パリのピカソ美術館では、ピカソの“地中海時代”を初夏に紹介したが、いま開催しているのは『マジック・ペインティング』展である。1926年夏から30年春にかけての短期間に彼が大量に生産した作品群を、38年に美術批評家クリスチャン・ゼルヴォが“マジック・ペインティング”と命名したピカソのひとつの時代。それらに描かれているのは、その後ゲルニカでもみつけることができる奇妙な顔や人体である。画布の中の異様なフォルムは、見る人の思考にも影響を与えるパワーが特徴だ。当時、ピカソがコレクションしていたプリミティブな像やマスクからのインスピレーション、当時パリを席巻していたシュルレアリスムの影響も、それらに見いだすことができる。恐るべき創造のイマジネーションゆえ、ゼルヴォにはピカソがマジシャンに思えたというのが、この命名の所以だという。
マジック・ペインティングは合計150点近く制作されたのだが、1938年以降世界各地の美術館、個人コレクターの所有となりあちこちに散逸してしまったので、こうしてひとつの場所でまとまって鑑賞できるこの展覧会はとても貴重なのだ。ピカソのあまり知られていない時代を発見する楽しみもある。

展覧会の第1室に展示されている『Arlequin(アルルカン)』(Pablo Picasso / 1927年5月)。© The Metropolitan Museum of Art, Dist. RMN-Grand Palais / image of the MMA © Succession Picasso 2019

マジック・ペインティングのモデルは女性であることが多い。右は『Femme endormie dans un fauteuil(肘掛け椅子で眠る女性)』(Pablo Picasso / 1927年)。

右は展覧会のポスターにも使われている『Femme dans un fauteuil(肘掛け椅子に座る女性)』(Pablo Picasso / 1927年)。初期の作品に比べ、色が鮮やかだ。
1926年。この夏、南仏のジュアン・レ・パンで過ごしたヴァカンスからパリに戻る道中、車の屋根の上に積んでいたピカソの作品が盗難にあってしまう。その時難を逃れた7点が、その後マジック・ペインティングと呼ばれることになる最初の作品である。マジック・ペインティングの最後の16点が制作されたのは、29年11月末から30年3月までの期間で、それらは衣装ダンスを解体した木材に描かれていた。展覧会では12のテーマに分けて、マジック・ペインティングを展示。開催終了後はまた世界に散ってしまうことを思うと、この展覧会は見逃せないのでは?

第3室に展示されている非西欧オブジェ。ピカソは20世紀初期から1920年にかけて、これらを多数コレクションしていた。マジック・ペインティングはこのタイプのオブジェへの嗜好からの発展である。

『メタモルフォーズ』と題された第4室。1927年にカンヌで制作されたマジック・ペインティングを集め、身体のパーツの拡大、動きの強調などにより彼がいかに“水浴する女性”をメタモルフォーズしたのかを見せている。中央は『Nu sur fond blanc』(1927年)。

当時制作されたオブジェもまたマジックである。

第5室の『Guitare』(Pablo Picasso / 1927年4/27)。© RMN-Grand Palais / Mathieu Rabeau © Succession Picasso 2019 。ギターとともに、アルファベットのMとTが見てとれる。当時の愛人マリー=テレーズ・ヴァルテルのイニシャルだ。

ボエシー通り21番地の画廊ポール・ローゼンバーグで、1929年〜30年にピカソのマジック・ペインティング展が開催された。これがきっかけで、マジック・ペインティングは国内外の個人や美術館の所蔵品入りを果たすのだ。
Musée Picasso
5, rue de Thorigny 75003 Paris
tel:01 85 56 00 36
期間:開催中〜2020/2/12
開)10時30分〜18時(火~金) 9時30分~18時(土、日)
休)月、12/25、1/1
入場料金:14ユーロ
réalisation:MARIKO OMURA
この記事の元URL: https://madamefigaro.jp/paris/191223-picasso.html