Kawakyun 命を無駄なく循環させる。姫路のタンナーが提案する革の魅力。
Fashion 2021.12.22
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あらゆる命を無駄にしてはいけないと、多様な野生動物の皮を鞣すタンナーの取り組み。
「たった一枚からでも、求められる革を作る」――そんな姿勢が、デザイナーやクリエイター、ブランドから支持されている、姫路のタンナー「オールマイティ」。国産原皮を得意とするが、近年増加しているのが、地方自治体や猟師から持ち込まれる皮の鞣しだ。
「数年前から鳥獣害のことを耳にしていました。そんな時、地方の自治体から、捕獲した野生動物の皮を再利用できないものか、そんな相談を受けたのです」
そう話すのは、オールマイティの水瀬大輝さん。姫路の次世代の製革業を担う、キーパーソンのひとりである。もともとは大量生産される婦人靴の素材を供給していたが、13年前、オールマイティへ屋号をあらためたことをきっかけに企業活動の内容も刷新。若いクリエイターや新しいブランドを支援すべく、小ロットから素材を供給するタンナーに生まれ変わった。現在では色味、風合い、柔らかさ、厚さ……つくり手のクリエティビティにマッチする革を、1枚から作り上げている。
オールマイティは水瀬大輝さん(写真)と父親の隆行さん親子が営むタンナー。
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北海道から屋久島まで、全国各地の皮が集まる。
「クマ、シカ、イノシシ……捕獲される野生動物の肉はジビエとして消費されています。では、その皮はどうでしょう。残念ながら、獲られた野生動物の皮はそのまま廃棄されています。いただいた命を無駄にしないで活用したい、という使命感に駆られ、副産物としての皮を鞣すようになりました」
猟師は横の繋がりも強いようで、いつのまにか北は北海道から南は屋久島まで、全国各地から野生動物の皮の鞣しを依頼されるようになったのだ。
現在では自治体や猟師だけでなく、郷土の革を使いたいという強い思いを持つブランドやクリエイターからも皮が持ち込まれるようになった。
野生動物の皮とひと口にいっても、シカ、クマ、イノシシとそれぞれに個性がある。「2年あまり試行錯誤を重ねて、ようやくきれいに鞣せるようになった」というほど苦労したのが、脂肪の多いイノシシ。脂肪をすべて取り去らないと鞣しのための薬品が組織に入らず、きれいに鞣せない。加えて、オスの中には肩パッドを思わせるほど肉厚な皮を持つ個体もあり、皮を薄く削ぐ作業が必要になることもある。
左はワイルドボアレザー(国産イノシシ革)のブランド、STYのベスト。右はマキノウッドワークスの、墨染めのシカ革のベスト。野生動物の革であることを印象づける、角のあしらいが特徴的。
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表面に残る傷こそ、革の個性。
「野生動物ならではの傷もジビエの個性。『いったい、どこで何をしたらこんな傷が?』というような傷跡が残っている個体もあり、生前の彼らの行動や習慣に思いを馳せてみるのもおもしろい。また、全国の皮を鞣しているうちに、たとえばシカに関しては南にいくほど皮が小さくなるというような地域特性があることもわかってきました。そういう地域性があることも野生動物の革の魅力だと感じています」
クマ革を使った財布はどちらも、台東区松が谷に拠点を構える「と革」のオリジナルブランド、Six COUP DE FOUDREのもの。表面に見える傷こそ、野生動物の革の魅力だ。
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本革はエコであることをたくさんの人に伝えたい。
いっぽう、これからを担うタンナーとしては製革業にまつわる誤解に強い危機感を抱いている。
「タンナーの組合のなかで20代、30代の若手タンナーで集まった時の、僕たちのもっぱらの話題はサステナビリティ。フェイクレザーとレザー(本革)が混同されていたり、フェイクレザーを使うことがサステイナブルであるというような印象が広まっていたり。本革はお手入れ次第では父から子へ、さらにその子へと受け継いでもらえるサステイナブルな素材です。ひとりひとりのタンナーが鞣しに使う薬品や水の量に配慮するなどはもちろんですが、これからは“革はエコフレンドリーな素材である”ということを世間に謳っていけるよう、発信力も強化しなくてはいけません」
食肉の副産物である本革を選ぶことは、命を循環させること。水瀬さんは革を通じて広く訴えていく。
http://almighty-ame.jp
* 日本タンナーズ協会公式ウェブサイト「革きゅん」より転載
photography: Iku Fujita, editing & text: Ryoko Kuraishi