アルゴリズムの外へ、アートを探しに。東京が展覧会になる5日間。「アートウィーク東京」の見どころを一挙ガイド!
スマートフォンを開けば、好みのファッションに、気になるレストラン、心惹かれる景色。アルゴリズムは実に優秀で、私たちが「好き」そうなものを次々と届けてくれる。けれど、その心地よい世界から少し飛び出した先に、まだ知らない美しさが待っているとしたら? 11月4日から8日まで、東京を舞台に開催される「アートウィーク東京」。いつもの街で、いつもの自分とは違う感性に出会う、5日間のアートトリップへ。

アートウィーク東京って?
「アートウィーク東京(略称:AWT)」は、東京を代表する美術館やギャラリー、そしてアートシーンを牽引するプロフェッショナルたちが集う、年に一度の現代アートの祭典。世界最高峰のアートフェア「アートバーゼル」と提携し、コロナ禍のプレ開催を経て、2022年から毎年開催されてきた。文化庁が特別協力し、今年も俳優の鈴木京香が4度目となるアンバサダーを務める。会期中は国内外からアートファンや専門家が集まり、秋の東京がいつもとは少し違う表情を見せる。

現代アートには興味があっても、ギャラリーの扉を開くには、少し勇気がいる。ましてや都内のあちこちに点在するスペースを、自分で探してめぐるとなればなおさら。そんな心理的な距離を軽やかに縮めてくれるのが、AWTの魅力だ。
金・土・日の3日間には、参加会場を結ぶ無料シャトルバス「AWT BUS」が運行。自由に乗り降りしながら、気になる展覧会をいくつもはしごできる。参加ギャラリーへの入場は無料、参加美術館でも所定の展覧会に特別割引が適用される。ふだんは馴染みのないエリアへ足を延ばしたり、名前も知らなかったアーティストの作品に心を奪われたり。そんな偶然の出会いこそ、このイベントならではの醍醐味だ。

2026年は過去最多となる56の美術館・ギャラリーが参加。独自企画の展覧会「AWT FOCUS」をはじめ、映像作品を無料で上映する「AWT VIDEO」、国内外のゲストが語り合う「AWT TALKS」、アートと食が交差するポップアップバー「AWT BAR」まで、楽しみ方は実に多彩。鑑賞する、考える、語る、あるいは一杯を傾ける。アートとの付き合い方、そして美しさの解釈には、正解なんてないのだ、とイベント自体が教えてくれるよう。
昨年までと、何が変わった?
今年、ひときわ注目したいのが、AWTを象徴する展覧会「AWT FOCUS」の大胆なアップデート。
2023年に“買える展覧会”としてひとつの会場からスタートした同企画が、今年は東京の10会場を舞台にした回遊型の展覧会へと進化した。ウィーンで高い評価を得てきたギャラリーフェスティバル「curated by」のフォーマットと協働し、国内外のキュレーターがそれぞれの視点から10の展覧会をつくり上げる。
会場となるのは、スペースアン、タケニナガワ、ミサシンギャラリー、スカイザバスハウス、無人島プロダクション、ミサコ&ローゼン、ユタカキクタケギャラリー、XYZコレクティブ、ウェイティングルーム、思文閣銀座。いずれも東京のアートシーンを独自の美意識で彩ってきたスペースだ。
規模の面でも進化は著しい。参加施設は過去最多の56カ所にのぼり、ポーラ ミュージアム アネックス、思文閣銀座、PARCEL、セイソン&ベネティエールなどが新たに加わった。
さらに、AWTの共同創設者でディレクターを務める蜷川敦子が、米『TIME』誌が選ぶアート界で最も影響力のある100人「TIME100 Art」に選出されたことも話題に。東京の現代アートを世界へと発信する試みは、ますます存在感を増している。

参加すべきイベントは?
さて、これだけ選択肢があると、どこから足を運べばいいのか迷ってしまうもの。そんな人にこそ、まずおすすめしたいのが、生まれ変わった「AWT FOCUS」だ。
シエラレオネ出身のアーティスト、ジュリアンノックスによる日本初の個展(スペースアン)では、イギリスのキュレーター、エコウ・エシュンが監修を担当。口承の伝統に着想を得た映像作品が、私たちを知られざる物語の世界へと誘う。
一方、ミサシンギャラリーでは、韓国のキュレーター、シン・ジェミンが手がけるアーティストで詩人の青柳菜摘の個展を開催。タケニナガワでは、ポーランドで活躍し、90歳を超えてなお制作を続ける鴨治晃次の静謐な作品世界に触れられる。
生まれ育った場所も、表現方法も、世界を見つめる視点も異なるアーティストたち。最初は理解できない作品に出会うこともあるだろう。でも、その「わからない」という感覚こそ、案外、新しい扉を開くきっかけになるのかもしれない。



鴨治晃次《死せる自然 – 静かな生》2022年 Photo by Kei Okano. © Koji Kamoji, courtesy Take Ninagawa.
アートと食、お酒を一度に味わいたいなら「AWT BAR」へ。南青山の会場では、建築家・伊東加恵が手がける空間「KURU KURU」を舞台に、レストラン「LA & LE(ラ・エ・ル)」によるフレンチベースのフードと、青柳菜摘、須田悦弘、森万里子がプロデュースするアーティストカクテルを楽しめる。似て非なる形が集まり関係し合う空間で味わう一杯は、アートを“味わう”というここだけの体験だ。


映像の世界に浸れる「AWT VIDEO」は、上海のロックバンド美術館のX・ジュー=ノウェルが監修。参加ギャラリーのアーティストによる映像作品を無料で上映する。
トークを楽しみたいなら「AWT TALKS」へ。国内外のキュレーターやアーティストが登壇し、シンポジウムやラウンドテーブル、オンライン配信を通じて、現代アートの最前線を語り合う。子どもや若年層、これからコレクションを始めたい人に向けたプログラムも用意され、予備知識がなくても気負わず飛び込めるのがAWTの懐の深さだ。

初めてなら、無料のAWT BUSが走る金・土・日の週末を狙って、気になる展覧会を2〜3カ所選んでおくのがおすすめ。公式サイトでマップを眺めながら、自分だけの小さなアートトリップを計画してみよう。
ただし、予定どおりにめぐることだけが目的ではない。ふらりと立ち寄ったギャラリーで思いがけない作品に出会い、知らなかった価値観に心を揺さぶられる。そんな寄り道こそが、いちばんの収穫になることだってある。
自分の「好き」を正確に言い当ててくれるアルゴリズムも便利。けれども、まだ「好き」になるとも知らなかった何かに出会えるのは、きっともっと贅沢なこと。
この秋はスマートフォンから少し顔を上げて、東京という大きな美術館へ。知らない世界に心を開く5日間が、もうすぐ始まる。
アートウィーク東京(Art Week Tokyo/略称:AWT)
会期:2026年11月4日(水)〜8日(日)10:00〜18:00
会場:都内56の美術館・ギャラリー、AWT FOCUS、AWT BAR ほか各プログラム会場
主催:一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携:アートバーゼル
特別協力:文化庁
料金:AWT BUS乗車無料/参加ギャラリー入場無料(参加美術館は所定の展覧会でAWT特別割引を適用)
公式サイト:https://www.artweektokyo.com/
- text: Izumi Akamatsu
- edit: フィガロジャポン編集部