ユーゴ・マルシャン、来日公演での独占インタビュー。

インタビュー

今年の2月、約3年ぶりとなる来日公演で日本のバレエファンを魅了したパリ・オペラ座バレエ団。その伝統と格式を誇るバレエの殿堂の輝けるエトワール、ユーゴ・マルシャンに、この来日公演で主役を務めた演目『オネーギン』のことや、演じるということ、そして、ファッションやプライベートについて公演の合間を縫って直撃した。

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本誌撮影時のアザーカット。シャツ¥129,800、パンツ¥176,000/ともにジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン)

――フィガロジャポンでのジョルジオ アルマーニのファッション撮影はいかがでしたか?

すごくライブ感があって、驚くほどスピーディなのに、写真はどれも美しい! パリでの撮影だと時間がかかることが多いんだ。フォトグラファーを含め、スタイリストもジョルジオ アルマーニの衣装も、すべてが素晴らしく、楽しい撮影だったよ。

――ファッションモデルの仕事の依頼も多いですか?

そうだね。そんなに多くはないけど、あるかな。雑誌のモデルやブランドのモデルを務めたりしているよ。

――ファッションモデルの仕事とバレエダンサーの仕事の取り組み方に違いはありますか?

まず、バレエで舞台に立つ時は、チャンスは1回。ミスしたら、もう取り戻すことはできないんだ。でもモデルの仕事は何度でもトライできるよね、納得いくまで何度も写真を撮ることができる。さらに、モデルとして撮影に臨んでいる時は、被写体である僕の近くにいるフォトグラファーと、どこから光が当たっているかにだけ集中すればいい。でもステージだと観客は遠くにいるから、もっと表現力を必要とする。舞台でバレエを踊る時、僕はできる限り、自分自身でいようと思う。

けれど役を演じているわけだから、別のキャラクターになる必要もある。今回、東京で披露した演目『オネーギン』の役も、さまざまなディテールをちりばめて、僕らしさを交えながら演じているんだ。逆にモデルをする時は、完全に僕のまま。自分らしく撮影に挑んでいるよ。そして、舞台で踊る時には観客との距離を常に測って、表現の大小を考える。舞台によっては観客とすごく距離がある場合があるからね。こと、『オネーギン』はニュアンスが大切な物語なんだ。

だから、しっかり考えて演じないと。メイクもそう。舞台と観客との距離を考慮して、会場によってメイクの濃さも変えるんだ。さまざまな方向から、ベストなものを精査して舞台に取り組んでいる。

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シャツ¥264,000、パンツ¥129,800/ともにジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン) ブレスレット/私物

――今回の来日公演で日本の観客の前で『オネーギン』を演じることについては?

3年前の東京公演で僕はエトワールに任命されたこともあって、日本には特別な縁を感じているよ。そして、日本のファンはバレエをとても愛し、僕たちをいつも温かい声援で迎えてくれるんだ。日本のファンは僕たちの公演をいつも首を長くして待っていてくれる。だから日本公演は、僕にとってもスペシャルなもの。

そして、『オネーギン』は僕がずっと演じたかったキャラクターで、大好きな演目でもある。僕が演じる主人公、オネーギンはとても複雑な性格で、いい人でも悪人でもない、すごくグレーな男。でも、そんな複雑な部分はどんな人にもあると思う。だからこそ、僕はオネーギンに共感するし、彼が好きなんだ。演じるたびに発見があって、新しいオネーギンの一面に出合うことができる。決して飽きないキャラクターだ。2年前に自分が同じ役を演じた映像を観ると、「なんで、僕はこんなふうに演じているんだろう? いまなら違うふうに表現したい」と思ったりもする。

その2年間で僕自身も成長しているし、オネーギンの感情の捉え方も変わってきてるんだよね。僕自身の2年間の人生で何が起きたか、どんな経験をしたかが演じるキャラクターをもっと豊かなものにしてくれる。それがバレエダンサーの仕事のおもしろいところで、僕が大好きな部分。演じている僕の人生が、そのキャラクターに強い影響を与えることになるのだから。僕は、その時の僕にしかできないオネーギンを演じることができるんだ。『オネーギン』もそうだけれど、バレエの演目は暗い物語も多い。それを美しく伝えることも僕たちの役割だと思っている。

――役作りは好きですか?

