【桜田通のどおりでおいしいわけ。】第4回 蒲田のメゾン・オリナで、意外性と優しさに満ちたノンアルコールペアリングを体験。
俳優業にとどまらず、国内外で活躍の場を広げる桜田通。フィガロワインクラブのフレンズとしても活動する彼がいま関心を寄せているのが、”食”やその造り手たち。どこから”おいしい”が生まれ、どのように食べ手に届くのか、その背景にあるストーリーまで桜田がフォーカス。今回は、10月20日に発売されたフィガロジャポン本誌「24時間、偏愛グルメライフ。」特集とのコラボレーション企画。ぜひ本誌と合わせてチェックして。
第4回は、料理と飲み物に季節の情景を描く、蒲田のメゾン・オリナへ。ビーツの前菜と大豆のデザートをモクテルとともに味わう。色や香り、口当たりに込められた作り手の表現を、桜田はどう受け止めたのだろう。

7つの章で味わう、秋の森の物語。

シャツ¥97,900、カーディガン¥157,300、パンツ¥104,500/すべてアワー レガシー(エドストローム オフィス)
街の喧騒から一転、扉の先には天井の高い、心地よい空間が広がる。オープンキッチンを望む8席のカウンターで桜田を迎えたのは、フランス人シェフのオリヴィエ・ガルシアとクリエイティブディレクターの髙遠菜都子だ。料理と飲み物はもちろん、うつわや空間にも美意識を通わせるふたり。その表現に触れながら、ノンアルコールペアリングを体験する。
ディナーコースが9皿に7グラス、ランチコースが7皿に5グラスのペアリングで、アルコール、ノンアルコールから選べる。この日桜田が味わったのは、ランチコース(¥12,000)より前菜「霧立つ大地〜薫土・霧靄・深遠」と、デザート「純白の浮遊〜白妙・浮遊・輪廻」、そしてそれぞれに合わせたノンアルコールペアリング(¥5,000)だ。
手元に置かれた丸いメニューカードには、「秋の森の微睡み」というコースのテーマが。料理名に添えられた3つの言葉は、香りや質感、その向こうにある情景まで思い描かせる。目の前のひと皿から、どんな味わいが生まれるのか。桜田も想像を膨らませながら、まずは前菜にナイフを入れる。
赤い前菜に、赤シソとスモークの一杯を。

「薄く仕立てたビーツを自家製赤味噌とジュニパーベリーを入れた鴨油でコンフィし、その後薫香を付ける。牛乳にローリエとフェンネルシードの香りを移した後に発酵させたソースとヘーゼルナッツオイルを絡めて一緒にどうぞ」
ガルシアシェフの説明を聞き、手際よくひと口大にカットして口に運ぶ桜田。
「……これがビーツ?」
驚きの表情に続いて、その不思議な食感を言葉にする。
「薄くサクッと、食べるとしっとりした不思議な食感と味わい。スモーキーな中に、土のような香りがします」
滋味深い甘さを湛えた根菜にハーブやジュニパーの油脂のコク、そして燻香が重なる一皿である。発酵乳は酸を抑えてマイルドな味わいに仕上げてあるのもポイントだ。
髙遠が用意したのは、ビーツと同じ深紅色のドリンクだ。グラスに鼻を近づけた桜田は、「もしかして、シソですか? これもスモークの香りがする」。赤シソのシロップをベースにしたボタニカルウォーターに、燻香を添えたモクテルである。色と香りで料理との繋がりを感じさせながら、シソの風味が加わることで、ビーツの味わいにも変化が生まれる。
「前菜を食べて、これを飲むとまたビーツに戻りたくなる組み合わせですね!」
食指を誘う、豆乳のモクテル。

次に登場したのは、メレンゲに白いクリームを絞ったモンブラン仕立てのデザート。栗ではなく、香りの強い青大豆をクリームに使い、アクセントにレモンゼストを利かせている。
「きなこみたいな懐かしくて優しい香り。食べるとレモンの香りが加わって、違った味わいになる」
甘さは控えめでも、大豆の風味はしっかり感じられる。その香りを受け止めるのが、豆乳と黒豆茶をベースにしたモクテルだ。ミルクティーを思わせる色合いながら、口当たりはさらりとしている。ともに豆を使った組み合わせを、桜田は食感や水分の変化まで感じ取りながら味わっていく。
「モンブランだけでも、ずっと食べられそうな優しいおいしさ。でも、メレンゲを食べて少し口の中の水分がなくなったところに、このモクテルを飲むと、また食べたくなる。飲むとこっちを食べたくなるし、食べるとまた飲みたくなる。無限にループしてしまう、そしてどちらの味わいも隠れない、まさに理想的なペアリングだと思います」
料理に飲み物を添えるだけでは生まれない、次のひと口への食欲。どちらかが引き立て役に徹するのでもなく、互いのおいしさを楽しめることに、桜田はペアリングの醍醐味を見つけたようだ。
「優しい」という言葉で伝えたかったこと。

「今回は、予想がことごとく裏切られたんです」と桜田は笑う。メニューや食材の説明から思い描いた味とは異なり、加えて想像以上においしい。モクテルを合わせると、そのおいしさがより増していく。
「食事をしていると、これはこういう味付けかな、これとこれを合わせたらおいしいだろうな、と想像することはありますよね。それも正解なんだけど、そういう次元ではない、未知との遭遇であり、また新しい解釈に出合えた気がします」
そうした驚きを語る一方、桜田が幾度も口にしたのが「優しい」という言葉だった。ガルシア自身は、優しい料理を作ろうと狙っているわけではないという。塩味はしっかり決め、自らが食べて心地よい味を探る。髙遠もまた、料理に集中してもらえるよう、飲み物は相性を難しく考えずに楽しめるものを目指している。
感想を紐解いていくと、桜田の言う「優しい」は、味付けの穏やかさだけを指しているのではないとわかる。サクッとした後のしっとりとした食感、柔らかな甘さ、そしてさらりとした飲み口。作り手が追求した意図が味わいとして、はっきり感じられる。それを桜田は際立った個性として受け止め、脳内で「優しさ」に変換されたのだろう。
「優しさというと、ソフトなイメージがあるけれど、個性としては、とても研ぎ澄まされていると思うんです。強いものや尖ったものだけが個性ではないですよね。優しさや柔らかさ、奥ゆかしい甘さ。そういうところを、ここまで突き詰めているんだなと感じました」
桜田が感じ取った作り手の意図は、テーブルや光、空間のつくり方にも及ぶ。料理と飲み物に感じた心地よさは、この場所で過ごす感覚にも通じていた。
「だから、このカウンターも心地いいんだと思います」

デザートを味わいながら、桜田はふと「母を連れて来たい」とつぶやいた。
「自分が食事を楽しみたいと思うとき、一緒に行く人のことを考えちゃうんです。この人は、こういうのが好きなんじゃないかな、と」
自分が気に入った味を、母はどう感じるだろう。初めて出合う味への驚きも、それを語り合う時間も、一緒に楽しみたい。ガルシアと髙遠、ふたりの作り手の表現は、桜田の中で次なる楽しみへと広がっていた。

MAISON OLINA
メゾン・オリナ
東京都大田区蒲田5-28-13
電)非公開
営)12:00~、18:30~ ※いずれも一斉スタート
休)火 ※ほか不定休あり
要予約
https://maisonolina.com/jp/ ★Google Map
エドストローム オフィス
03-6427-5901
- photography: Akemi Kurosaka(Clock)
- text: Hiromi Tani
- styling: Kei Shibata
- hair & makeup: Yudai Makino(Revierge)