パリ「新凱旋門」はこうして生まれた! 今月絶対観に行きたい新作映画3選。

Culture

南イタリアの大地からパリの建築史、そしてバンコクの幽霊譚まで、それぞれ異なるアプローチで“世界の奥行き”を描き出す注目の3作品が公開!


『地底への旅』|地上世界と地下空間が呼応する至純の映画詩。

©2021 DOPPIO NODO DOUBLE BIND – ESSENTIAL FILMS – SOCIETE PARISIENNE DE PRODUCTION – ARTE FRANCE CINEMA

牧夫が逝くと仔山羊が生まれ、樫の木が伐られると窯に煙が立って炭になる。転生と循環の寓話『四つのいのち』(2010年)が脳裏を離れない鬼才の長編全3作が、「ミケランジェロ・フランマルティーノの驚くべき世界」と銘打って特集上映される。新作の舞台は南イタリアの若葉色の高原。大樹の年輪に似たシワが特徴的な羊飼いの営みを悠然と綴る地上編と、垂直に延びた洞窟を若い探検隊が探査する地下編が照応する。老木が倒れるような羊飼いの往生の時。水の音とかすかな光を頼りに下降する旅の果て。日々と冒険、光明と暗黒、此岸と彼岸が対立せず、浸透し合う。名撮影監督レナート・ベルタとのタッグによる孤高の監督の到達点だ。ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。

『地底への旅』
●監督・共同脚本/ミケランジェロ・フランマルティーノ
●2021年、イタリア映画 ●97分
●配給/グッチーズ・フリースクール
●ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開中
https://frammartino.com/

『新凱旋門物語』|モダニズムの美を究めようとする執念の行方。

photo Julien Panie ©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

1985年に着工されたグランダルシュ(新凱旋門)は、プロジェクトを強力に打ち出した往時のカリスマ大統領ミッテランの政権基盤の翳りとともに頓挫しかける。その落成までの紆余曲折を、一躍コンペで白羽の矢が立ったデンマークの建築家スプレッケルセンを主人公に据えて描く。地元の教会建築にしか実績のない無名の彼が理想の大理石を求め、ミケランジェロの傑作彫刻『ピエタ』ゆかりの石切場まで遠征するくだりなど、宮大工的な一徹さを映して実におもしろい。キューブ状というモチーフをフーガのように反復する清新な美の探求は同時に、予算超過などの現実とぶつかるドラマをも極限に導く。落としどころに腐心する、芸術とは無縁な実務家の官僚をグザヴィエ・ドランが好演。

『新凱旋門物語』
●監督・脚本/ステファン・ドゥムースティエ
●2025年、フランス・デンマーク映画 ●106分
●配給/ミモザフィルムズ
●7月17日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://mimosafilms.com/thegreatarch/

『ユースフル・ゴースト』|大切な者たちを巡る、記憶と忘却の幽霊奇譚。

© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.

呼吸器疾患で永眠した妻が、粉塵を吸い取る真紅の電気掃除機に憑依して夫の傍へ帰ってくる。タイの次代を担う新鋭の、ロマンスを軸にした幽霊譚。人を食ったコメディの中に仕掛けが満載だ。愛しい霊がヒョコンと生者の日常に現れる民話的なおかしみは、タイの先達アピチャッポン・ウィーラセクタンの『ブンミおじさんの森』(2010年)を連想させる。幽霊との共生には愛の記憶が必須。忘れ去ると霊が消えてしまう儚さの表現に思わず胸がキュンとなる。他方、暴力や不正に目をつぶり、都合よく忘却する社会の傾きをそれに抗う怨霊に託し、バンコクの大気汚染や劣悪な職場環境、現代史の汚点までが日常茶飯事と夢の裂け目に立ち騒ぐ。カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞。

『ユースフル・ゴースト』
●監督・脚本/ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク
●2025年、タイ・フランス・シンガポール・ドイツ映画
●130分 ●配給/SUNDAE
●7月10日より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://sundae-films.com/useful-ghost/

  • text: Takashi Goto

*「フィガロジャポン」2026年8月号より抜粋