中島健人演じるセックスセラピストにカウンセリングを受けているようなNetflixシリーズ「SとX」を享受すべき理由。
文・小林久乃
Netflixシリーズ「SとX」が配信開始! 見どころを徹底解説する。
【あらすじ】
●主人公・霜鳥壱人(中島健人)は精神科医兼セックスセラピスト。性の悩み(性依存、盗撮癖、バーチャルセックスetc)をカウンセリングで真摯に解決している。
●霜鳥は中学時代の初恋の相手、TVキャスターの市之瀬佑美(新木優子)と交際を始めるがセックスができない。実は霜鳥にも性に関する心的外傷があった。
●ふたりの交際が世間に知られて大騒動に。その最中、互いの必要性を確認した霜鳥と佑美は各々に抱えたジレンマ、トラウマと向き合い、踏み出す決意をする。
●全7話の「SとX」が訴えたかったのは“セルフ・コンパッション”では? と小林は推測。性を通して自分自身自身に理解と思いやりを向けることではないだろうか。
性教育の遅れた日本の課題が浮き彫りに。
読者のどれくらいの人が自分の性生活について、改めて考えて、パートナーと明け透けに話し合いをした経験があるだろうか。一般的な人間の三大欲求のひとつではあるけれど、ご時世、第1位:睡眠欲、第2位:食欲、第3位:性欲でランキング付けされている傾向が高い気がする。眠いと全てが狂うし、おいしいものは食べたい。でもセックスは生活サイクルにおいて、義務化されているか、体力低下による回数減少か……? そんな状況に一石を投じるドラマ「SとX」が配信されている。

全7話のエピソードには、他人にはなかなか打ち明けにくい性の悩みを抱えたクライアント=患者が霜鳥クリニックに現れる。セックスセラピストという職業が胡乱な扱いを受けているだけに、この医院に足を運ぶにはそれなりの勇気がいったはずだ。
完璧ではない自分が許せなくなり、セックス依存に陥ってしまった主婦。現実の男性に興味を持てなくなってしまった高校生。妻に性欲を申し出ることができず、バーチャルで性欲を満たす男性。盗撮癖が治らない会社員、盗撮に怯える女性たち。性器が濡れず、行為を苦痛に感じてしまう主婦。どの悩みも切実なもので、ひと言だけでも誰かに相談できたなら克服できるかもしれないのに、どうしても二の足を踏んでしまう。なぜなら日本では性に関わる全般が“恥部”であり、“秘め事”だから。いかにも世界各国で性教育が遅れている日本人ならでは、の傾向だ。
そして、それぞれのクライアントに対して有り余るほどの誠実さで、解決策を共に考えるのが医院長の霜鳥。
「安心してください。セックスに悩んでいない人なんていませんから」
「快感は感じましたか?」
「旦那さんの勃起時の硬さはどうですか?」
なんだか自分も霜鳥のカウンセリングを受けているようだ。その恋人になった佑美も周囲から「女子アナ」と古い呼称をされつつ、仕事の方向性に悩んでいた。

また自分=女性にも当然、性欲はあると言い、自慰行為も行う。常に脱皮をしたい願望と衝動が湧き出ていた。ちなみにこの自慰行為についても印象的なセリフがあった。霜鳥と佑美、それぞれにセックスカウンセリングしている加瀬詩音(山口紗弥加)が言う。
「“自慰”って、なにそのネガティブな日本語? と思うわけ。自分で慰める、だよ? 英語にはセルフプレジャーっていう言葉もあるのに。(中略)悦び?」
そう、(そうではない人もいるけれど)本来の性行為全般は生きるための圧倒的なパワーであり、自己への情熱。にもかかわらず「ニッポンのセックス2026年版調査」によると、日本人の1カ月のセックス平均回数は全体で1.95回。年代別では20代が4.31回と最も多く、年代が上がるにつれて減少する傾向にある。妙なプライドを盾にしないで、自分と性の向き合い方について作品が訴えているようだった。
秀麗なケンティーが霜鳥を演じる意味。
また霜鳥を演じた中島健人も、ひとつ俳優としての新しいドアを開けていた。情熱的、かつデリケートなテーマだからこそ、主役は肝心。劇中にいたのは「カレカノ!! (ver2.0)」や「最初はキュン!」を歌うしなやかなアイドルではなく、患者の理想のドクターだった。

個人的にあまりにも美しい容姿とは、演技の妨げになってしまうパターンがあると思う。セリフにも「イケメン」「美人」が容赦なく登場して、作品に違和感を彷彿させてしまうからだ。でも本作は美しい彼が配慮の必要なセリフを発するからこそ、言葉が中和されて視聴者の脳に響くのだと納得。
不適切さを問われ、叩かれ、叫ばれる令和であり、とかく女性蔑視されがちな日本だからこそ配信する意味があったと思う。やるなあ、Netflix。性的な視点でセクシーなシーンを観るのではなく、ぜひ精神的な教材として「SとX」を享受してみては?