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華麗にして密やかな大富豪、ビル・ゲイツ一家の肖像。
Culture 2021.10.23
初デートに誘ったのは1987年、駐車場でのこと。30年後に離婚するまでの間、ビル・ゲイツとメリンダは億万長者となり、ジェニファー、ローリー、フィービーの3人の子どもをもうけ、慈善事業の「ブランジェリーナ（ブラピとアンジェリーナ・ジョリー）」と呼ばれるようになった。
世界一裕福なカップルだった。2018年にベゾスに追い越されてしまうまでは。1980年代半ば、マイクロコンピューターの黎明期に物語はスタートする。テキサス出身のメリンダ・フレンチは23歳でマイクロソフトに入社し、マーケティング担当となった。9歳年上の彼は、彼女が入社した多国籍企業の共同設立者であり、天才情報科学者のビル・ゲイツだった。
最初の出会いはニューヨークのイベント会場、初めてのデートの誘いは会社の駐車場でだったそうだ。ビルはスケジュールの中から空いている直近の日を探して2週間後を提案した。「あまり意外性がないですね」とメリンダはやんわり断った。ニューヨーク・タイムズによると、そのわずか2時間後、ビルはメリンダに電話をかけてその晩会おうと提案した。「これなら意外性十分ですか？」 こうして恋がひっそりと急速に始まった。
「彼女には何人ものボーイフレンドがいて、私にあったのはマイクロソフト」とビル・ゲイツは2019年のネットフリックスのドキュメンタリーシリーズ『天才の頭の中：ビルゲイツを解読する』でさらっと語っている。「お互いに、『私たちってそんな関係じゃないわよね？』って言い合ってた」
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既婚、子ども3人
ふたりは1998年、世界でのワクチン接種推進のために1億ドル寄付することを発表した。photo : Getty Images
でも事態はどんどん進展していった。結婚の「メリット」と「デメリット」を書き出してリスト化したビルはメリンダにプロポーズする。ふたりは1994年12月31日、ハワイのラナイ島で挙式した。輝くばかりの花嫁はオフショルダーのウェディングドレス、溢れんばかりの笑顔の花婿は白タキシードにいつものメガネだった。もしかしたら、招待客はまだ覚えているかもしれない。ビル・ゲイツがウェディングケーキを完全に均等に切り分けようと計算を始め、花嫁が笑い転げたシーンを。
2年後には長女のジェニファーが誕生し、マイクロソフトのマルチメディア製品部門の責任者だったメリンダ・ゲイツは退職して専業主婦となる。1999年には長男のローリー、2002年には次女のフィービーが誕生する。以後、この一家の暮らしぶりついては、ほとんど知られていない。子どもたちがマスコミの餌食にならないよう、夫妻が心を砕いたからだ。学校に通わせる時にはメリンダの旧姓のフレンチを使用する徹底ぶり。しかも最先端のハイテク家庭なのに、子どもたちは14歳になるまで携帯電話を持たせてもらえなかった。
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華やかさとフェミニズム
ビル＆メリンダ・ゲイツ夫妻がワシントン湖畔に建てた「ザナドゥ2.0」の家。photo : Abaca
子どもたちはシアトルからワシントン湖を挟んだ対岸にあるメディナの豪邸で、プライバシーを守られながら育てられた。オーソン・ウェルズ監督の映画『市民ケーン』の主人公の家にちなんで「ザナドゥ2.0」とオーナー自ら名付けた4,500平方メートルの邸宅は、ハイテク機能が満載なことで知られ、24のバスルーム、6つのキッチン、2つのテニスコートを有する……。
ここではメリンダ・ゲイツが君臨し、マイクロソフトのハードな仕事から離れたところで、ビルに家事の大変さや女性の能力を生かす大切さを教え込んだ。2019年、メリンダは著作『いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる』のプロモーションの一環としてUSAトゥデイ紙の取材に応じた。「ほとんどの人が、ビルに働きすぎの経営者というイメージを持っています。そしてきっとこんなふうに考えているんでしょうね、 『ああ、メリンダはビルと対等じゃないだろうね』って。でも実際は完全に対等の立場です。そうなるには少し時間がかかりましたが」。そして著作の中でメリンダは、数学の問題でビルを負かしたことが役立ったのだろうと示唆している。
イーロン・マスク、ジェフ・ベゾスに次ぐ世界第3位の大富豪であっても、家事をこなすことが家庭では求められた。2000年代初頭、長女が学校に通うようになるとビルは週に2回、往復1時間かけて送り迎えした。こうした小さなことが周囲を変えていくのだとメリンダは言う。「ビルが子どもたちを車で送っているのを見て、他のお母さんたちが家に帰ってご主人に『ビル・ゲイツが送り迎えしているのなら、あなただってできるわよね』と言い始めたそうです」
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親の遺産と静かな生活
3人の子どもたちは、親の遺産をめぐって争うことはないだろう。ビルはずっと前に子どもに残す遺産を決めてしまっているからだ。2015年にソーシャルニュースサイト、レディットでビルはこんな見解を発表している。「何十億もの遺産を残すことが子どものためになるとは思わない。大人になっても働かなくていいのはよくない」
こうして25歳の長女ジェニファーは、スタンフォード大学でヒューマンバイオロジーを学んだ後、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学で医学を学んでいる。学校を移る合間に1年間の休暇を取り、大好きな馬術に専念した。仲良しの馬術仲間はデストリー・スピルバーグ（スティーブンの娘）、ジェシカ・スプリングスティーン（ブルースの娘）、イヴ・ジョブズ（スティーブの娘）だ。両親の離婚発表の1年前、ジェニファー・ゲイツは30歳のエジプト人馬術選手、ナイル・ナサルとの婚約を発表した。2021年10月16日、ジェニファーが両親からプレゼントされた馬牧場の地所でふたりは盛大な結婚式を挙げた。
現在21歳と18歳のローリーとフィービーについては、メリンダ・ゲイツがインスタグラムに投稿する写真を通じて顔が知られているだけだ。添えられたコメントによって、例えば、ローリーが天才か億万長者かどうかはともかく、少なくともフェミニストであることがわかる。
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世界で最も強力な財団
2000年、ビル＆メリンダ・ゲイツ財団が設立された。ヘルスケアや教育の機会を提供すること、極貧を世界から削減することに取り組んでいる。離婚後もふたりは同財団の活動に協力してあたることを声明で発表した。
2005年のタイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた後、ふたりはこんな声明を発表している。「私たちは仕事の上で非常に恵まれていた。だから今度は自分たちが最良の方法で最大限の人々に与えたい」と述べました。
これからメリンダは数十年に渡り、慈善活動のメガスターになるのではないか。すでにそんな風にささやかれはじめている。同じく億万長者の元妻、2019年にジェフ・ベゾスと離婚したマッケンジー・スコットとの共通点を感じなくもない。
マッケンジー・スコットは離婚によって世界で最も裕福で寛大な女性の一人となり、まさにゲイツ家とその友人であるウォーレン・バフェットが立ち上げた寄付啓蒙活動「ギビング・プレッジ」にも名を連ねている。この活動は、超富裕層が自分の財産の半分以上を慈善活動へ寄付する誓約を宣言するというもの。
慈善活動の開始も視野にあったのか、メリンダ・ゲイツは、夫とジェフリー・エプスタインとのつながりが報じられたことを受け、早くも2019年に離婚専門の弁護士と会い始めたと言われている。
text : Marion Galy-Ramounot (madame.lefigaro.fr)
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