演技派のカラスにも注目! 予測不能でパワフルな青春映画『バード ここから羽ばたく』。
Culture 2025.09.01
『バード ここから羽ばたく』
文:瀬田なつき 映画監督

©2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.
制御も予測もできぬまま、世界の見え方が一転する。
ざらりとした16ミリフィルムで映されるイギリスのどんよりした曇り空の殺伐とした雰囲気、鉄柵に手をかけたどこか不満そうな少女が振り返ると、ひょこっとカモメが首を傾げる。少女に思わず笑みが漏れる。この映画は、こんなふうに、重たさと軽やかさが、交錯して、ずっと心をざわつかせる。
手持ちカメラは止まることなく、動き回る少女ベイリーと、彼女が見つめる視線の先を追いかけ、その表情の中にある、不機嫌さ、あどけなさなど、彼女自身も把握できていないような12歳の無防備な表情を切り取っていく。
12歳のベイリーを演じる、新人のニキヤ・アダムズもそうだが、この映画に、監督は、コントロールしにくいものを、画面にたくさん詰め込む。カモメから始まり、カエル、ヘビ、ウマ、チョウ、ハチ、カラス、イヌ......など、言葉も通じない、たくさんの動物たち(そんな中、ものすごい芝居をするカラスが出てくるので、そこは必見です!)。さらに、動物のように奔放で、ベイリーを、困らせ振り回す離婚した両親たちの存在。
そしてもうひとり、タイトルにもある突然現れて、彼女に話しかける謎の男、バード。彼女を取り巻く世界は予測不能な混沌が溢れかえる。だが名前の通り、鳥のようにフワフワとしたバードと一緒に、ベイリーが建物の屋上から町に住む人々を見下ろし、空を飛び回る鳥の群れを眺める時、そのコントロールできない世界、人々が混ざり合い、映画の見え方が一転し、ファンタジックな世界が広がっていく。バードと、鳥が、彼女の周りにいた動物たちが、彼女を見守っているように見えてくるのだ。アンコントロールな世界は、パワフルで、どこか優しく、私を、またざわつかせる。
●監督・脚本/アンドレア・アーノルド
●出演/ニキヤ・アダムズ、バリー・コーガン、フランツ・ロゴフスキほか
●2024年、イギリス・アメリカ・フランス・ドイツ映画 ●119分
●配給/アルバトロス・フィルム
●9月5日より、新宿ピカデリーほか全国にてにて順次公開
https://bird-film.jp/
映画監督
東京藝大大学院映像研究科修了作を経て、2011年『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で劇場長編映画デビュー。新作は『違国日記』、ドラマ「柚木さんちの四兄弟。」(ともに24年)。
https://x.com/natsuki_seta
*「フィガロジャポン」2025年10月号より抜粋