アイナ・ジ・エンドが紡ぐ、強く、優しい物語。
ハスキーな歌声と歌詞世界に多くの共感を集めるアイナ・ジ・エンド。自分を曝け出しながら常に新しい自分を生み出していく、彼女の心情に迫る。

“膨大な劣等感が、いまは「宝物」に”
6人組グループのBiSHで活動中からソロアルバムを発表し、主演のミュージカル『ジャニス』や映画『キリエのうた』でも存在感を示してきたアイナ・ジ・エンド。BiSH解散後のいま、「革命道中」が大ヒットし、さらに活動の場を広げている。ファッション撮影後に、彼女の言葉を聴いた。

――4歳からダンスを始め、友人から「歌をやったほうがいいよ」と言われて18歳で歌の道へ。いつ頃から表現者であることを意識し、また、理想のシンガー像を描いていましたか?
4歳からダンスを習っていたので、小さい時から「これしかない」みたいな感覚が漠然とあって、その頃から表現をお仕事にしたいなと思っていました。R&Bをやりたい気持ちはあったんですけど、当時の自分には人生経験もなく、恋の歌も説得力がなくて、黒人の歌の背景も知らなくて。自我がなかった状態だったと思います。
――そこからいろいろな方との出会いやプロデュースで、引き出しが増えていったわけですが、どのようにしてここまで辿り着いた感じですか?
私には絶対にぶれない芯があまりなかった分、誰の意見も聞けたんです。お弁当箱みたいに、ある程度中身は詰まっているけど余白があって、そこに人のアイデアや感性が入ってきて彩りが増えてく。いまもその感覚を大事にしています。
――アイナさんには優しく甘美な歌声がある一方で、表現の核となるような、ビョークに匹敵するほどの剥き出しの感情を爆発させる歌唱力も魅力的です。それはいつ頃から身につけていったのですか?
幼少期からの膨大な劣等感ですね。容姿も勉強も運動もダメで、いじめにもあった。でも、それがいまの私には“宝物”なんです。人にもなかなか言えない事情やどうしようもない感情を抱えていたからこそ、それを外に出す場所が必要で、幼少期からやっていたダンスや、母のお陰で好きになった歌があったので、爆発できたんです。
――歌でもすぐに爆発できたのですか?
いえ、BiSHというグループで活動している時は、6人でひとつのものを作るため、合わせる必要があったので。26歳で、ファーストソロツアーで自作の曲を自分で振り付けをして歌った時、「虹」をパフォーマンスしながら、「あ、これかも!」って思えて。自分の感情と表現が繋がった感覚がありました。
――作詞はどのあたりに苦労していますか?
気を抜くとありがちな言葉を書いてしまうんです。それだと自分が歌う意味がない。たとえば“悲しい”もそのまま書くのではなく、“口角と心がリンクしていない”みたいに、自分にしか書けない言葉をいつも探しています。
――自分を曝け出すことに迷いはありませんでしたか?
ありました。でも、外に向かって“あなたのために”って言うよりも、自分を曝け出した曲のほうが、聴いてくれる人が自分のことみたいに受け取ってくれるんですよ。
――これまで手がけてきた歌詞の中で、言葉にしづらかった思いをうまく歌に表現できた曲があるとしたら、どの曲になりますか?
何曲かありますが、最近の曲では、最新アルバムの『RUBY POP』の最後に収録した「はじめての友達」は、自分の私小説を書けたと思うくらい自分を曝け出せた曲ですね。ファンの人が自分ごとのように共感してこの歌を愛してくれるので、自分の内側をちゃんと見せるほうが、結果的に深く人と繋がれる気がしています。
――学生時代は人付き合いが苦手だったそうですが、現在は相手に寄り添う、同じ立場に立ってコミュニケーションを取られているのが印象的です。
それも劣等感というか、根底に生粋の自信のなさがあるからだと思います。だからこそ、人が私と目を合わせてくれることを、当たり前ではなく「全部与えてもらっている」と受け取れる。いつまで経っても私が驕らずにいられるのは、このコンプレックス・コレクションのおかげですね。
人の心の痛みを自分ごとのように考えてしまう。
――そこには過去の経験も関係していますか?
そうですね。中学生の時に保健室とかでひとりでお弁当を食べていると、「大丈夫?」って声をかけられるのがすごく辛かったんです。大丈夫じゃないからここにいるのに、って。だから私は人が辛そうな時に「大丈夫?」は言わないようにしようと決めています。その人の心情を想像してから言葉を選ぶようにしています。

――自分の中でいちばん好きなところを教えてください。
自分で言うのもアレなんですけど(笑)、優しいところ、だと思います。人が辛そうにしていたら、自分ごとのように考えちゃうんです。
――それは歌詞やラジオ番組での対リスナーにも表れているし、忙しくてもスタッフ全員にクリスマスカードを配ったり、気遣いもすごいですよね。
でも、急にダウンすることもあるので、基本的にいつもキャパオーバーして生きているんだと思います(笑)。
――ご両親からは、どのような影響を受けていますか?
私は自分と向き合う癖があって、仕事が終わると、「仕事のことは忘れて飲もうよ、乾杯!」って、みんな言うじゃないですか。私、あれが本当にできなくて、「メールを返してない」とか、「この瞬間の感情をメモしておかないと。歌詞に使えそう」とか、どこかでアイナ・ジ・エンドが動いている。でも両親は真逆で、気持ちのスイッチの切り替えが早いゼロヒャクの性格。私は混沌で生きているので、そこは見習っています。
――落ち込んだ時はどうしていますか?
母親に似てすごく楽観的な部分もあって、バリ泣いてしまう時も、一晩寝たら直っているんですよね(笑)。
――最後に、あなたにとってディーヴァ(歌姫)とは?
人生を歌にしている、生きざまを吐露している人はディーヴァだと思いますね。
アイナ・ジ・エンド
1994年生まれ、大阪府出身。“楽器を使わないパンクバンド”BiSH(2015~23年)のメンバーとして注目を集め、ハスキーで感情豊かな歌声やダンスに加え、グループの振り付けを担当。23年グループを解散し、現在はソロで活動中。ソロになってからも多岐にわたる活動のほか、初のフォトエッセイ『達者じゃなくても』(幻冬舎刊)等を発表。TVアニメ『ダンダダン』の主題歌「革命道中 On The Way」は世界各国で大ヒット。最新曲はTVアニメ『ONE PIECE』の主題歌「ルミナス – Luminous」
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- photography: Yasutomo Ebisu
- styling: Ai Suganuma (TRON)
- hair & makeup: Kato (TRON)
- interview & text: Natsumi Itoh
- editing: Shino Sakurai
*「フィガロジャポン」2026年6月号より抜粋