子どもを見守れる間取りへ。1970年代築アパルトマンを家族目線でリノベーション。
インテリア建築家のヴィルジニー・クエンツとエロイーズ・ル・ガルが、これまで一度も改修されることのなかった1970年代築のパリのアパルトマンに、やわらかく温かな地中海の空気を吹き込んだ。さっそく、その住まいを訪ねてみよう。

才能あふれるコンビ、インテリア建築家でデザイナーとして活動するヴィルジニー・クエンツとエロイーズ・ル・ガルは、現在とは異なるキャリアを歩んでいた頃に出会った。一目で互いの感性に惹かれ合い、2020年に共同で自身たちのエージェントを設立。それ以来、住宅から商業空間まで幅広いプロジェクトを手がけ、エレガンス、緻密さ、そして繊細な感性が美しく調和する空間づくりを続けている。その実力を物語るのが、パリ15区にある180㎡のアパルトマンのリノベーションだ。挑戦は決して小さくなかった。光に満ちた空間と広々としたテラスを存分に生かせるよう、住まい全体を改修し、間取りを再構成する必要があったからだ。さらに、幼い子どもふたりを持つ夫妻であるクライアントは、およそ半世紀にわたりほぼ手つかずのまま残されていた1970年代の住まいに、地中海の雰囲気を取り入れたいと望んでいた。
その要望に応えるため、ヴィルジニーとエロイーズは、オーク材やベトン・シレ、ゼリージュタイル、タデラクトといった美しい素材を厳選。また、クライアントが大切に思っている”職人の手仕事”にも丁寧に向き合い、クラフツマンシップを随所に取り入れた。オーダーメイド家具とその他の家具のキューレーションが最後の仕上げとなり、再構成された住まいは、エントランス、ダイニング、リビング、キッチン、パントリー兼ランドリールーム、4つのベッドルーム、それぞれに備わる4つの専用バスルーム、トイレ2室、そしてライブラリースペースからなる。もちろん、この家だけの個性を与えている。そんな特別な住まいの各空間を見ていこう。
エントランス
Before

After

「このエントランスは、まさに白紙の状態でした。味気のない空間だけがありました。私たちはそこをすべてつくり直したのです。クライアントが望んでいた地中海らしい雰囲気を感じてもらえるよう、床にはテラコッタタイルを敷きました。素朴で、職人の手仕事を感じさせる風合いがあります。その雰囲気をさらに引き立てるため、私たちがデザインしたオーク材のコンソールを設置しました。同じくオーク材のベンチと調和し、Sarah Lavoineのランプ、そしてLa Redouteのラフィア張りフレームのミラーが、空間に自然な温もりを添えています。壁付け照明も、とても丁寧に選びました。陶芸家のクレモンス・ベロワーによる作品で、手作業で制作されています。灯りをともすと、美しい陰影が壁に広がるのです。こうして、住まいに足を踏み入れた瞬間から、この家の世界観が伝わるようにしました。このエントランスはオープンなつくりで、その先の前室へと続き、さらにメインリビングとダイニングへと視線が抜けていきます。だからこそ、最初の印象をつくる場所として、とても重要な空間だったのです。」
リビング
Before

After

「もともとこの部屋は壁で仕切られており、さらに耐力壁もあったため、この空間を開放することは容易ではありませんでした。そこで当初は、この壁を残したままのプランを第一案として考えていたのです。とはいえ、アーチ状の開口部を設けることで光が住まい全体を巡り、空間に奥行きや視線の抜けを生み出せないかと思い、専門の事務所に調査を依頼しました。技術的には実現可能だとわかり、工事が進むなかで最終的に採用されたのが、このプランでした。開口部は、有機的な印象をもつ柔らかな曲線でデザインしています。官能的な美しさを湛えたこのアーチは、どこか未来的な表情もあわせ持っていて、1970年代に建てられたこの建物へのさりげないオマージュにもなっています。」

「一方で、クライアントが望んでいた地中海らしい空気感とも調和させる必要がありました。そこで両者をつなぐ要素として、アーチの内側をイエローで彩っています。オーカーを思わせるこの色味には、太陽の光を感じさせる温かさがあります。床は既存のタイルを撤去し、フローリングへと変更しました。クライアントは、子どもたちが床に座って遊んだり、裸足で心地よく歩き回ったりできるよう、温もりのある素材を希望していたからです。家具選びも、全体をすっきりと見せることを意識しました。たとえば親がキッチンに立っていても、リビングで遊ぶ子どもたちの様子を自然に見守れるようにするためです。リビングやダイニングなどのパブリックスペースのどこに子どもたちがいても、親の目が自然に届くよう、視線の抜けるレイアウトにすることが欠かせませんでした。そのため、空間には余白を残し、視線が住まいの隅々まで心地よく抜けていくよう配慮しています。そうした考えのもとで家具を選びました(ソファのみクライアント自身が選んだものです)。どのアイテムも、手仕事の温もりを感じさせるクラフツマンシップを軸にセレクトしています。」
キッチン
Before


