「女性のカラダはどんな視線に晒されてきたのか」リンダー・スターリングが切り取る、現代社会の欲望。

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リンダー・スターリング/アーティスト

リンダー・スターリング/アーティスト
1954年、イギリス・リバプール生まれ。20世紀初頭のダダイズムの持つ批評性に影響を受け、70 年代のパンクムーブメントの反骨精神を起点として、写真、フォトモンタージュ、パフォーマンスなどの手法で、ロンドンを拠点に常に同時代性を持つ作品を発表し続けている。

ナイフを振るい雑誌を切り抜き、現代社会の欲望を暴く。

英国リバプール出身で、半世紀にわたり切れ味鋭い創作活動を続けるリンダー・スターリング。この春京都で開催され、観客を強く鼓舞した彼女の個展が東京に巡回する。女性の身体、家電、花、唇、ポルノグラフィ─雑誌から切り抜かれたイメージは鮮烈なユーモアで再構成され、現代社会の欲望や権力の構造を暴き出していく。

「印刷物そのものが大好きで、さっきも1912年頃の雑誌を触っていました。匂いや質感のある紙の感触はセンシュアルで、探偵のように年代を読み解くこともできます。フォトモンタージュは完成図のないジグソーパズルのようなもの。どこへ向かうのかわからないまま進んでいくのがおもしろい」

彼女にとって〝切る〟行為は単なる技法ではない。18歳の時、ナイフを突きつけられて脅迫され、手持ちのカメラを渡して逃れた体験からしばらく写真を撮れなくなった。

「私はその体験を〝自分のナイフ〟に持ち替えたのかもしれません。幸運だったのは私がアーティストだったことです。雑誌のイメージに刃を向けることで心の傷を昇華する術を知っていた。私にとって切ることは破壊というより外科医のメスに近い。傷を見つめ、切開し、理解しようとする行為です」

スターリングが長年注視し続ける女性の表象を巡る問題は、彼女が活動を始めた頃から半世紀を経ても終わりが見えない。SNSでは〝完璧なルックス〟の女性像が更新され、ポルノグラフィは子どもでもアクセス可能になった。

「私たちは長い間、メディアの中で女性像が操作され、加工される世界を生きてきました。現在も女性の権利を巡る状況に強い危機感を覚えています。『もう仕事は終わった、ナイフを置ける』と言いたいところだけれど、残念ながらそうは思えない現実がまだ続いています」

興味深いのは、スターリングが〝グラマラス〟という言葉に着目していることだ。その意味を、彼女はこう解説する。

「いまでは〝華やかさ〟や〝魅力〟を指す言葉ですが、もともとの語源には〝魔法〟や〝呪術〟という意味がありました。元来女性が表象するイメージには人を惑わす力が備わっていたのです。問題は加工そのものではなく、誰が、何のために、どのようにイメージを作っているか。私たちイメージを見る側の視線もまた、その見方に加担しています」

71歳を迎えた現在もスターリングがナイフを置くことはない。彼女にとって「切ること」は社会の病理を開き、問題の根源を明るみに出す行為であり、パンクよりパンクな彼女のアティチュードはいまなお1ミリもブレていないからだ。多くの人が生きづらさを抱えている時代、どこまでもついていきたいと思わせる姉貴である。

Courtesy of the artist and Modern Art ©Linder

KYOTOGRAPHIE 2026では京都文化博物館別館にて開催された個展が、一部展示作品を変更して巡回。50年にわたる創作の軌跡を、約90 点の作品で辿る。『LINDER:GODDESS OF THE MIND』は6 月25 日~8 月16日、シャネル・ネクサス・ホールにて開催。https://nexushall.chanel.com

  • photography: Gabby Laurent text: Chie Sumiyoshi

*「フィガロジャポン」2026年8月号より抜粋