レオノール・ボラック、オペラ座の外での活動も活発に。

パリとバレエとオペラ座と。

ダンスを介して社会貢献。

1年半前、レオノールのウェルビーイングの記事でも語っているが、彼女は4年前に生まれた「The What Dance Can Do Project(WDCD)」 というアソシエーションのアンバサダーを務めている。年末、リハーサルの最終日に行われたこのインタビューの際、彼女は新たなプロジェクトに心弾ませていた。

「12月25日からモロッコに行くことが決定されたんです。マラケシュから車で1時間くらいの場所にある孤児院で子どもたちにバレエのレッスンを行います。いまの時期、何事もスムーズに進まず、これもつい2時間くらい前まではスタンバイ状態のプロジェクトでした。マラケシュのホテルに宿泊して毎日孤児院に通い、合間の時間は休暇気分を味わって、というつもりだったのだけど、モロッコでも夜間外出禁止令ゆえにレストランがクローズしていて……それに封鎖されている道路もあり移動もままらない雰囲気のよう。でも、こうしたプロジェクトは長いこと諦めていたので、中止するのはとっても残念。初めて行く場所だけど孤児院の近くにホテルを見つけることができたので、出発を決めました」

このモロッコの孤児院は国の運営ではなく、スイスの篤志家が資産の半分を投げ打っての私立孤児院で、約100名の孤児がいる。この創設者は子どもたちに芸術教育を与えることにこだわっていて、絵画や楽器を子どもたちは習っているそうだ。

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昨年末、レオノールは休暇を返上してモロッコの孤児院で子どもたちにバレエ指導。photos:Julien Benhamou/ The What Dance Can Do Project

WDCDのために、彼女が活動を始めたのは約3年半前。以来、オペラ座のバカンス期間を利用して、子どもたちのバレエ指導に積極的に取り組んでいる。昨年3月のパリ・オペラ座来日公演前の冬休み、そしてその前の年の冬休みの2回、現地のアソシエーションとWDCDが共同でオーガナイズした講習会のためケニアのナイロビへ出かけた。ここの生徒たちはこの2回の講習の間、夏にはフランスのエビアンで開催されたバレエレッスンに参加し、またパリでアンドレイ・クレムによるクラスも受ける、というように、真剣にダンスに取り組んでいる可能性にあふれる子どもたちなのだ。

「8月から12月上旬にかけて、毎週土曜の朝Zoomで彼らにレッスンを行っていたんですよ、テクノロジーの発展のおかげですね。ケニアの生徒たちは10〜11歳から16〜17歳。それに対して、モロッコの孤児院はもっと低年齢です。最年長が12歳で、最初は10〜12歳のグループにバレエを教える予定だったのだけど、せっかくだから7〜8歳のグループ、5〜6歳のグループにも手ほどきしたいと希望しました。年齢は違っても、全員デビューレベルなので複雑なことはせず、音楽に注意を払い、身体を動かすことを覚え、エネルギーを少し消費させることできたら、彼ら、楽しいだろうと思います。私も4歳くらいの時に音楽に合わせて身体を動かすのがとても好きでした。でも、こうした講習会って喜びもあるけど、上手く成し遂げたいと思うから、ストレスも大きいんですよ。たとえ彼らがダンサーになろうと思わないまでも、自己信頼とか身体の姿勢とか何かしらを彼らにもたらせたら、って願うので……。もしダンスへの欲を彼らの中に生み出すことができたら、その夢を当人とともに歩みたいですね。プロのダンサーになるには練習を重ねるだけでなく、それに加えてチャンスという要素も大きい。この難しい道をともに歩んでくれる家族が私にはありました。いま私の立場でできる範囲で、私と同じ情熱を分かちあう子どもたちの修業や進展を助けてあげられたらって思うのです」

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ケニア、ナイロビにてバレエのレッスン。photos:Selina Meier/ The What Dance Can Do Project

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短期間だったが、フランスでマスク着用義務はあったものの自由に動ける時期に、彼女はWDCDの活動の一環としてユーゴ・マルシャンとともにパリ市内の病院に入院する子どもたちを訪問した。

「前回は病院のミニステージで踊ったのだけど、今回はステージは作れず。でも、私たちが行った1週間後、病院は外部の人が出入りできなくなったので幸運でした。さまざまな部門を回って、『ラ・バヤデール』の衣装を見せ、物語を話し、ユーゴがソーをし、私はポワントでステップを踏み……天井が低く、ユーゴは背が高いのでポルテでは私の頭がぶつかりそうになったり(笑)。病院には年齢、病状さまざまな子どもたちがいるので全員が私たちに驚嘆の視線を向けるといういうことはなく、なんだろうこの変装したふたりは???って目で見る子どももいますよ。でも、中にはシャーリーという8歳の女の子のようにものすごく興味をもって、私たちに多数の質問をする子もいて……。とてもよい経験ができました」

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パリ市内の病院オピタル・ネッケールにて。photos:Gérard Uféras/ The What Dance Can Do Project

