カンヌでケリングが「ウーマン・イン・モーション」を開催、ジュリアン・ムーアが語る視点の重要性。

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5月12日に開幕した第79回カンヌ国際映画祭。期間中、ケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」のトークセッションやパーティが開催されている。2015年より、映画界で活躍するあらゆる女性たちをエンパワーしてきたこの取り組みは高く評価され、毎年さまざまな試みを行っている。

トークセッションの舞台となったのは、カールトンホテルのペントハウス。陽光が差し込む開放的な空間で、リラックスしたムードに包まれた。『ワイルド・スピード』シリーズでミア役として知られる俳優ジョーダナ・ブリュースターや俳優でコメディアンのハンナ・エインビンデル、そして今年の「ウーマン・イン・モーション」アワードを受賞したジュリアン・ムーアが登壇。

カールトンホテルのペントハウスでトークセッションを開催。©︎Yusuke Kinaka Courtesy of Kering

アカデミー賞やエミー賞の受賞歴を持つジュリアン・ムーア。多様で豊かな役柄を演じるその活躍が、女性をエンパワーする存在として讃えられた。「このように評価されることは大きな名誉ですが、正直少し驚いています。俳優という仕事は、いわばギグエコノミーのようなもの。常に次から次へと仕事を移っていくため、これまでの道のりを振り返ることはほとんどありません。こうして語ることによって、自分が人生の中で築き上げてきたものに気づく良い機会となりました」と、語った。

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今年の「ウーマン・イン・モーション」アワードを受賞したジュリアン・ムーア。Photo by Claire-Lise Havet/Getty Images for Kering

そんな自身のキャリアについて思うことは、「この仕事が本当に好きで、それが前に進む原動力になった」という。「演技をしていると、ある種のトランス状態に陥ることがあります。自分がどこにアクセスしているのかわからなくなるような感覚が好きなんです。ある人物を体現し、その物語を伝え、その感情を感じる。それこそ、私たちが芸術に求めていることです」

ジュリアン・ムーアの言葉を借りれば、映画制作とは、人間とは何か、生きることとは何かを伝えるための物語を作るということ。映画とは人間的であり、形として残り続ける特別なものだ。トークセッションでは、ジュリアン・ムーアが形として残してきた映画の中でも、ニコール・キッドマンとメリル・ストリープとの共演で注目を浴びた『めぐりあう時間たち』(2003年)に言及。昨年の「ウーマン・イン・モーション」アワードを受賞したのはニコール・キッドマンだが、今年はジュリアン・ムーアが継ぐ形となり、文字どおりシスターフッドを体現している。「あの作品の中で私たち3人の関係性は、女性がほかの女性の人生や経験に触れた時に抱く感覚に近いものだと思います。そういう意味では、ほかの女性たちの物語とどう向き合って関わっていくかを象徴する素晴らしい表現ができたと思います」と、当時を振り返った。

また、メリル・ストリープについては「まさに基準となる存在」と表現。「彼女は、こうありたいという私たちの意識や自分たちはここまでできるかもしれないという仕事への可能性に火をつけてくれた存在だったと思います」とその憧れを語ったが、ジュリアン・ムーア自身もまたこの流れを引き継いでいる。「キャリアの初期は目の前に来た仕事をとにかく受けるしかなかったけれど、年齢を重ねるにつれて、自分で選択できる余地が広がってきました。その選択の基準において、私がずっと言い続けているのが視点の重要性です。物語の中で視点がどこにあるのか、自分の役の視点がきちんと描かれていることが大事。たとえ脇役であっても、どんな位置付けでどのように主役と関係しているのかを理解していたい。つまり、物語が誰の視点でどのように語られているのかを明確にしたいのです」

トークセッションの前列にはサルマ・ハエックや石橋静河など、俳優陣が肩を並べた。Photo by Claire-Lise Havet/Getty Images for Kering

自身の明確な基準を持ちながら作品選びの幅を広げてきたジュリアン・ムーア。映画制作の現場においても、女性の活躍できる場が少しずつ増えてきた確かな変化を感じているという。「たとえば、それほど昔のことではないある現場では、女性は私ともう一人の若いサードACだけでした。ちょうどヒラリー・クリントンが選挙に敗れた頃で、ふたりで大きなショックを受けて、周りを見渡しながら『ここにいるのは私たちだけね』と話したのを覚えています。でも制作スタッフの中に女性がいる割合は、確実に増えてきています。女性監督や脚本家、俳優も増えています」と語り、「私たちは昔からいつも一緒にいるけれど」と、観客として会場を訪れていたサルマ・ハエックと微笑みを交わした。

ジュリアン・ムーアが語るように、女性が活躍できる場は昔より広がっている。しかし人口の52%を女性が占めているにもかかわらず、2024年には41.3%だった女性の役柄が、2025年には37.1%まで減少。この数年間でいうと、統計的にはスクリーン上や制作現場における女性の表現者が後退している。これは映画業界だけの問題ではなく、もっと大きな社会の構造的な問題でもあるだろう。「選択を重ねること、声を上げること、自分の立場を活用すること、雇用の機会を広げること、連携を作ること。そうした積み重ねが変化になっていくのだと思います。特に映画制作の現場では、女性同士が互いにとって最も強い味方になっていると感じています。お互いに支え合い、採用し合い、自分たちの物語を自分たちで語る。結局のところ、それもまた視点の話に繋がっています。誰がその物語を語っているのか。その視点は誰のものなのか。つまり、女性の視点であることが重要だと思います」

ボッテガ・ヴェネタのルックを纏ったジュリアン・ムーア。ブラックのセットアップに赤いファーのシューズがアクセント。Photo by Claire-Lise Havet/Getty Images for Kering

女性の視点で語ることの重要性を示したその言葉は、長いキャリアの中で積み重ねられてきた実感に裏打ちされたもの。ケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」は、そうした女性の声を可視化し、次の世代へと繋いでいく場である。そんな場を積み重ねていくことこそが、映画業界、そして社会そのものを少しずつ前進させていくのだろう。

「ウーマン・イン・モーション」の屋外広告がクロワゼット通りに掲げられている。©︎Yusuke Kinaka Courtesy of Kering

  • text: Momoko Suzuki