「リビングのソファに座ると、左手にキッチンが見えるレイアウトです。もともとこの場所は壁で仕切られた、手狭なキッチンでした。一方、現在のリビングに面した位置には、オープンなリビング兼寝室のような空間がありました。」
After


「私たちはこのふたつのスペースをひとつにまとめ、クライアントが思い描いていた、ゆったりとして明るいキッチンを実現したのです。中央にはコンロを組み込んだ大きなアイランドを設け、食事も楽しめるテーブルとして使えるようにしました。収納もたっぷり確保しています。料理をすることも、人を招いてもてなすことも好きなご夫妻ですから、それは欠かせませんでした。アイランドの下部にも収納を備え、壁沿いのシンクを配した設備壁には、下部収納に加え、オーブンまわりにも吊り収納を設けています。」

「さらにその壁の裏側には、パントリー兼ランドリールームを設けました。扉で閉じられるため、買い置きした食材などをすっきりと収納できます。ベジタリアンで、量り売りの食材を日常的に利用するご家族の暮らしに合わせ、食品、野菜や果物などを手の届く場所に整理して置けるよう、細かな工夫を随所に盛り込んでいます。リビングへとつながる二つのアーチよりひと回り小さく、ダイニングへと開くアーチには、棚板を造作しました。たとえばドライフルーツを入れたガラス瓶などを並べておけるようになっています。また、壁には果物や野菜を入れるバスケットも取り付けました。床には、Mercadierの「coco milk」カラーのベトン・シレを採用しています。とてもやさしく柔らかな印象の色です。ダイニングのフローリングとの境目は、あえて緩やかな曲線でつなぎ、有機的で官能的なフォルムを描きました。これはアーチの建築的なデザインとも呼応しています。私たちがとりわけ気に入っているディテールのひとつが、アイランドキッチンの上に吊るしたペンダントライトです。Repulpというブランドのもので、リサイクルした柑橘類の皮から生まれた素材を用いてプロダクトを制作しています。こうしたものづくりの姿勢は、クライアントのライフスタイルにもよく重なると感じました。」
主寝室
Before

After

Before

「リビングでは、コンソールの左手にある扉を開けると、ベッドルームとそれぞれに付属するバスルームが集まる“ナイトゾーン”へと続きます。このエリア全体は大幅に再構成しました。なかでも主寝室は、もともとダイニングルームだった場所を生まれ変わらせた空間です。このゾーンに入ってすぐ右手に位置しています。主寝室は約14㎡。そこに5㎡の組み込み型のクローゼットと3㎡の専用バスルームを組み合わせました。」
After

「ここでも、クライアントが思い描いていた南を思わせる雰囲気を形にしています。その象徴となるのが、ベッドヘッドに設けたステンドグラスです。日の出、あるいは日の入りを思わせるフォルムを描き、選び抜いた色彩は、一日の時間帯によって光の受け方が変化するため、見え方も刻々と表情を変えていきます。光はステンドグラスを通り抜け、廊下側では白い壁に揺らめく美しい光の反射を映し出します。その光景は、本当に幻想的です。夜になると、リモコン操作で廊下側から厚手のカーテンを引き、ステンドグラスを隠すこともできます。寝室に入ると、ベッドスペースへ向かう前に、ウォールナット材の収納家具を備えたクローゼットを通るレイアウトになっています。右手にはテラコッタ製のルーバー状スクリーンを配置しました。目の詰まったパターンによってプライバシーを確保しながらも、光はやわらかく通り抜ける設計です。クローゼットの突き当たりには大きな丸窓があり、その下にはオーダーメイドの家具を造作しました。丸窓を鏡に見立てることで、まるでドレッサーのように見える遊び心のあるトロンプルイユ(だまし絵)の演出になっています。」

「寝室に続くバスルームは決して広くはありませんが、レイアウトを工夫することで、ゆったりと使えるシャワースペースを確保しました。ウォールナット材の洗面台の上に掛けた丸い鏡は、寝室の丸窓を思わせるデザインです。壁にはテラコッタタイルを組み合わせ、まるで壁紙のようなパターンを描きました。タイル自体は艶のある仕上げですが、壁の下部にはあえてマットな質感の帯状のフリーズを巡らせています。空間に個性を与えながらも、あくまで自然体の雰囲気を大切にしたかったのです。」
From madameFIGARO.fr
※この記事は、フランスの新聞社「Le Figaro」グループが発行する「madame.lefigaro.fr」で掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。
- text: Vanessa Zocchetti (madame.lefigaro.fr)