はい、好きです。バレエダンサーとしての仕事の中で、僕がとても好きな部分のひとつとも言えるね。もちろん、毎日のトレーニングで身体が変わっていくのを、踊りの面でさらに上達するのを感じるのも楽しい。でも、それはいつもいい結果ばかりじゃない。疲れていることもあるし、思いどおりに身体が動かない時もある。

いっぽう、身体ではなく感情を駆使して演じるアーティスティックな部分も、バレエダンサーにとっては非常に重要なパート。日々の僕自身の感情の積み重ねが演技に繋がっていく。特に『オネーギン』は微妙なニュアンスを表現することが大切で、物語の中で1カ月後、10年後の役を、たった20分しか経っていない間に演じ分けないといけないんだ。その間の彼の心境の変化、時間が経過した時の彼の思いに考えを巡らせる。そして若い時と年を重ねた後では、動きも違うからね。踊り方も変えている。そんな部分も『オネーギン』を演じるうえで興味深いところだね。

『オネーギン』の原作は、映画にもなっているロシアの小説。僕は原作を読んだり、映画を観たりして、才能あるさまざまな人が描くオネーギンの姿に触れてみた。そこからいくつかの要素をピックアップして、僕なりのオネーギンを作り上げるんだ。さらに恋に落ちる、失恋する、家族と喧嘩する、大切な人を失うといった僕の人生に起きたこと、それにより、とても気持ちが揺さぶられた時の感情をステージで演じている時にシンクロさせる。フリではなく、演じている役柄と同じように、僕自身も同じ気持ちにならないと演じ切れない。

バレエダンサーの仕事はいろいろな人を演じられるのも魅力的。実生活でさえないことがあっても、別のキャラクターを演じることで気持ちが晴れたりするからね。とにかく、バレエダンサーは考えることが多い仕事。おかげで僕は子どもの頃から、自分に与えられた役割をじっくりと考える癖が付いていて、早熟な子だったね。

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ジャケット¥363,000、パンツ¥195,800、サンダル¥129,800/以上ジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン) ブレスレット、リング/ともに私物

――あなたと同じくパリ・オペラ座バレエ団に所属するダンサー、オニール八菜さんとジェルマン・ルーヴェととても仲良しだそうですね。

とても仲が良いよ。八菜は素晴らしい女性。一緒に演じるのもとても楽しい。僕は演じる時、相手役のダンサーに本当に恋をしようと思うんだ。だから、もちろん八菜にも何度も恋をしてるよ。彼女は女性だから、ライバルにはならないけど、ジェルマンもちょっと違うかな。僕たちは学生の時から一緒で試験も一緒に受けてきたんだ。ときには彼が1番で、僕が2番。ときにはその逆、とね。そんな関係をもう10年間、続けてきた。

そもそも、僕とジェルマンは体格も違うし、性格も違う。それによって演じる役も違うのは当たり前。リンゴとモモを比べる必要ないよね、互いに違うものなんだから。僕とジェルマンもそんな感じだと思ってもらえれば。もちろん、たまに同じ役を演じることもあるよ。その時は、エモーションや疑問点をシェアもする。僕らは一緒に取り組むんだ。僕たちは、ともにトップを目指しているし、いつもベストを尽くしている。だからこそ、ダンサーとしての関係は難しいこともあるかもしれない。でもジェルマンは僕にとって兄弟のようなもの。13歳の時に知り合って、もう26歳。人生の半分はジェルマンと一緒にいるんだね(笑)。

