映画館で絶対に観たい!8月末から9月中旬に公開される注目作3選。

Culture 2024.08.24

時代の岐路に立つ謀反の攻防、韓国の歴史的ヒット作の緊迫度。

『ソウルの春』

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© 2023 PLUS M ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

冷戦下東欧の民主化機運が旧ソ連の戦車に踏みにじられた「プラハの春」にちなみ、「ソウルの春」と呼ばれる1979年冬が舞台の攻防戦。独裁政権率いるパク大統領が側近に暗殺され、関係筋を一網打尽にする保安司令官チョン・ドゥグァンの跳ね上がりぶりを恐れた参謀総長が彼を左遷。チョンは反乱を企てる。普段はおべっか使いの道化者、緊急時は反逆罪か天下捕りかの窮余の策を軍重鎮にも迫り、仲間の退路を断つ鬼将軍をファン・ジョンミンが怪演。韓国の民主化を徹底弾圧した後の大統領がモデルで、敵側ヴィランが怪しい魅惑を放つ集団アクション劇はおもしろい、の鉄則どおりだ。首都警備司令官(チョン・ウソン)との形勢逆転また逆転の決戦は、戦い敗れた者らへの鎮魂歌になる。

 

『ソウルの春』
監督・共同脚本/キム・ソンス
2023年、韓国映画 142分
配給/クロックワークス
8月23日より、新宿バルト9ほか全国にて順次公開
https://klockworx.com/movies/seoul/

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傷だらけのヒロインの燐光が、無軌道な航跡を描いて綾なす。

『ナミビアの砂漠』

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© 2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

21歳のカナはすぐ謝る男と別れ、映像作家ハヤシと新生活を始める。清算できない過去を解毒するように脚本のネタにする、ヤバい優男。美容脱毛サロンという勤め先の虚のシステムに毒づくカナとは同類で、愛し合うと"ヤマアラシのジレンマ"みたいに互いのトゲで傷つけ合う。縮小しがちな日本社会や、役立たずのハヤシに向けるカナの刃は、自ずと彼女自身をも切りつける。街を疾駆し、階段を転げ落ちる満身創痍のカナの日常に、何事にも醒めているのに胸の熾火がボッと逆巻くバイブレーションを、新鋭・山中監督と旬の俳優・河合優実が注入。壊すのも自ら壊れるのも正面突破、世界の原型だけが後に残る清々しさがある。カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。

 

『ナミビアの砂漠』
監督・脚本/山中瑶子
2024年、日本映画 137分
配給/ハピネットファントム・スタジオ
9月6日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開
https://happinet-phantom.com/namibia-movie/

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福利厚生が行き届いて見える、北欧の町の快適さを巡って。

『ヒューマン・ポジション』

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© Vesterhavet 2022

フィヨルドの入り江のすぐ先に、小高い山が迫り出すノルウェーの港町。病気療養後のアスタは、急坂を上るにも息が切れがちだ。山小屋風の簡素な住処には使い古しの北欧チェアを修復する女友だちと黒ぶちの猫が同居。鉢植えや薬缶とともに窓辺に飾られた小ぶりなスイカが翌日の朝食に色を添えたり、ひと工夫が生活の再開を快適に。ふたりは日本贔屓らしく、お茶と和菓子、胴着と浴衣姿で碁を打ち、小津安二郎の『お茶漬の味』(1952年)を観ながらうたた寝する。夏の白夜は閑静な町を澄んだ薄青の光で包む。朝を先取りしたようなほの暖かい明るみも。地方新聞の記者に復帰したアスタの、物憂くも張りのあるセンシビリティが、心尽くしの贈り物と相和する挿話もいい。

 

『ヒューマン・ポジション』
監督・脚本/アンダース・エンブレム
2022年、ノルウェー映画 78分
配給/クレプスキュール フィルム
9月14日より、シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開
https://position.crepuscule-films.com/

*「フィガロジャポン」2024年10月号より抜粋

text: Takashi Goto

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