「関係性までもが数値化される現代」セリーヌ・ソン、最新作『マテリアリスト 結婚の条件』で描く恋と愛。【インタビュー】
セリーヌ・ソン/映画監督・脚本家

Celine Song/セリーヌ・ソン
1988年、韓国生まれ。12歳で両親とカナダに移住。クイーンズ大学で心理学と哲学を学んだ後、ニューヨークのコロンビア大学で劇作により芸術修士号を取得、以後劇作家として活動。現在は夫で脚本家のジャスティン・クリツケスとともにニューヨークを拠点に活躍する。
関係性までもが数値化される現代、「人間として生きる」ためには?
初恋の男性との再会を軸に、運命の恋を考察したラブストーリー『パストライブス/再会』で新人ながらアカデミー賞2部門にノミネートされたセリーヌ・ソン。新世代の“愛の語り部”として脚光を浴びた韓国系の新進監督が長編第2作目で選んだモチーフは、条件で結婚相手を選ぶ結婚相談所を巡る現実だった。
「実は10年ほど前、私は結婚相談所でマッチメイカーとして働いたことがあるんです。その6カ月は、私が最も人間について学んだ期間となりました。それ以来、マッチメイカーの物語をどのように映画化できるのかずっと模索してきました。“デートの専門家”が自分の恋愛に関しては不器用であるというのは興味深いですよね」
主人公のルーシーは、愛し合っていたにも関わらず、経済的な理由で別れた舞台俳優のジョンと再会する。
「いまや、出会いの市場はスマホの中に移行しました。スマホの中に巨大な市場がある。この映画で最も重要なセリフは『私は商品じゃない、人間よ』という言葉です。ジムに行き、ボトックスを打ち、整形をし、ヘアメイクを完璧にし、ブランド品を身に着け、自分を価値ある商品として演出しなければならない。その中で、『でも私たちは人間だったはずだ』という切実な問いが生まれるんです」
愛か結婚(条件)か、というヴィクトリア朝に生きた『高慢と偏見』の作者ジェーン・オースティンの時代から続く普遍的な悩みを抱えるルーシーに対し、ソン監督の恋愛観と結婚感は明確だ。
「結婚は契約であり、ともに暮らすパートナーシップであり、非常に物質的で実務的な行為です。ある種のビジネス取引のようなものです。一方で愛となると、それは偉大なる神秘であり、それ自体でしか表現できない太古からの感情とみなされています。そして、私たちをとても愚かにさせるものです。“賢い結婚”については語れますが、“賢い愛”なんて言葉はありませんよね?」
“恋に堕ちることは雷に打たれるような奇跡”。そして結婚相談所やマッチングアプリは、嵐の荒野を「フォークをかざしながら歩く行為」なのだという。
「でも、私がこの映画作りにおいて学んだのは、“真実の愛は1200万ドルのマンションより価値がある”ということが、現代では最も過激な主張だということ。みんなに驚かれますからね」
コミュニティの輪郭が薄れ、関係性までもが数値化される時代にあって、本作が描き出すのは「愛か結婚(条件)か」という古典的な選択そのものではない。むしろ、そのどちらを選んでも残る違和感——自分の価値をどこに置くのかという問いである。ルーシーの逡巡が照らし出すのは、“選ぶ/選ばれる”という構造に組み込まれた私たち自身の姿なのだ。

『マテリアリスト 結婚の条件』
結婚相談所でマッチメイカーとして働くルーシーは、クライアントの結婚式で裕福な投資家のハリーと出会う。会場では経済的な理由で別れた元恋人のジョンとも思わぬ再会を果たし——。5月29日からTOHOシネマズ 日比谷他全国で公開。
- text: Atsuko Tatsuta
*「フィガロジャポン」2026年7月号より抜粋