イタリアの美少年リマウが考えた、いじめと社会のこと。

インタビュー

北イタリアの地方都市を舞台にした、切なく煌めく青春映画『最初で最後のキス』。ポップな服装で、ゲイとからかわれてもユーモアで受け流すロレンツォ、過去の噂によってほかの女子からのけ者にされるブルー、そしてバスケはうまいけれどトロいとからかわれるアントニオ。そんな男の子ふたりと女の子ひとりが出会い、意気投合して青春を謳歌する姿は、『はなればなれに』(1964年)や『ウォールフラワー』(2012年)を思い起こさせもする。

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リマウ・グリッロ・リッツベルガー演じるロレンツォ(中央)とアントニオ(左)、ブルー(右)。

そんな映画の中で、チャーミングな魅力を振りまくロレンツォ役のリマウ・グリッロ・リッツベルガーが来日。インドネシア人の父とオーストリア人の母を持ち、3歳でイタリアに移住したという新星が、きらきら瞳を輝かせ、映画の魅力とメッセージを伝えてくれた。

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撮影時に高校生だったリマウは現在、ローマ大学哲学科に通う現役大学生だ。

——この『最初で最後のキス』で鮮烈なデビューを飾ったわけですが、演技に向かったきっかけは?

「中学生の頃、とても優等生と呼べる学生じゃなかった僕は、親に夏休みの間、オーストリアにいる叔父の広告会社で働いて来い!と言われて。映像の編集や吹き替えの仕事を手伝ううちに面白さに目覚めました。

夏が終わり、イタリアに戻ってからは、映画の仕事がしたいと思うようになり、自分で短編を作ったり、舞台の裏方や俳優をしたり。そこにこの映画のオーディションの話がきたので応募したんです。ロレンツォ役はとても素晴らしい役で、大きな転機になりました。いまはローマ大学の哲学科で勉強をしながら、俳優も続けていきたいと思っています」

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スターを夢見るロレンツォは、イタリア北部の町ウーディネに転校してくる。

——あなたがロレンツォ役を射止めたオーディションには、2,000人の応募があったそうですね。

「イヴァン(・コトロネーオ監督)のオーディション方法はとてもユニークでした。この映画はとにかくロレンツォ、ブルー、アントニオの3人がかみ合うことが大切だからと、コンビネーションのよい3人組を作って、最終的に残ったのが2組。監督は、個々の役者の技量より、カメラを通して信じられる友情が3人から感じられるのかを重視していましたね。ほかのふたりとは撮影セットの外でも連絡を取り合い、いまでも友情が続いています」

——監督は、もともと2008年にアメリカで、ゲイの中学生ラリー・キングが同級生に撃たれるというショッキングな事件をもとに小説を書き、今回さらに脚色しているそうでうね。

「そもそものインスピレーションはラリー・キング事件ですが、映画はそこから飛躍して、思春期の難しさ、壊れやすさを描こうとしています。またゲイか、ゲイじゃないかだけでなく、いじめや社会の問題についても語っています。

イタリアでは、学校でも社会でも特に女性同士のいじめが激しいけれど、このいじめ問題を描くため、小説にはないブルーという女の子の役が生まれた。学校は、いじめがはびこる大人の社会の縮図だから、いじめのない社会に変えていかなければというイヴァンの考えに共感します」

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いまでも友情が続いているという3人。

——いじめの対象であっても、ロレンツォはユーモアに溢れ、動じませんね。彼を演じるうえで難しかったこと、楽しかったことは?

「イヴァンから言われていたのは、ロレンツォはゲイで女性的でポップということだけ。そして撮影までに、演劇の勉強をしてくるように、それと振付家についてダンスを習ってくるようにとだけ言われました。ロレンツォは、とても愉快な人物で、僕が普段は着ないような蝶の柄の服を着るのも楽しかったし、彼を演じることによって僕自身、すごく開放されました。ただ、当時高校生だった僕は、まだロレンツォほど自分自身が確立していなかったから、自分を表現すること自体が難しくもありましたね」

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高校生たちがブーイングした理由。

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レディー・ガガをはじめとするポップな楽曲の数々も本作にとって重要な役割を果たしている。

——ロレンツォが歌って踊るミュージカル・シーンも見どころのひとつです。

「学校の前で皆に迎えられる場面や、同級生が家にやってきて彼に謝るシーンなどのミュージカル場面はロレンツォの空想であり、彼にとって、イマジネーションはとても大切なもの。なぜなら、空想は彼が直面している厳しい状況から逃げるためのものだから。

ブルーは、大人になった自分を想定して手紙を書くことにイマジネーションを使い、アントニオは死んだ兄に話しかけて現実逃避している。アントニオの場合はもっとも危険で、自分が感じていることを兄の批判としてとらえるけれど、それらは自分が撃つ銃の引き金にもなるのです」

——映画に漂う死の陰が、生を一層輝かせる効果も生んでいると思います。

「3人には生と死、その両方への思いがあり、死が強く意識されると悲劇に向かうけれど、それは絶対的な悲劇ではないんです。映画で幾度となく示唆される死には、それぞれに分かれ道があり、正しい選択をすれば死は避けられ、間違った選択をすれば直面することになります」

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この作品では、いじめや差別がネットやSNSによってさらに深刻な状況に若者たちを陥らせている現状をリアルに描いている。

——『最初で最後のキス』はイタリアでスマッシュヒットを記録したそうですが、若い観客からの声で印象に残っているものがありますか。

「いじめについて語り合うプロジェクトで1年間、この映画とともに各地の学校を回りました。ある日、ロレンツォのキスの場面で、ある少年がブーイングして。上映後、僕はブーイングの理由を知りたくて、学生たちに向かって『どうして?』と呼びかけましたが、誰も名乗り出なくて。

でも、ひとりの少年が立ち上がって、『自分もキスの場面ではブーイング派だったけれど、映画のフィナーレを見て、自分のような考え方のせいで、こういう結末になったとわかった』と言ってくれたんです。この勇気ある発言は、僕にとってとても感動的な思い出になりましたね」

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初日の舞台挨拶より。

Rimau Grillo Ritzberger
1997年4月15日、オーストリア、ウィーン生まれ。インドネシア人の父とオーストリア人の母を持つ。3歳のときにイタリア、トリエステに移住。演劇のワークショップに通っていた経験があり、今作が映画初出演。現在はローマ大学で哲学科に在籍中。

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『最初で最後のキス』
●監督・原案・脚本/イヴァン・コトロネーオ
●2016 年、イタリア映画
●106 分
●提供/日本イタリア映画社
●配給/ミモザフィルムズ/日本イタリア映画社
©2016 Indigo Film – Titanus
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国にて順次公開中。
http://onekiss-movie.jp

interview et texte : REIKO KUBO

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