
南西ドイツらしい佇まいのヴァイングート・ベルグクロスター。
われわれワイン・ジャーナリストが最初に向かったのはマインツの南に広がるラインヘッセン地方でした。ドイツには13のワイン生産地がありますが、ラインヘッセンは26,500ヘクタールのブドウ畑を擁するドイツ最大の産地。「千の丘」の異名を取り、多様な地勢、地形に開かれた畑に個性豊かなブドウが実ります。造られるワインは白が7割、赤が3割。この20年ほどの間に、ワインの品質とイメージが劇的に向上したと言われる地方です。

丘と丘の合間に可愛らしい村が。ラインヘッセンの典型的な風景。

ジェイスン・グレーベさんと小ぶりな醸造タンク。
ヴァイングート・ベルグクロスターは18世紀から4代続いてきた家族経営の小さなワイナリー。5代目の当たるジェイスン・グレーベさんは25歳。ドイツの若手生産者の組織“ジェネレーション・リースリング”のメンバーです。彼が家業に参加したのは20歳の時。4年目の2014年からワイン造りを任されるようになりました。ジェイスンさんはワインの品質向上のために、いくつかの「小さな変革」を畑やセラーに加えています。機械で行っていた収穫作業をすべて手摘みにする。大きなサイズのステンレスタンクで一気に行っていた醸造作業を小さなタンクで個別の区画ごとに行うようにする。要は、よりきめ細かいケアをするということ。

ワイナリーとグレーベ邸をつなぐ庭。

ベースラインのリースリング・ドライ(トロッケン)。
彼の手がけた2015年のリースリング・ドライを試飲すると、白い花、青りんご、ハーブの香りの奥から柔らかな柑橘のトーンが立ち上がり、口の中ではミネラル感のあとに喜ばしい酸味が残りました。緻密で張りがあり、いかにもブドウが丁寧に扱われたことがわかるできばえです。
ジェイスンさんの「小さな変革」にはまだまだ先があるようです。例えば現在10種類以上栽培しているブドウの品種を絞っていくこと。「極めたいのはリースリングです。それぞれの畑の違い、年ごとの個性を忠実に反映させたワインにしたいんです」

エステートライン(左)とプレミアムライン(中・右)。すべてリースリング。

テイスティングは薄日の差すテラスで行われた。

再登板のときを待つ古樽。
地下の貯蔵庫にはもう何十年も使っていないことが一目瞭然の大樽が並んでいます。そこにワインを詰めて熟成させてみたいとジェイスンさんは言います。ワイン造りの原点に還る──それは、世界のワイン産地でここ10年ほどの間に同時多発的に起こってきたアクションです。高度情報化世代の“ジェネレーション・リースリング”メンバーたちにとって、ワイン造りの最新トレンドはごく簡単に入手でき、自然に共有するべきことのよう。その様子を目の当たりにして、イギリス人ワイン評論家でドイツワインの世界に精通しているスチュアート・ピゴット氏が話していたことを思い出しました。
「20年前、ドイツのワイン生産者たちは隣が何をしているのかすら知らなかった。世代交代したいま、ワインメーカーたちは互いに行き来してテイスティングし、情報交換し、議論して、最後には音楽をかけてパーティになる。ドイツを出て、アメリカやオーストラリアで修業する者も珍しくない。ドイツワインの現場はどんどん開かれた世界になっているのだ」
次回は、さらにワイナリーを訪ねていきます。

冴えた色味からもワインのミネラル感が感じられる。

ブドウ畑の傍にいたテントウムシ。このワイナリーは2003年から有機農法でブドウを栽培。

ブドウ畑を眺めながらワインを楽しむカップル。生活のなかにワインが溶け込んでいる。
*リースリングの爽やかな逆襲。 #01「世代交代を経て進化する、ドイツワインの”現在”とは。」はこちら。
ライター、ワイン・ジャーナリスト、編集者
ワイン・ジャーナリストとして、これまで取材したワイン産地は11カ国30地域以上、訪問したワイナリーは約500軒に及ぶ。ワインと観光要素を結びつけた「ワイン・ツーリズム」の紹介に重点を置いている。各誌ワイン特集の企画・監修・ワインセレクトを担当することも。
吉田パンダ Panda Yoshida
フォトグラファー
世界の犬とおいしいものを、こよなく愛するフォトグラファー。スタジオ勤務を経て、2000年よりパリに拠点を移す。愛犬は黒いトイプードル。雑誌・広告媒体では吉田タイスケとして、旅、ライフスタイルを中心に幅広く活動。
texte: YASUYUKI UKITA, photos: PANDA YOSHIDA, collaboration: WINES OF GERMANY
この記事の元URL: https://madamefigaro.jp/travel/160901-riesling.html