生きづらい現代社会を歌う、ザ・ゲスト・リストのデビュー作。
UKロック界で、いま高い期待を集めている新人バンドのひとつが、ザ・ゲスト・リスト。高校の友人を中心に結成され、まだ20、21歳という若さ。多くの名バンドを輩出したマンチェスター出身とあって、同郷のスミスをはじめ、レディオヘッドなどの影響も感じさせるが、そこに留まらない世代を超えた個々の趣向がサウンドに反映されているのも特徴だ。またカイ・アルティ(リードヴォーカル&ギター)は読書家で、子どもの頃は小説家になりたかったといい、歌詞に対するこだわりも強い。そして、メンタルヘルスや家庭内暴力、気候危機など、現代社会の怒りや不安と向き合うテーマに挑んでいる。初来日したばかりの5人に話を聞いた。なおレイオ・ハンター(リズムギター)は、母親が関西出身の日本人とあって日本語で答えてくれた。

5人を形成した音楽とは。
――カイはこのバンドを結成した時、すでに将来はプロになる夢を描いていたのでしょうか?
カイ・アルティ(以下カイ) 最初は小説家になりたかった。でも10歳か11歳の頃にギターを弾くようになり、そこからバンドをやりたくなって、学校でジャズバンドをやっていた。コロナ禍でバンド活動ができない間に曲を書いていたら、自分で歌いたくなって、友人たちとこのバンドを結成したんだ。
――影響を受けてきたミュージシャンや憧れの存在がいたら、その共通点を教えてください。
カイ ジョニ・ミッチェル、イアン・カーティス(ジョイ・ディヴィジョン)、ルー・リード、ピンク・フロイドも好きで、特にギタリストのデヴィッド・ギルモアがすごく好き。共通するのは、彼らの曲にはメロディの美しさがあるし、歌詞を自分の真実から書いている点が素晴らしい。歌詞を書く人って、詩的な言葉を使う人が尊敬されたり、愛されたりしがちだけれど、僕が名前をあげた人たちは日常の言葉を使いながらダイレクトに伝えようとする姿勢が強くて、そこが好きなんだ。
アンガス・ギルクリスト(ドラムス、以下アンガス) 好きなのはブラック・キーズ、インター・ポール、アークティック・モンキーズ。僕はギターバンドが好き。共通点としては、10歳、11歳の頃に感じたことなんだけど、ドラムがこっちに向かってくるような感じがいいと思ったんだ。
レイオ・ハンター(以下レイオ) フリートウッド・マックにいたリンジー・バッキンガムと、フィンガーピッキングが得意なギタリストのバート・ヤンシュ(ペンタングル)。僕は最初はクラシックギターを弾いていて、エレクトリックギターを弾いたことがなかった。だからフィンガー・ピッキングの方が完全に弾けるんだけど、このバンドに入って、初めてピックを使うようになった。ギターバンドにいると、アコースティックだと音が聞こえないからダメやんか(笑)。エレクトリックギターのプレイヤーでは、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)やアルバート・ハモンドJr.(ストロークス)が好き。
トム・クイグリー(リードギター、以下トム) 僕は60年代、70年代のハードロック系のギタリストが好き。ジミ・ヘンドリックス、スラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズ)、デヴィッド・ギルモア、あとジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)だね。メロディックなギターワーク、特にジミヘンはリズムギターとリードギターの組み合わせなどが興味深いし、すごくテクニカルだけど革新的なこともやっている。
シド・ウォレス(ベース、以下シド) 僕はデヴィッド・ボウイのキャラクター、ちょっと異次元的なキャラクターだけど、すごいと思っている。あとはシンガー・ソングライターのエリオット・スミス、ベーシストに関してはフリー(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の動きのある、軽いフットワークのプレイヤーが好き。ジャコ・パストリアスのベースもとてもメロディックだ。彼はジャズバンドのウェザー・リポートでも、ジョニ・ミッチェルとも活動していたよね。
デビューアルバム『Something Real』をどう作った?
――バンドの方向性を決めるきっかけになった曲はどの曲になりますか?
カイ 「Weatherman」だと思う。バンドの中で大ヒットしたという曲というわけではないけど、いままででいちばん強くて、いちばんユニークで、どこまでも自分たちの個性が出ているのがこの曲だから。それに、いまやっている他のどのバンドも出せない音がここに出ているんじゃないかな。しかもプロデューサーのマティアス・テレズとレコーディングした時に「これだ!」っていう確信があったんだ。だからライヴではいつも最後に演奏している。

