【Weekly連載 23】ある父と子の「繋ぐ」お話。
caoの心の育て方。
ある国の、ある店でのツナグお話……
旅先での楽しみの中に、地元の方しかいかないようなお店でおしゃべりを楽しんだり、地酒をいただいたり。
ん?
もはやこれが楽しみで旅に出るのかも知れない……。
そんな旅先で、お互いを知らないからこその、他愛もないおしゃべりをしていたときのこと。
お酒を飲みながら、相手が屈託のない笑顔を浮かべながら、仕事の思い出話を始めた。
フフッ
こんな瞬間が大好き……
クーッ
やめられないっ
「転職して入ってきたんだ、25才の若者がね。
その彼を初めて見た時、誰だっけな、懐かしいような、よく知ってる人の面影と重なるなと思ったんだよね。
名前を聞いたら、僕が若い頃とてもお世話になった先輩と同じ苗字で。
よくよく話を聞いてみると、その先輩の息子さんだったんだよ。
びっくりしたよ。」
あの先輩の息子さんなのかと驚きながら、その若者の教育係として彼を育てることになったそう。
先輩は昔、登山中に事故で亡くなり、お葬式で見かけた先輩の息子さんは、当時まだ15才。
その15才の彼が、大人になって転職してきて、10年後に再び出合ったという不思議な巡り合い、だったそう。
そして、
「彼に教えるその言葉は、彼のお父さんから教えてもらった言葉なんだよね。
だから、兄のような、お父さんの代わりのような、両方の気持ちを感じながら、彼と接していったんだ。
彼が僕を見つめる目は、かつての僕が先輩に向けていた目と同じなんだろうと思う。
先輩はこういう気持ちで僕を見ていたのか、こんな気持ちで教えてくれていたのかと、なんだか府に落ちたというか、あの時の先輩の仕草、言葉が理解できた気がした。」
教え、教わっている二人を、亡くなった彼のお父さんが見守っている様子が視える。ニヤニヤしちゃってさぁ。
「まさか、先輩からもらった言葉や教えてもらったことを、先輩の息子に伝える時が来るなんてね。」
亡くなることを察していたのだろうなぁ。
また、未来を感じ、その時のために、あの時後輩に伝えたかった言葉があり、伝えていったんだろうなぁ。
親から子へ直接ではなくても、こうやって言葉は世代や血縁を超えて繋がっていく。
関わった人全員を通して、言葉とか、思い出とか、大切な瞬間とか、色々なものが。
しばらくの間の後、
「人間はそれだから楽しいんだよな」
と、つぶやいている彼の顔があたたかい。
思い出話をすることで、過去にあった時間はさらに生き続けていく。亡くなった方からすると、それはたまらなくうれしいこと。
亡くなったり、疎遠になったりして、いまはいない誰かをさみしく感じることがあっても、そこでおしまいではないのですよね。
誰かを想う気持ちを素直に大切にしたい、って思ったりしてね。
【受け継いで発展、3つのお話。】
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illustration : MARIKO ENOMOTO