外出制限のフランス、ポール・マルクの過ごし方。

パリとバレエとオペラ座と。

外出制限令が出されたフランス。3月17日以降、パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちは公演もリハーサルもなく、ガルニエ宮でクラスレッスンすらもとれない毎日を送っている。彼らはどんな日々を過ごしているのだろうか?

2月27日から3月8日まで東京文化会館で行われた来日公演。『ジゼル』『オネーギン』の舞台で大きな感動を観客に与えたプルミエ・ダンスールのポール・マルクに、現在の暮らしについて、日本での思い出とともに少し語ってもらおう。 

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『オネーギン』でレンスキー役を踊るポール・マルク。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

来日ツアーについて。

―― 公演について、どのようなよい思い出がありますか?

舞台で大きな喜びを感じることができました。日本の観客は常に温かく、思いやりがあり、情熱的です。『オネーギン』の僕の初回公演で、舞台に出た時、客席から拍手がありました。過去に経験のないことでもあり、この拍手はとりわけ心に響くものがあり感動しました。この思い出は永く心に残ることでしょう。

―― 公演以外での日本での思い出は?

東京で2週間過ごしたので、ひとつかふたつに絞るのはとても難しい。東京は大好きな街なので、近々また行こうと思っています! よい思い出のひとつは、数カ月前から東京で働いている昔からの友人との再会でした。彼に東京案内され、彼の冒険談を聞いて……素晴らしい時間を何度も彼とともにしました。もうひとつのよい思い出、それはオペラ座内のかつての仲間たちと再び接触があったことです。プルミエ・ダンスールに上がってから、リハーサルもクラスレッスンも彼らと別となり、オペラ座内ですれ違うこともなくなっていました。でもこのツアー中は合同の仕事だったので、彼らと会えて、昔話など交わし、ときには仕事の後の時間を一緒に過ごして、と快適でした。

―― 東京での新発見は?

東京は11年前に初めて行き、この時のよい思い出があります。でもぼんやりしたものばかりだったので、今回は東京まるごと新発見となりました ! 何十キロも歩きました。皇居から東京駅周辺にかけての道沿いで見かける建築物は、とても魅力的ですね。パリに比べ、すべてが並外れています。東京は多くの住民を抱えているので、各人が暮らせるように革新を続けていく必要があるのでしょう。

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photos : Courtesy of Paul Marque

―― 残念に思ったことは?

オフの日にしたいことをノートに書きとめておいたのだけど、あいにく、すべて制覇する時間はありませんでした。だから再訪し、今度は日本中を津々浦々訪ねてみるつもりです。

―― 機会があったら、日本の観客を前に踊りたいと思う作品は?

とりわけ日本で踊りたい作品はたくさんあります。まずは『白鳥の湖』でしょうか。この作品は素晴らしい思い出のひとつです。それから『オネーギン』を再び。でも、その時はレンスキーではなく、あの謎めいたオネーギン役で。

―― そのほか、付け加えたいことがあれば……。

東京では素晴らしい2週間を過ごしました。そして、日本の観客の温かく熱狂的な歓迎に感謝します。この難しい時期、皆様が家族や自分の健康に気をつけてくれるように祈ります。

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『白鳥の湖』より。ロットバルト役はアクセル・マリアーノ。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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外出制限について。

―― 外出制限期間をどこで過ごしていますか?

家族はフランスの南西部に住んでいるので、僕はパリの自宅で2匹の猫とともに過ごしています。

―― ダンスのレベルを保つために行っていることは? オンラインレッスンに参加していますか?

毎日仕事を規則的に行い、トレーニングを続けるという日課を打ち立てることができました。仕事が再開された時にレベルと身体のコンディションが保たれているようにと、バレエ教師によるビデオカンファレンス方式のレッスンを芸術監督が導入しました。それに加えて、柔軟性のためのエクササイズ、ストレッチ、筋肉強化のエクササイズを行っています。でも、少し休養することにもあてるようにしています。

―― 外出制限以降に始めた新しいことは?

特にありませんが、ひとつひとつのことにこれまで以上に時間をかけています。たとえば料理、ピアノ演奏、読書、TVドラマシリーズ鑑賞、そして普段あまり一緒にいられない猫たちと戯れることにも。

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photos : Courtesy of Paul Marque

―― いまの時期のいちばんの関心事、気がかりは?

僕だけでなく、親しい人々、あらゆる人々がこの時期を無傷で脱出すること。このウイルスが早いこと封じ込められること、すべてが元どおりに戻り、被害が最小であることを心から望みます。病気にかからず、誰もが健康でいられるようにと願っています。

―― この状況における喜びは?

友達や家族の状況を電話して知るように努め、たとえ直接ではないといえ、しばらく会っていない昔の知り合いと話せるのは心温まることです。通常はとても忙しくて、こうしたことに思うほど時間が割けませんから。

―― この時期、何が恋しいですか?

ダンス、と躊躇なしに答えます。毎日規則正しくレッスンしているとはいえ、あいにくと十分ではありません。朝ガルニエに行かれないこと、午後にリハーサルがないこと、夜舞台がないこと、こうしたことを恋しく思います。

―― 外出制限期をよりよく過ごすために、自身に課していることは?

現在自分に課している時間の使い方は、僕が必要とする規則正しい暮らしを保つことに役立っています。最初は両親によって、ついでバレエ学校で、そしていまはカンパニーで、というように小さい時から比較的枠にはめられた暮らしに慣れています。それゆえに、きっちり決められた時間割なしに、教師もリハーサルコーチもなしに、自分を枠にはめなければならないのは難しいことなんです。それゆえに生活に一種の正常な意識と規則正しさを保つべく、するべきことと時間割を自分に課しています。

―― 自由に外出できるようになったら、最初にしたいことは?

これはたくさんあります。ひとつ目は、家から出ること。ガルニエ宮、リハーサルスタジオ、舞台を実際に目にすること、友達に再会し、一緒に時間をすごし、レストランに行き、集まって騒いで……つまり通常の暮らしを取り戻すことです。

―― 踊れない日々が続いています。自分にとってダンスが何であるかを考え直す機会となりましたか?

はい、とても。でも、僕の人生におけるダンスの位置について、ダンスが僕にとって何であるかを考えさせられたのは、外出制限によってだけではありません。昨年9月以来、ストもあり、今シーズンは踏んだり蹴ったり……。前シーズンに比べると舞台にあまり立っていず、ダンスと舞台は自分にとって不可欠なことなのだと気がつきました。舞台中毒ですね。さらにほかでは感じることのできないセンセーションにも、そしてステージに立ち、音楽が始まり、観客の視線が感じられる時に上がってくるアドレナリンにも中毒していると言えます。少しずつ進歩してゆく、テクニックを忘れて役柄に入り込めるといったことが起きるリハーサルにも。この魔法の時間から切り離され、小さい時から暮らしている世界から切り離され、こうしたことなしに生きるのは、まるで禁断症状のように辛い。

―― そのほかに付け加えたいことがあれば……。

誰にとっても厳しい時期です。正常な暮らしを一刻も早く取り戻せるように、このウイルスとみんな一緒に戦い、がんばりましょう。

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photo : Courtesy of Paul Marque

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大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。

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