――ファッション界のイベントなどにも参加していますね。

日本はどうかわからないけど、フランスでは以前より、ファッション界がバレエダンサーに興味を持ってくれるようになってね。ブランドのパーティやファッションショーのゲストとして呼ばれることも多くなっている。モデルの仕事もその一部。僕たちのアクションで服が映えることが彼らにも伝わったのだと思う。僕は美しくて、常に完璧を求めるアルマーニのクリエイションは素晴らしいと思う。

アニエスベーもよく着ているかな。どこのブランドかすぐにわからない服っていうのも気楽でいいよね。実は、僕の体形にぴったり合う服を探すのは、結構難しいんだ。太ももにはしっかり筋肉が付いていて、ウエストがすごく細いからね。さらに身長が191cmもあるから。でも今回のジョルジオ アルマーニの撮影でトライした服はすべて着心地がよかったよ。すごく主張しているわけではないのに、特別な気分になれたコーディネートだった。クールな大人の男になれた気がしたよ。

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ベスト¥187,000、パンツ¥157,300、シューズ¥126,500/以上ジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン) ブレスレット、リング/ともに私物

――時間があったらどう過ごしていますか?

まとまった時間があったら、パリを離れて田舎に行く。ナントの実家に帰ったりね。旅行にも行くよ。今年の1月には南アフリカを旅した。僕は10日間くらいなら休んでも大丈夫。そのくらいなら、身体を休め、バレエから離れてもスムーズに復帰できる。毎日、必ず練習をしなければならないってことではないから。今年のこれからの予定は、6月はオーストラリアで、8月にはまた日本で公演があるよ。仕事で世界中を旅して回れるってラッキーだよね。旅先で自然に触れて、現地の人と話して、刺激を受けているよ。

――東京ではどこに行きますか?

東京へは仕事でしか来たことがなくて、いつも公演が詰まっていて、ヘトヘトなんだけど、表参道、青山、代官山、中目黒辺りが好きでよく行くし、ショッピングもするよ。あと、僕は日本のウィスキーが大好きなんだ。でも、体形維持のためにそんなには飲めないんだけどね。だから、時間があってリラックスしたい時に、少しだけね。ここのところ年に2回ほど来ている東京も大好きだけど、次回は北海道、沖縄、富士山……と、日本で行ってみたいところはたくさんあるんだ。

――食事も制限したりしますか?

しないよ。毎日、長い時間、身体を動かしているから、食べてないと痩せていってしまうから。踊る体力もなくなってしまうんだ。バレエの演目は2〜3時間続き、とても疲れるし、息も切れる。ときには、今日の演目、最後まで演じ切れるだろうか?と思うことさえあるんだ。だから、常に自信を持っていられる状態にしておかなければならない。そのためにはしっかりした準備が必要だし、正しい食事も大切。

もし、少しでも心配事があったら、身体が思うように動かないこともあるからね。だから、お菓子やジャンクなものでなはく、身体に良いヘルシーなものをしっかり食べて、栄養を摂らないといけないんだ。実は僕、チョコレートも大好きなんだけどね(笑)。日本にはお好み焼き、焼き鳥、トンカツ、そば、うどん……大好きなものがいっぱいあるよ。次回、また8月に戻ってくるのが楽しみ!

ユーゴ・マルシャン Hugo Marchand
1993年、フランス・ナント出身。2007年にパリ・オペラ座バレエ学校に入学。17年3月にエトワールに昇格。今回の来日ではドラマティックバレエの傑作『オネーギン』 で主役も務めた。私生活ではチョコレートと日本のウィスキーを愛し、長い国外ツアーに出ると、ちょっとホームシックにもなってしまう、明るくてチャーミングなキャラクター。
●問い合わせ先:
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
tel:03-6274-7070

※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。

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photos : KINORI ITO (aosora), stylisme : RENA SEMBA, coiffure : NORI TAKABAYASHI (YARD), text : TOMOKO KAWAKAMI

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