――「Mary」も壮大なナンバーで、ギターフレーズも効いてきます。アルバムの最後の3曲「Mary」「Weatherman」「The Only Ones」の流れがとても好きなのですが、曲順はスムーズに決まったのですか?
カイ すごく考えたよ。レコードのA面B面のように捉えていて、A面はわりとライトな感じで入って、B面に入った途端に「pink」から加速して、そこからヘヴィになっていく。いまはLPで聴く人は少ないかもしれないけど、そう聴いた時の感触をすごく意識して曲順を決めたんだ。
「個人的な悩みをユニバーサルな感情として届ける」
――アルバム『Something Real』の前半(A面)は不安定な社会を生きる若い世代の心象を歌っていて、後半(B面)は個人的な傷や暴力が社会的な崩壊と繋がり、最後の1曲「The Only Ones」で、歌詞の“If I change/ If I loose my ways/ Take me as I am”が心に響きました。ザ・ゲスト・リストの歌にある、イギリスの不安定な社会の中で「僕らを受け入れてほしい」という思いに、みんなの共感が集まっていて、救いの歌、救いのバンドになっているのかな、と思って聴いています。
カイ 自分はむしろ逆の解釈かなと思っていて、「The Only Ones」って実はすごくパーソナルな曲なんだよね。ただ僕にとっては個人的な曲だけど、もしかしたらそこから受け取るメッセージはユニバーサルなものになっているかもしれないし、誰もが人生を経験していく中で共感できるものを持っていると思う。このアルバムではやってないけど、ピンク・フロイドのようなコンセプトアルバムをいつか書きたいというのはバンドの夢のひとつなんだ。このアルバムの心意気というか姿勢として何かあるとしたら、自分の個人的な悩みみたいなものをユニバーサルな感情に転換するところかもしれないね。
――カイにとって、歌っている時、もっとも強く解放されると感じるのは、どんな感情ですか?
カイ 歌うことそのものに、ある種のカタルシスがある。自分のベッドルームで歌っている時は別の感情を感じるけど、ライヴでパフォーマンスする時は観客とのコネクションを感じている。そしてそのコネクションから感じているものをまたシェアするような感じ。
重いテーマを歌っていても、重たいバンドには思われたくない。
――歌詞のシリアスな内容に対して、演奏はバランスが取れているように感じています。「Pink」の曲調もそうだし、「Slow Down Sally」も淡々としている展開ながら、音使いは明るめで聴きやすい仕上がりになっていて。どのようにしてバランスを取っていったのでしょうか?
レイオ たぶん、みんなは歌詞のことはあんまり考えていなくて、メロディをいちばん大切にしていて考えている。曲がおおよそできた後に歌詞が来るから、明るさと暗さの違いがすごく興味深いんだよね。
カイ メロディが先にあるということで、そこから歌詞に行く方向と音楽に行く方向とに分かれていく。歌詞の内容が重いからといって、必ずしもサウンドまでそこに引きずられてヘヴィにしていくことはしない。本当はそうしたらいいのかもしれないけど、そうすると、ただ重たいだけの曲になってしまうから。あと僕たちはたとえば重たい内容を歌っているにしても、重たいシリアスなバンドとは思われたくないんだ。根本にあるのは、本当に5人の友達が一緒に音楽を作っていることなので。
心地よい場所に留まらず、安全圏の外へ。
――バンドにとって、いちばん大きな変化があったのはどのタイミングですか?
トム まだ学校にいた2023年だね。当時の僕らはキャパが100人以下の小さなライヴハウスでやっていたのに、トゥー・ドア・シネマ・クラブのサポートで、ノッティンガムにある2500人くらいの会場で演奏したんだ。トゥー・ドア・シネマ・クラブにとっては小さな会場だけど、僕たちにとってステージからの眺めは信じられないほど素晴らしいもので、認められるバンドになったと実感した瞬間だった。
――アルバムジャケットでも、シングル「Something Real」や「You Should Care」のジャケットでもマネキンを使っていますよね。だからこそ、普遍的に誰でもそこに当てはまると感じられるのでは、と思っています。
カイ そこに意味はふたつあると思う。マネキンの嘘っぽさとか、フェイクなところ、そういったキャラクター的なところを象徴しているのと、顔がないということは、そこに自分自身を投影できるということなんだよね。
レイオ 本当は僕たち、アルバムカバーの中心になりたくなかったから、上の方に隠れていて、よく見たら、僕たちが上の方にいるのが見えるよ(笑)。

CD ¥3,520円、LP ¥7,480(税込)ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
――ノルウェーに行き、プロデューサーのマティアス・テレズと組むことで、どういった学びがありました? 音空間の作り方とかずいぶん変わりましたよね。
レイオ 初めてプロデューサーと仕事をしたのはジェイムス・ケリー(コーラル)とで、いろいろ学んだ。そこからギターだけではなく、キーボードとか他の楽器も入れて、ドリームポップみたいな、もっと複雑な音楽を作りたかったから、マティアスを選んでノルウェーに行ったんだ。
――最後にこのバンドで最も大切にしているポリシーのようなものがあれば教えてください。
カイ 自分自身にとって本当にリアルであるものをやるということと、謙虚でありたいということ。そして、心地よい居場所で慣れていることをやるのではなくて、むしろ安全圏でないところへ進んでいきたいね。
*To Be Continued