パリジェンヌ陶芸家が生み出す、物語のあるうつわ5選。【パリの可愛いもの】

Paris

パリ在住編集者の鈴木桃子が見つけた「パリの可愛いもの」連載。第4弾は、個人的にも注目している5人のパリジェンヌ陶芸家が手がけるプレートや花器にフォーカス。


趣味として陶芸を楽しむ人が多いパリでは、コロナ禍以降、陶芸家へと転身する女性も増えている。一方で、日々の食卓に作家もののうつわを取り入れるフランス人はまだ少なく、供給過多ともいえる状況を感じることも。そうした背景もあってか、パリジェンヌたちが手がけるのは、オブジェとして楽しめるアートな作品が多い。日常使いを想定したうつわには、食洗機に対応するストーンウェアを用いるなど、実用性への配慮が見られる。作家自身の個性や感性が色濃く反映され、それぞれの物語が息づくうつわは、日本の作家ものとはまた異なる魅力を放つ。

1.マロ・アトリエ

どんな料理も引き立ててくれる、控えめな美しさ。

マロ・アトリエのうつわに出合ったのは、茅場町のフレンチレストランNekiでのこと。料理に美しく寄り添うプレートやボウルが気になり、オーナーの西さんに聞いたところ、オープン時に大量発注したことを教えてもらった。19区にアトリエを構えていたが、私がパリに移住した頃には、コロナ禍でロワレの田園地帯へと拠点を移したばかり。しばらくパリにアトリエを持たない時期が続いたものの、今年から再び19区のアトリエをショップとして開き、毎週土曜日に店を開いている。

建築設計事務所での仕事を経て、2016年に陶芸家へと転身。手がけているのは、実用的なうつわばかり。すべてろくろで成形し、ブルゴーニュ産のストーンウェアを用いて制作している。シンプルかつモダンでありながら、手仕事の温もりを感じさせる。控えめで素朴な佇まいが、料理そのものの美しさを引き立ててくれる。見た目だけでなく、日常生活での使用に耐えうる実用性を重視し、安定感があって丈夫で使いやすいのが魅力だ。実際に、どんな料理も受け止めてくれるうつわは、レストランからのオーダーが絶えないのだとか。

Malo Atelier|マロ・アトリエ
57, rue Rebeval 75019 Paris ※土曜日のみ
https://www.instagram.com/malo.atelier/

2.マチルダ・マタン

ミニマルな力強さを放つ、彫刻的な花器。

パリ近郊パンタンにアトリエを構えるマチルダ・マタン。彼女の作品を初めて目にしたのは、パリのデザインイベント「Matter and Shape」でのこと。サカイのショールームに飾られていた、ミニマルでありながら力強い存在感を放つ花器に惹かれた。一見シンプルでありながら、彫刻のような佇まいを備えた唯一無二の花器。それこそが、彼女の作品を特徴づけるスタイルだ。

7歳の頃に土に触れる楽しさを知り、20歳という若さで土という素材と再び向き合うように。ソムリエの世界で働いた経験を経て、自らの情熱に従って陶芸の道へ進むことを決意し、2016年に自身のスタジオを立ち上げた。主にブルゴーニュ産ストーンウェアを用いて、素材そのものが持つ素朴な質感を生かし、ひとつひとつ丁寧に形成していく。シルエットのバランスや曲線の美しさ、光がどのような表情をもたらすかといった細部にまで心を配り、独自のフォルムを追求。表面の質感や流線的な模様には、手仕事ならではの痕跡が刻まれ、作品ごとに異なる豊かな表情を生み出す。静謐な佇まいの中に、素材とフォルムが織りなす奥深い美しさが息づく。枝や花をさりげなく挿すだけで絵になるのはもちろん、何も飾らずに置いておくだけでもアート作品のような存在感を放つ。近年では、外苑前にある花屋兼ギャラリーVOICEで展示も開催された。

Mathilde Martin|マチルダ・マタン
https://www.instagram.com/mathildemartinceramic/

取扱いショップ:
Brutal Ceramics
3, rue Henri Feulard 75010 Paris

3.シャレン・ノザワ

多様な文化の間で培われてきた感性を詰め込んで。

19区にあるヴィンテージショップEm Archivesに通う中で出合った、シャレン・ノザワのうつわ。和の趣を色濃く感じさせながらも、どこか軽やかでモダンな佇まいが印象的だ。オーナーのエマがセレクトする美しいヴィンテージのデザイナーズウェアにも自然と寄り添う、ミニマルで静謐な世界観と味わい深い表情。その背景に、日本にルーツを持ち、ハワイで生まれ育ち、パリへと移り住んだ彼女の背景があるとエマから聞き、作品への興味がさらに深まった。シンプルで小さな陶器の中に、大きな世界を行き来してきた作家の感性が滲み出ているように感じる。

