見えないはずの「粘性」を写真にする。高木由利子『chaoscosmos』第3章がGYRE GALLERYで開催。
水が落ちる。糸を引く。波紋が広がる。その一瞬をカメラで切り取ると、肉眼では見過ごしていた自然の秩序が、思いがけない姿を現す。 写真家・高木由利子の写真展『chaoscosmos vol.3 – visible viscosity 可視化された粘性 -』が、10月8日から11月29日まで、東京・表参道のGYRE GALLERYで開催される。

高木は衣服や人体を通して「人の存在」を見つめ、世界各地で撮影を続けてきた写真家だ。近年はその眼差しを自然現象へと広げている。2022年に始動した『chaoscosmos』は、肉眼では捉えきれない自然界の現象を、カメラという装置を介して可視化するプロジェクト。vol.1では水が氷へと変わる「氷結過程」を、vol.2では散りゆく桜がつくる偶然の造形を見つめてきた。
シリーズ名は、chaos=混沌と、cosmos=秩序・宇宙を組み合わせた造語。カオスとコスモスはどちらかが先にあるのではなく、ひとつの現象の中に同時に存在するのではないか――。自然現象に潜む「magical、mysterious、miracle」の3つの“M”を、高木はカメラを通して受け取るメッセージと捉えている。

今回レンズが捉えたのは、「粘性」。
第3章となる今回、高木が魅せられたのは「粘性」だ。空気や水は確かにそこを流れている。しかし、その「流れ」自体を目で見ることはできない。とある撮影で、重力と粘性の不可思議な関係が可視化されたことがきっかけだった。
流体力学の予備知識があったわけではない。それでも、シャッタースピードと被写界深度を組み合わせて浮かび上がる現象は、高木の目に「限りなく美しく神秘的」に映ったという。細く垂直に伸びる液体、漆黒に浮かぶ波紋、蜘蛛の糸にも光の軌跡にも見える繊細な線。写っているのが液体なのか光なのか、次第に境界さえ曖昧になり、星雲や銀河のようなスケールまで想像してしまう。


「自然界のほとんどの美しい形は、重力・慣性・粘性の三者のバランスから生まれる」。高木が後に知ったこの考え方をもとに、カメラと三者との“セッション”は続いている。
写真は、すでにそこにあるものを記録する行為だと思われがちだ。けれど高木の作品を前にすると、その認識は揺らぐ。カメラは世界を写し取るだけでなく、私たちの目にまだ見えていなかった世界を発見する装置にもなり得るからだ。混沌の中に秩序があり、秩序の中にも混沌がある。その境界に一瞬だけ現れる自然の秘密をとらえた『chaoscosmos vol.3』は、世界を見るという行為そのものを問い直す写真展だ。

高木由利子 写真展
『chaoscosmos vol.3 – visible viscosity 可視化された粘性 -』
会期:2026年10月8日(木)〜11月29日(日)
会場:GYRE GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
主催:GYRE
企画・構成:papalagi studio
会場構成・プロジェクトマネージャー:南志保(立体集団ガリネル)
照明:井上靖雄・岡井奈緒(MGS照明設計事務所)
グラフィックデザイン:長嶋りかこ・鈴木美紅(village®)
- text: Izumi Akamatsu
- edit: フィガロジャポン編集部