リトアニア・ヴィリニュスの街角で見かけた、白樺のある家に降り注いでいた光。
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニア・ヴィリニュスの旅。

白樺のある家、そして夏の光。
vol.42 @ リトアニア・ヴィリニュス
旅はその土地を離れても終わらない。ある場所に対する思いや探究は、むしろ少し時間を経てからのほうが広がりや繋がりを増して自分にとっての意味が深まる。でもそれは旅に限ったことでもなく、体験したことや身につけたことで人間は構成されていくから、それら交々を心身に漂わせて生きていると、関係なさそうに見えるあれとこれが、ある時から意外にも繋がって絡み合い、それに導かれるように次の扉が開かれたりする。時が熟成を経て大きな意味や効果をもたらす。
映画『MOTHERLAND』を観て、現在のリトアニアで生きる人々と、心を残しながらも遠い国で生きることになった人々の心の繋がりを考えた。
「当たり前の自由」が得られなかった時代を耐え、戦い乗り越えて、明るい時代を迎えても、大国がすぐそこにある危機感は続く。この映画の舞台になっている1992年にリトアニアに生きていた人々は、2026年のいまもまだ隣国が戦争している状況を予想していたかもしれないが……相変わらずそこここで人々の人生は脈打って続き繋がっていく。この映画はリトアニア系アメリカ人のヴェングリス監督の体験をもとに描かれている。ソ連時代に家族を失い、自由を求め渡米した母親が、初めて12歳の息子を連れ独立直後のリトアニアに帰国、心機一転、新生活のため「私の家」を取り戻すべく奔走する、特別なある夏の日々。2年前の夏、ヴィリニュスの街角で見かけた白樺のある家に降り注いでいた光を私は思い出した。


『MOTHERLAND/マザーランド』
●監督・脚本/トーマス・ヴェングリス
●2019年、リトアニア・ラトビア・ドイツ・ギリシャ映画
●96分 ●配給/太秦
●7月4日より、シアター・イメージフォーラムほか全国にて
順次公開
Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。
昨年夏から始まった写真展の巡回が6月上旬で一段落、少し寂しいが、新しい作品をたくさん撮りたい。この頃、写真がいつにも増しておもしろい。
- photography & text : Yayoi Arimoto
*「フィガロジャポン」2026年8月号より抜粋