シャレンは、ハワイの高校時代、日系人の教師より初めてろくろによる陶芸を学んだ。その後は自らの感覚や直感を頼りに独学で制作を続けてきた。 今年は祖母の世話のために日本に長期滞在し、備前で制作した新作を発表。韓国と日本にルーツを持つ母の影響もあり、日本の陶芸に影響を与えてきた韓国の陶芸にも深い関心を寄せているという。多様な文化の間で培われてきた感性と、それぞれの土地に根づく陶芸の歴史や受け継がれてきた手仕事を自身の表現へと昇華し続けている。

Sharlen Nozawa|シャレン・ノザワ
https://www.instagram.com/sharlennozawa/

取扱いショップ:
Em archives
10, rue Cavendish 75019 Paris
※土曜日のみ

Shopu
36, rue de Varenne 75007 Paris

4.ローラ・モワロー

シンプルなプレートに描かれる、伸びやかな筆致。

バスティーユ広場近くにあるアトリエで作陶するローラ・モワロー。以前、フィガロジャポンでも紹介している売れっ子陶芸家のレア・バルサダリと共同アトリエを構えていることから、彼女を知った。伸びやかな筆致で描かれる模様はまるで絵画のような世界観の一方で、うつわのフォルムはあくまでもシンプル。どんな食卓にも自然となじみ、日々の暮らしに寄り添いながら装飾的な美しさも楽しめる。実用性と装飾性を備えたうつわを前に、どんな料理を盛りつけようかと想像が膨らんだ。

グラフィックデザイナー兼ウェブデザイナーだったローラは、2015年より陶芸教室に通い始めたことをきっかけに陶芸家へと転身。シルクの絵付け工房を営んでいた父の影響もあり、ものづくりに携わる仕事に自分の居場所を見出したという。さまざまな手びねりの技法を用いて、ベージュから黒、黄土色、赤褐色まで、さまざまな色合いのストーンウェアを使いわけている。そして素材を覆い隠すのではなく、そのものの質感や色のニュアンスを引き立てるように釉薬を厳選し、土と釉薬の組み合わせを探りながら表現の可能性を広げている。素材が持つ自然な表情と形や仕上げに宿る繊細さが共存する、粗削りでありながら洗練された佇まいが彼女の作品の魅力だ。

Lola Moreau|ローラ・モワロー
12, rue st Sabin 75011 Paris
https://www.instagram.com/lolamoreau/

取扱いショップ:
Brutal Ceramics
3, rue Henri Feulard 75010 Paris

Centre Commercial
2, rue de Marseille 75010 Paris

Centre Commercial Charonne
26, rue de Charonne 75011 Paris

5.アンヌ=ソフィー・マトレラ

紙の上で培った表現を土へ、遊び心あふれる世界観。

モンマルトルの麓にアトリエを構えるアンヌ=ソフィー・マトレラと出会ったのは、数年前、ヴィンテージショップLa Bonne Piocheでのこと。近年、モデル兼料理家のアリス・モアローとのコラボレーションで花をモチーフにしたプレートを発表し、同店でのお披露目会で再び出会うこととなった。その遊び心あふれる独自の世界観には、これまで歩んできた道のりと異なる表現を横断してきた彼女ならではの感性が息づいている。

アンヌ=ソフィーが陶芸を本業とするようになったのは、ここ4年ほどのこと。ブリュッセルの美術学校で版画や印刷表現を学んだ経験を生かし、紙の上で培ってきた表現を土へと展開し始めた。テキスタイルを思わせる色や模様、ドローイング、レリーフを重ね、絵画や版画の感覚を立体的に表現している。土が持つ自然な質感や不完全さをあえて残しながら、色彩や釉薬との組み合わせによってユニークな表情を生み出す。手仕事ならではの唯一無二の温もりとグラフィカルな世界観が交差する作品は、アートのような彩りと自由な楽しさをもたらしてくれる。

ne=Sophie Matrella|アンヌ=ソフィー・マトレラ
https://www.instagram.com/annesophiematrella/

取扱いショップ:
La Bonne Pioche
69, rue de la Fontaine au Roi 75011 Paris

Merci Paris
111, Bd Beaumarchais 75003 Paris

鈴木 桃子

エディター/ライター

パリ在住エディター、ライター。1987年生まれ。早稲田大学在学時、20歳で結婚&出産。出版社勤務を経て、離婚後に渡米。帰国後、2016年よりフィガロジャポン編集部のエディターとして勤務。2022年10月より、パリへ移住し、フリーランスで活動中。