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さまざまな分野に交流を広げていくレオノール。

カメラマンのジュリアン・ベナムーが撮影した、クロエのドレスをまとってポーズするレオノールのとても美しい写真が彼女のインスタグラムで公開された。写真はメゾン内で好評を博し、彼女は9月のパリコレ時にはショーに招かれたそうだ。ファッションにはさほど興味がないという彼女だが、クロエのフェミニニティは気に入っている。

「最近は服をあまり買わなくなりました。買うとしたらヴィンテージを買うように心がけているけれど、一目惚れしてクロエを購入してしまうことも……。クロエはアーティスティックディレクターが代わったことで、よりエコで、よりエシカルな路線に向かうのなら私にはうれしいこと。もっとクロエというブランドが好きになるでしょう」

オペラ座のダンサーもセレブ化し、ファッションブランドからのアプローチも少なくないこの頃だ。しかし、ギフトをインスタグラムにアップするだけの広告塔的な存在にはなりたくなく、自分が好きなブランドとしっかりとした関係を築いてゆきたいと語るレオノールだ。

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クロエのドレスでポーズするレオノール。 photo:Juliean Benhamou

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カメラマンのジュリアン・ベナムーはオペラ座のステージ写真のみならず、身体をテーマにオペラ座外でダンサーたちを定期的に撮影し続けている。photo:Julien Benhamou(@julienbenhamouphotographe

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外出制限期間中、ポッドキャストを聴くことが少しずつ増えたという彼女。ラジオやテレビでのインタビューに比べ、さまざまなテーマについて深く語れるのでコミュニケーションの新しい形態として悪くないと考えている。もうじき、彼女によるポッドキャストが実現するそうだ。テーマはダンスについて、身体や痛みとの付き合い方、身体表現、芸術的仕事、ダンスの世界といったことを、それぞれじっくりと語る。またクラシックダンスの保存と発展のために彼女が願うことも。たとえば、新しいクラシックバレエが生まれないことを残念に思う彼女の頭に芽生えたアイデアは……。

「オペラ座で繰り返される古典大作バレエって、物語の舞台の多くは19世紀ですね。でも、社会は変わり、人々の視線もいまは当時とは異なっています。21世紀の人間関係を生きている、いまの観客が同意できる内容のバレエがあったら、と思うのです。たとえば『ロミオとジュリエット』は普遍的な物語なので、いまの時代でもうまくいきます。『ジゼル』もそう。気がついたのだけど、ストーリーを語るバレエにおいて登場人物が複雑で入り組んだ像であると、観客は自分を重ね合わせることができます。たとえば『椿姫』『マノン』がこのよい例ですね。『眠れる森の美女』や『ライモンダ』と違って、登場人物は物語の時代のステレオタイプではありません。たとえチュチュを着たダンサーが踊るクラシックバレエでも、“この作品は私に語りかけることがある”って、いまの観客が思える作品が私の理想です。クラシックバレエの身体言語が存続し続け、進化するためにも、こうした作品が必要だと思っています。何か古臭いもの、という目でクラシックバレエが見られるのではなく、アクチュアルなものとして受け止められなければ……」

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シャネルのポッドキャストで ジャーナリストのヴィルジニー・ムーザのインタビューに答えるレオノール。彼女のインスタグラム@leobaulacより。

クラシックの言語を用いた新しい創作としてパリ・オペラ座にはカンパニーの団員であるセバスチャン・ベルトーの『ルネッサンス』があるが、レオノールが考える新しいクラシックバレエとは違う。クラシックバレエのステップで踊られ、かつストーリーがある作品、これがレオノールが求めているものだ。いまはエトワールダンサーとしての仕事に時間もエネルギーも注いでいるので夢の段階だが、こうした作品の創作に向く振付家は誰だろう……などと彼女は思いを巡らしている。

物語バレエには台本が必要。彼女の頭の中にはチャイコフスキーの人生のバレエ、というアイデアがあるという。

「200年もの間、人々に彼の音楽は幸せと感動を与え続けているのというのに、彼自身は全然幸せではなかった。悲劇的な彼の人生とクラシックバレエ。よいテーマだわ、って思いました。作品内に『白鳥の湖』などのシーンを取り入れることでチュチュの美しさを見せることもでき、ホモセクシュアリティといったテーマにも触れられ……」

昨年、レオノールは作家レイラ・スリマニと話す機会に恵まれた。彼女が書く作品も好きだし、またしっかりとしたオピニオンの持ち主ながら、決してアグレッシブになることがなく優雅な女性……とレイラは憧れの存在なのだ。

「こうした出会いから、新たなコラボレーションのアイデアが得られることがあります。外部の人からインスパイアされるのは、とっても大事なこと。ひとりではうまく進められないこともコラボレーションによって複数のアイデアが集まり、意見を交わして、となります。私には創造意欲があります。だから、可能な限り他者からのインスピレーションを吸い込みたい、って思っているんです」

ひょっとしたらレオノールがバレエ物語を書くのをいつかレイラが助けてくれる?? そんな期待を抱くのは性急すぎだけれど、今後、レオノールが彼女を刺激する人々に出会う機会が多くあり、その結果、何かが生まれることを楽しみに待つことにしよう。

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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