大坂なおみが製作総指揮を務めた話題作はじめ、10月のおすすめ映画3選。

01. 洒落っ気を帯びた、緻密なパズル風犯人探し。

『ブラックバッグ』

マイケル・ファスベンダー演じる英国のエリート諜報員ジョージは、世界情勢の大転換を図って機密ファイルを盗んだ二重スパイを射当てるべく、趣味の料理の腕をふるって食事会を催す。招かれたのは通信テクノ系諜報機関の同僚たち。信頼を装った化かし合いをプロとして優雅にこなしたい。そう彼はほくそ笑むが、妻キャスリンが容疑者5人の重要人物に。最愛の妻へのジョージの疑念や仲間内の秘め事が、磨かれた頭脳ゲームのサスペンスに大人の機微と陰影を纏わせる。監督『オーシャンズ11』(2001年)のソダーバーグ×脚本『ミッション：インポッシブル』（1996年）のデヴィッド・コープならでは。ケイト・ブランシェットがキャスリン役を颯爽と演じ､不穏含みの優美を体現する｡

---fadeinpager---

02. 手造りのチーズが香る、青春成長譚の味わい。

『ホーリー・カウ』

18歳のトトンヌは祭りに浮かれて甘い一夜を過ごし、あげく泣きを見る。そんな軽薄な田舎のドラ息子が、堅実だけど酔うと失態を犯しがちな、どこか似た者同士のシングルファーザーの事故死に遭遇。幼い妹を抱えてたちまち食うに困り、彼は無謀にもここ、フランス東部のジュラ地方の特産品コンテチーズ造りに挑む。ガールフレンドが管理する牧場でこっそり牛の乳を絞り、鍋にかけて決め手の酵素を入れ、丁寧にかき混ぜる。隠居するチーズ名人の老婦人や友や妹の協力を得たその試行錯誤を、コトコト映画を大鍋で煮詰めるように描き出したのは、自分も当地で育ったという新人女性監督。たっぷりとした描写と思い切った省略にメリハリがある｡スッキリと晴朗な後味がうれしい｡

---fadeinpager---

03. 将来有望な女子テニス選手が重圧を超える時。

『ジュリーは沈黙したままで』

テニスコーチのジェレミーが突然、クラブから指導停止の措置を受け、15歳の"秘蔵っ子"ジュリーは窮地に立つ。先輩のライバルの訃報も伝え聞こえ、その背後にコーチのハラスメント疑惑がある様子。反復練習に打ち込むジュリーの沈黙は一色ではない。ジェレミーを信じるあまりのクラブへの抗議、協会主催のテストを控えた孤独な自己抑制。ダルデンヌ兄弟に近しいベルギーの新鋭監督は、ジュリーを内外の重圧に潰されかける"被害者"にしない。仲間と寛いでプレイする喜びを再発見する----その極上の微笑も、頑なな心を溶かして語り得ぬことを語り出す変化の兆しも透明感がある。ストイックな少女の一挙一動を見つめるうち、その瞬時の煌めきにドキンとし、胸を揺さぶられる。

＊「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋

Read More

演技派のカラスにも注目！ 予測不能でパワフルな青春映画『バード ここから羽ばたく』

Read More

パオロ・ソレンティーノ監督が語る最新作『パルテノペ ナポリの宝石』