山口・宇部のモダニズム建築、「渡辺翁記念会館」に見る虹の輪。

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写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は山口・宇部の旅。

渡辺翁記念会館は大きな公園の中にある。夕日が落ちる頃、ここに来て建物を眺めるのが好きだ。そんな中、制服姿の学生が自転車で走り抜けたりするのがまるで映画のワンシーンのよう。市民に開かれた場所は町とともに呼吸している。写真は1階のホール。2階のホールはまったく違うデザインなのもおもしろい。

工業の町の名建築に見る虹の輪。

vol.43 @ 山口・宇部

10数年来お世話になっている山本写真機店のギャラリーで写真展を開催することになり、久しぶりに宇部を再訪した。町のありようが速い速度で変化している一方で、工業の町、宇部の個性を決定づけているのは、村野藤吾が手がけた素晴らしいモダニズム建築の数々が、いまも現役の公共建築としてそこにあることだ。海底炭田の採掘で発展した宇部は、地域に豊かな暮らしをもたらした。宇部興産(現UBE)の創業者、渡邊祐策の名を冠した「渡辺翁記念会館」(1937年竣工)は訪れるたび発見がある名建築で、音楽ホールとしての評価も高い重要文化財、外観は大きな船のような印象だ。エントランスのレリーフには炭坑夫たちが働く姿を見る。1階のホール部分は天井に虹の輪がいくつも広がっている。私は初めて見た時、これを「天空」だと思ったが、海中から見上げた世界を表現していると聞き、炭田で働く人々を慮る村野の創造に心掴まれた。決して華美ではなく、居心地のよさと夢が共存するこの空間がいまも市民の生活とともにあるなんて、それは理想的な建築の在り方ではないか。10年ほど前の滞在制作で、この建築を細部まで撮影できたのは貴重な体験だった。

宇部出身の庵野秀明監督が創るアニメや実写映画作品の中で見る近未来都市のようなロケーションは、確かに監督の原風景のひとつの姿。道路も工業的な建造物も造りがごく大きく、一部を切り取るとそこがまるごと撮影所になってしまいそう。不思議に味のある町なのだ。

町からすぐ近い床波海岸を歩くと、白い砂浜から時折顔を出す黒い石の塊、これが石炭だと聞いて驚いた。海の向こうに突き出た円筒は海底炭田と地上を繋ぐ排気・排水のためのピーヤと呼ばれる筒。長生炭鉱の大事故のことを忘れてはいけない。
宇部新川駅を出てまっすぐに歩いていくと、UBEの工場夜景が広がっている。映画『シン・仮面ライダー』のロケ地にもなっているが、まさに絵になるロケーション、ここでいつかファッション撮影をしたいと密かに思っていた。

『シン・仮面ライダー』
●監督・脚本/庵野秀明
●2023年、日本映画
●121分 ●配給/東映
●Amazon Prime Videoにて配信中

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。
1年近く続いた写真展の巡回が一段落し、この夏以降の撮影プランを練っている。希望の光を感じる写真を撮りたい。

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

  • photography & text : Yayoi Arimoto

*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