うつわディクショナリー#35 毎日の食卓に志村和晃さんの絵皿を

料理好きな陶芸家が作るカジュアルな染付

陶芸家の志村和晃さんは、料理がとても上手。気取らない毎日の食事であっても、献立に合わせてうつわを変えて楽しむ日本人の食卓とうつわの楽しさをよく知っています。だから、その手から生まれるものは、かたちも絵付けもバリエーションが豊富。好きな料理に合わせていろいろ揃えたくなるのです。
 
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—志村さんの作品は、とくにお皿のバリエーションが豊富な上に絵付けも軽やかで選びがいがありますね。
志村:かたちや絵柄は、古いものを参考にすることが多いですね。 6枚の花びらが開いたようなお皿は宗の時代のものからかたちを写したり、大きな花器は、イタリアの古いマヨリカ陶器から取りました。ポット類はアンティークの金属のポットのかたちがいいなあと思って写すこともあります。
 
—焼物に限らず、いろいろなところからインスピレーションを得ているんですね。
志村:僕は京都で陶芸を学んで、その後、石川県の九谷焼の陶芸家・正木春蔵さんのところで働いたんですが、その時に、古いものをよく見て学ぶことを教えられたんです。京都では、京焼のようにきちんとしたかたちや絵付けを教えられましたが、正木さんのところで見たもの、例えば中国の古染付などは、揃いのお皿でもひとつひとつ微妙に絵付けの位置が異なっているものもある。だけど、五客揃えて全体として見た時には調和が取れているんです。絵柄が違うことで楽しみのあるうつわになっているのが分かりました。そういうの、いいなって思いましたね。
 
—凝り固まらないで、いいと思ったものを取り入れるのですね?
志村:「均一でなくてもいい、一定でないこともいいことなんだ」というのは、正木さんに教わったことのひとつでもあります。石川で働いた後、益子の製陶所に移り、職人として同じかたちの陶器をたくさん作る経験もしました。その後独立して、いまは実家のある館山に工房を持っています。京都、石川、益子で磁器にも陶器にも、絵付けにもかかわり、いまは、そのどこからも離れて制作している。離れることで、それぞれのいいところが見えてきて、自然にミックスさせるようになったのだと思います。
 
—色絵の作品は、染付の青に赤や黄色を控えめにプラスしているところがモダンです。
志村:九谷には、九谷五彩と言われる赤、黄、緑、紫、紺青の伝統的な絵の具があるのですが、今回の個展では、その色使いも意識しています。素焼きや本焼きを終えたお皿を目の前に置いて「さて、今日はどんな絵付けにしよう」と考えるのもいい時間です。
 
—絵付けはカジュアルで気軽なのに、かたちは安心感のある日本のうつわ。このミックス感は志村さんならではというわけですね。
志村:自分では「作家だからこう作る」というのはそんなになくて、ただ、普通の食器を作りたいと思っていますね。
 
—志村さんは料理も得意。展示の際には、美味しそうな煮物や揚げ浸し、パスタを自作のうつわに盛り付けた写真アルバムをいつも置いています。
志村:使う場面を想像して作品を見ていただくのもよいのかなと。それに自分で使ってみると、大きさや重さを細かく意識するようになります。特にお皿は、縁にいくにしたがって薄手に仕上げたほうが、盛り付けが綺麗にみえるし、取り扱いもしやすい。そのために、すこし手間はかかりますが、ろくろでひいた生地を、さらに型にあててかたちをつくる「型打ち」の技法を取り入れたり、作り方のアイデアにも繋がっていくんです。
 
—手作りのうつわを毎日の食卓で使う楽しみは、志村さんにとってどんなものですか?
志村:使いやすいとか絵柄がかわいいとかうつわとして気に入っていることがあった上で、作り手のことを思い浮かべながら使えるのが、買ってくださる方にとって気持ちのいいことなのかなと思います。そういう風に思ってくださる方のために、これからも作り続けていきたいですね。
 
※2018年9月14日まで駒場の「うつわPARTY」にて「志村和晃展」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語九谷焼・くたにやき】
日本を代表する色絵陶磁器で絢爛豪華な上絵付けが特徴。五彩手(九谷五彩)と呼ばれる赤、黄、緑、紫、紺青の上絵の具で絵付けをする。
【PROFILE】
志村和晃/KAZUAKI SHIMURA
工房:千葉県館山市
素材:磁器(九谷の土)、陶器
経歴:京都で陶芸を学び、石川の工房、益子の工房を経て2012年独立。染付の磁器、鉄絵の陶器、鮮やかな釉薬の陶器などさまざまな作風を持つ。1979年千葉県館山市生まれ。

うつわ PARTY
東京都渋谷区駒場2-9-2
Tel. 03-3467-6830
営業時間:11時〜19時(展示会最終日〜17時)
定休日:会期中無休
https://utsuwa-party.com/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『志村和晃展』開催中
会期:2018年9/8(土)〜9/14(金)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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