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RUFFINO
キアンティの名門ルフィーノは、なぜボルゲリへ? 醸造責任者オルガ・フザーリが語る「ガルツァイア」の味わい。
藁に包まれた丸いボトルのキアンティで、アメリカをはじめ世界の食卓に親しまれてきたルフィーノ。新作「ガルツァイア ボルゲリ・スペリオーレ 2023」を手がけた醸造家、オルガ・フザーリに、フィガロワインクラブが独占インタビュー。キアンティの名門がボルゲリで始めた、次の挑戦とは。

キアンティを世界へ広げたルフィーノ。
ルフィーノの醸造家として、今回が初めての日本訪問となるオルガ・フザーリ。2023年に同社へ加わった彼女が手がけたのが、新作ガルツァイア 2023だ。

1877年創業のルフィーノは、キアンティを世界へ広げてきた造り手のひとつ。藁に包まれた丸いボトルも、その歩みを象徴する存在だ。2006年公開の映画『プラダを着た悪魔』で、アン・ハサウェイ演じるアンディと恋人ネイトが飲むのは、代表作「リゼルヴァ・ドゥカーレ」である。
ルフィーノの原点は、フィレンツェとシエナの間に広がるキアンティ・クラッシコ。サンジョヴェーゼを中心に、赤い果実、明るい酸、食卓に寄り添うしなやかさを備えた赤ワインを生む、トスカーナの歴史的な産地である。ルフィーノはここでリゼルヴァ・ドゥカーレやリゼルヴァ・ドゥカーレ・オーロを育て、モンタルチーノでは銘醸ワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノも手がけてきた。
いま同ワイナリーが新たな表現の場として選んだのが、トスカーナ西部、ティレニア海沿岸のボルゲリである。
なぜ、いまボルゲリなのか?
「ボルゲリはトスカーナで最も重要なアペラシオン(原産地呼称)のひとつであり、ルフィーノのポートフォリオにはまだなかった存在です」とフザーリは語り始める。
内陸の丘陵地でサンジョヴェーゼを主役にするキアンティ・クラッシコに対し、ボルゲリはティレニア海に近い海辺の産地。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランといったボルドー系品種を中心に、個性豊かな赤ワインを生んできた。

そして、サッシカイアやオルネッライアを生んだことで、”スーパータスカン”を語るうえでも欠かせない土地となった。スーパータスカンは法律上の区分ではなく、国際品種や樽熟成を採り入れ、従来の産地規定にとらわれずに生まれたトスカーナワインの通称である。

「ガルツァイア・ボルゲリ・スペリオーレ 2023」(※以降ガルツァイア 2023)は、ルフィーノ初のボルゲリ・スペリオーレDOC。とはいえ、ボルゲリへの歩みが突然始まったわけではない。「モドゥス」「アラウダ」「モドゥス・プリモ」など、サンジョヴェーゼと国際品種を組み合わせた赤ワインにも早くから取り組んできた。ボルゲリは、その先にある場所でもある。
2023年3月に取得したガルツァイアのブドウ園は、条件の異なるふたつの区画からなる。北部の圃場ではすでに育っていた畑を受け継ぎ、その年に収穫したブドウから初ヴィンテージであるガルツァイア 2023が生まれた。南に少し離れたボルゲリ街道沿いのエリアでは2024年から植樹を開始。すぐに実りをもたらす畑と、時間をかけて育っていく畑。その両方を軸に、ルフィーノのボルゲリプロジェクトは動き出している。

「ガルツァイア」は、サギの繁殖地を意味する名。海からの反射光が畑を照らし、海風が暑い時季には果実を冷やし、湿度の高い時期には畑を乾かす。海と畑、生態系が寄り添うボルゲリの風景が、ワイン名に付けられている。
「海と丘に囲まれたボルゲリは生態系のとても豊かな土地。グラスの中に、ボルゲリの環境や土地を感じてもらえるワインにしたい。飲んだ時に、これがボルゲリだと認識できる一本でなければ」
ボルゲリ出身で、この地区の環境も自然も知りつくすフザーリの言葉が響く。
カベルネ・フランを主役に。
ガルツァイア 2023を構成するのはカベルネ・フラン70%、メルロ30%。カベルネ・ソーヴィニヨンが主役になることも多いボルゲリで、カベルネ・フランを軸に置いたことが、このワインの最大の個性である。
「カベルネ・フランのアロマティックな表情がとても好きです。気候変動のなかでもフレッシュさを保ちやすく、ボルゲリでは十分な熟度まで達する。青いニュアンスを抑えながら、品種の個性を表現できます」

フザーリは、ボルゲリのオルネッライアで18年にわたり、ボルドー系品種のブレンドと向き合ってきた。カベルネ・フランもまた、彼女のキャリアのなかで理解を深めてきた品種である。ルフィーノにも同品種を用いる「アラウダ」があるが、ガルツァイアではそのキャラクターをより前面に押し出した。
「以前から、カベルネ・フランを高い比率で、時には100%で使うワインを考えていました。ルフィーノに加わって、新しいことを始める機会を得た」と、このブドウへのこだわりを見せるフザーリ。
2023年は暑く乾燥した年だった。カベルネ・フランの香りと緊張感に、メルロが丸みと柔らかさを添える。こういうヴィンテージでは、メルロが丸みや甘やかさを与えるという。
「カベルネ・フランとメルロ。このふたつの品種は、とても美しく寄り添うのです」
収穫のタイミングを見極め、果粒を繊細に扱い、抽出は控えめに。フレンチオークで18カ月、70%を新樽で熟成させながらも、樽は品種や土地の表情を覆い隠すためのものではない。熟成に耐える骨格を支えるためのものだ。
「香り、果実、酸、タンニン、樽。どれかひとつが他を覆い隠すのではなく、すべてが一緒に鳴る。美しい旋律のような状態が、私にとってのエレガンスです」
深いルビー色。熟した赤い果実に、地中海の低木を思わせるハーバルなニュアンスが重なる。口に含むと、カベルネ・フランがもたらす香りの複雑さと骨格に、メルロの丸みが自然に溶け合う。なめらかなタンニンが全体をまとめ、充実感がありながらも均衡を保ったまま、長い余韻へと続く——。いまのガルツァイアはそんなイメージ。あと5年経つと、さらにこなれた美しい姿を見せてくれるだろう。
どう飲む? いまと未来の楽しみ方。
若い2023年は、滑らかなタンニンがあり、いま開けても楽しめる。一方で、フザーリがより美しい表情を見込むのは5〜8年後。
「若いうちから楽しめ、長期熟成の力も備える。その両方を実現したかったのです」

いま開けるなら、牛肉料理や熟成チーズと。和牛のローストや炭火焼きのように、肉の旨味と脂の甘みを受け止める料理がよく合う。熟成を経てワインがさらにほどけてきたら、トマトソースを添えた魚料理という選択肢もあるという。

キアンティを世界へ広げてきたルフィーノが、海辺のボルゲリで始めた試み。ガルツァイアは、その第一歩を告げる一本である。

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- photography: YURIE PEPE text: Hiromi Tani