ジェーン・バーキン、三人の夫と三人の娘たちとの生涯とは?

Culture 2023.07.17

7月16日、ジェーン・バーキンが76歳で亡くなった。彼女はフランス人に愛されたイギリス人、歌手、女優であり、時代のアイコンだった。だがそれよりも先に彼女は幸せになりたいと願う妻であり、母だったのだ。

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セルジュ・ゲンズブールとケイト・バリー、ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンズブール。(サントロペ、1972年8月)photo: Getty Images

ジェーン・バーキンが愛した男性はひとりではない。それぞれとの間に娘を産み、その娘たち、ケイト・バリー、シャルロット・ゲンズブール、ルー・ドワイヨンは三人とも芸術の道に進んだ。ジェーン・バーキンが育った家庭もありきたりではなかった。ジェーンの父デイヴィッド・バーキンは英国海軍の士官だった。第二次世界大戦中、ドイツ軍との戦いで活躍している。母は女優だった。1930年代から40年代にかけて英国で歌手やミュージック・ホールのスターとして活躍し、劇作家ノエル・カワードのミューズとして当時の文人にもてはやされた。つまり、ジェーン・バーキンは母親からしっかり芸術遺伝子を受け継いでいたのである。

だからだろうか、付き合った相手がみな芸術家だったのは。最初の結婚は1965年、作曲家のジョン・バリーと。イギリスのジャズ界出身、映画音楽のヒットメーカーで、ジェームズ・ボンドのテーマ曲の作曲家として知られる。娘のケイトが生まれたものの、結婚生活は当初からうまくいかず、2、3年しか続かなかった。傷心でフランスへ渡ったジェーン・バーキンはセルジュ・ゲンズブールと出会い、1971年に娘のシャルロットが生まれる。ふたりは数々のデュエット曲をヒットさせた。とびきりセクシーな初デュエット曲「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」に始まり、ふたりが別れた後の1980年代までずっと一緒に音楽作りをしている。だがゲンズブールの酒乱と暴力が理由でジェーン・バーキンはふたりが暮らしていたヴェルヌイユ通りの住まいを逃げだし、伝説のカップルは破局を迎えた。

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彼女が次にめぐり合ったのは同じくフランスカルチャーの大物、映画監督のジャック・ドワイヨンだった。1982年に娘のルーが生まれる。ルーの代父となったセルジュはよくジェーンとジャックの新居を訪れるという不思議な関係が実のところ存在した。やがてドワイヨン監督とも別れ、ジェーンはフェミナ賞受賞作家のオリヴィエ・ロランとつきあうようになる。現在はもう別れているものの、これがジェーンの最後の恋となった。2009年「サイコロジー」誌の取材に対してジェーン・バーキンは「恋をしている状態は本当に恐ろしい。相手を失うのではないかとおびえるから」と語っている。華々しい恋愛遍歴の裏にこんな気持ちが隠れていたのだ。なお、ゲンズブールは別れてから数年後、彼女のために最高に美しい「虹の彼方」の曲を書いている。曲の原題は”Fuir le bonheur de peur qu’il ne se sauve”、すなわち“幸せが逃げないように幸せから逃げる”という意味だ。これが恋愛の極意なのだろうか。

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ケイトを偲んで

ジェーンと娘たちにとって最大の悲劇は長女ケイト・バリーの死だった。2013年、46歳だったケイトは引っ越したばかりのパリ16区のアパートから転落して亡くなった。4年後の2017年、シャルロット・ゲンズブールはアルバム『レスト』を発表、これは部分的にケイトに捧げられたアルバムで、姉の思い出やその墓を訪れたことを歌っている。一方、ジェーン・バーキンも2020年、ニューアルバム『Oh Pardon tu dormais(原題訳:あら寝ていたのね)』でケイトを回想し、なかでも「Ces Murs Epais(原題訳:分厚いこの壁)」という曲でケイトの墓参りに行った時のことを歌っている。

英国訛りで喋り、精力的に活動を続けていたジェーン・バーキンの屈託のなさは娘のケイトの死とともに失われてしまったようだ。ケイトが亡くなる前の2012年、三女のルー・ドワイヨンはファースト・アルバムを発表している。その際のインタビューで、ルーは少女の頃の思い出を語っている。時々、母と急に思い立ってドライブ旅行に出かけたこと。車のトランクルームにはすぐにどこへでも行かれるよう、現金をたくさん積んでいたこと。その頃のジェーン・バーキンは、自分の恋愛観はともかく、娘たちには幸せから逃げないように教えていたのだろうか。

text: Joseph Ghosn (madame.lefigaro.fr)

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