論文を『Nature Aging』に発表したほか、ディオール プレステージのスキンケアに使用しているグランヴィル ローズの再生能力、肌のマイクロバイオーム、細胞の若返りなど、多方面から研究を進めてきた。
とりわけ重要なのは、肌を単なる美容の対象ではなく、身体最大の臓器として全身の老化と深く結びついた存在と捉えることだ。老化のメカニズムを細胞レベルで理解し、どのバイオマーカーが可逆的で、どこに介入できるのかを明らかにすることが、次世代スキンケア開発の鍵になる。リバース エイジング研究は、皮膚科学と長寿研究を結びつけ、未来のスキンケアを支える土台になる」
肌老化の新たな3つの特徴を発見し、マッピング。

ロール・クラッブ=ヴェール
Laure Crabbe-Vert
LVMHリサーチ ライフ サイエンス部門サイエンティフィック コーディネーター
細胞・分子生物学博士。テロメア研究の専門家としてフランス国立科学研究所(CNRS)で研究チームを主宰。現在はLVMHリサーチにて皮膚老化に関わる細胞メカニズムの解析に取り組む。
「ヴァディム・グラディシェフの研究室との共同研究では、若年者と高齢者の肌を比較し、30万以上の細胞と1万2000以上の遺伝子を解析した。その結果、従来知られていた老化の12の特徴に加え、肌に特有の3つの老化指標を新たに特定した。
ひとつは、酸化ストレス。加齢によって皮膚細胞の抗酸化能力が低下し、活性酸素から肌を守る力が弱まる。ふたつ目は、サーカディアンリズムの乱れ。肌の修復や再生を担う時計遺伝子の働きが加齢とともに不安定になる。3つ目は、細胞外マトリックスの変化。コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸など、肌のハリや弾力を支える構造が十分につくられなくなる現象だ。これらを加えた15の肌老化の特徴を示す、ディオール スキン ロンジェビティ コンパス™を構築した。この指標が、将来の有効成分開発や老化への介入戦略を導く重要な羅針盤になると考えている」
今回発表されたディオール スキン ロンジェビティ コンパス™は、老化の仕組みを理解するための第一歩にすぎない。研究者たちは、肌老化に関わる15の経路をさらに解析し、それぞれに働きかける新たなアプローチの開発を目指している。カンファレンスで印象的だったのは、誰ひとり「時間を巻き戻す」とは語らなかったことだ。目指しているのは、細胞が本来の機能をできるだけ長く維持できる状態をつくること。そして美しさを、見た目だけでなく健康や幸福感を含むウェルビーイングとして捉えることだった。クリスチャン・ディオールが掲げた「女性をより美しく、より幸せにしたい」という理念は、最先端の老化研究という新たな言語で語られはじめている。
パルファン・クリスチャン・ディオール
03-3239-0618
https://www.dior.com/