東京発・2泊3日、熊野エリアをじっくりまわる聖地巡礼の旅。【前編】
Travel 2024.10.26
和歌山への旅を考えているなら、リアルな旅の様子を記録した「和歌山リアルとりっぷ」をチェック。今回は、『フィガロジャポン』の元エディターが、世界遺産登録20周年の記念すべき年にぜひ現地に訪れたいと、東京発、2泊3日、公共交通を使って熊野三山をめぐります。事前に知っておきたい注意点やアクセス、見どころなども書き留めているので、素敵な旅を実現する参考にぜひ。
*記載のデータは2024年10月現在のものです。
熊野の旅で、明日に向かって「よみがえり」!
今回旅するエリアは「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち)」として、世界遺産に登録されているのですが、なぜかご存じでしょうか?
紀伊山地は、和歌山、奈良、三重にまたがる秘境。険しい山や神秘的な滝、奇岩などの圧倒的な景観を誇り、古代から畏れ崇められてきました。
そんな自然崇拝を原点として人々の信仰を集め、さらに中国から伝来した密教の修行地にもなり、やがて両者や道教が混じり合った修験道も成立。そして、それぞれ熊野三山、高野山、吉野・大峯という3つの聖地(霊場)が異なる宗教を認め合って共存し、各地を結ぶ参詣道も生まれました。
それらが今も民衆のなかに息づいている世界でも類を見ない神聖な場所として、「紀伊山地の霊場と参詣道」は2004年に世界文化遺産に登録されたのです。
その中でも、熊野は神仏習合の聖地。熊野には「熊野本宮大社」「熊野速玉大社」「熊野那智大社」の三社があり、それぞれ異なる自然崇拝を起源にしていましたが、平安時代後期に仏教と結び付き、熊野権現信仰が生まれました。
権現とは「仏が人々を救うために、神としてこの世に現れた姿」だという解釈。「熊野三所権現がおわす熊野三山」という言葉が表すように、熊野の三社は「熊野三山」と総称で呼ばれるようになり、権現が住む地は浄土だとされて、鎌倉時代以降は救いを求める人々が列をなして参詣したのです。その様子は「蟻の熊野詣」といわれるほどの一大ムーブメントでした。
かつては、女性や病気の人を受け入れない聖地も多かったのですが、熊野は性別も健康状態も身分も問わず、すべての人を受け入れてきたというので驚きです。なんて大きな包容力!
そんな熊野へと続く参詣道が熊野古道。京都や高野山などの各地から熊野三山に向かうさまざまなルートがあり、その全長1,000km! そのうち200kmが世界遺産に登録されています。
ちなみに、聖地へと向かう修行の道だからこそ、あえて険しいルートが選ばれたのだそう。辛い道のりを乗り越えて三社に参ることで、心身が浄化されて生まれ変わる。こうして、この地は「よみがえりの地」と信じられてきたのです。
前世の罪を清める熊野速玉大社、現世の縁を結ぶ熊野那智大社、来世を救済する熊野本宮大社......このように熊野三山をめぐれば、過去・現在・未来の安寧を得られると考えられたとか。
三山巡りの正しい参拝順は特に決まっていませんが、熊野本宮大社→熊野速玉大社→熊野那智大社・那智山青岸渡寺の順に参詣するのが一般的だそうです。
新幹線の中で、心身ともにスタンバイして熊野へ!
東京から熊野まで、今回は新幹線で向かいます。東京駅6時15分発の新幹線に乗車、名古屋駅でJR特急「南紀」に乗り換えて、紀伊勝浦駅に11時56分に到着という早朝からのスケジュール。
紀伊勝浦駅がある那智勝浦町は、生まぐろの水揚げ量日本一で知られる勝浦漁港がある町。駅周辺には新鮮なまぐろを使ったランチが食べられるお店があるので、まぐろランチから始めたい〜、ということでこの時間を選択しました。
早起きが苦手な人は、このあと8時12分東京発―13時58分紀伊勝浦着という手もあります。いずれにしても、新幹線だと片道5時間以上かかるけれど、東京―名古屋間で寝られるし、お弁当を買って乗れば車内で心身ともに熊野の旅のスタンバイができるので、意外と楽なのです。
おいしいまぐろをいただき、お腹の準備も整ったところで、今回の熊野古道ウォークの出発点である大門坂へ向かいます。紀伊勝浦駅からはだいたい1時間に1〜2本の間隔で、大門坂を通る「那智山」行きのバスが出ているので、これに乗車。
駅にはタクシーもスタンバイしているので、急ぎの方はタクシーでどうぞ。片道約15分、3,000円ぐらいだそうです。
駅周辺にはコインロッカーもあるし、土産店では無料で荷物を預かってくれるところもあるので便利です。とはいえ、熊野の旅は荷物をコンパクトにまとめるのが鉄則。今回は特に、熊野古道ウォークや川舟下りも楽しむかなりアクティブな旅なので、リュック+スニーカー+帽子の身軽なスタイルがおすすめです。
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飛行機でinという選択もあります
紀伊勝浦駅に行くもうひとつの方法が飛行機。羽田空港7時30分発の飛行機なら、8時45分に熊野白浜リゾート空港(南紀白浜空港)に到着。空港からは9時30分発のリムジンバスに乗って、紀伊勝浦駅に11時25分に到着できます。空港からバスで白浜駅に向かい、JR特急「くろしお」での移動も可能です。
帰りは、15時5分新宮駅発、15時35分紀伊勝浦駅発の空港行きリムジンバスがあり、これに乗ると18時30分発の羽田空港行き最終便のフライトにピッタリの時間で到着できます。
ダイヤは変更することもあるので、必ず事前にご確認を。臨機応変に選びましょう。
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王道コースを歩いて、熊野那智大社と那智山青岸渡寺へ
今回の聖地巡礼の旅の皮切りは、美しい石畳の「熊野古道 大門坂」を上って熊野那智大社、那智山青岸渡寺、そして那智の滝へと向かう王道のモデルコースを選択。このコース、約2.5kmの道のりで、初心者にもおすすめとのこと。
「大門坂」でバスを降りたら、すぐそばの大門坂駐車場に無料レンタルの杖があります。今回は借りませんでしたが、使っている人たちもいて登りやすそうでした。
いよいよ熊野古道ウォークの始まりです! しばらくはのどかな民家が並ぶ道が続いて、歩くのが楽しい。
鳥居と小さな橋を越えて、夫婦杉と呼ばれる2本の大杉まで来ると空気が一変します。視界の先に、杉木立に囲まれて、遠くまでずーっと続く石畳の階段が現れます。これぞ熊野古道といった風景です。
木漏れ日の中を歩いていくと、途中で「多富気王子(たふけおうじ)跡」と書かれた石碑が。「王子」とは神社のこと。かつての熊野詣は命がけの行程だったため、道中の守護を祈願して、古道沿いに多くの社が建てられたのだそう。いにしえの旅に思いを馳せつつ、30分足らずで石段を上り切りました。
さぁ、那智大社へ! と思いきや、まだ階段は続きます。土産店などが並ぶ参道は、道も新しめになりますが、ここも階段の連続です。
上り終わったかと思うとまた次の階段が現れ、ついに熊野那智大社の鳥居が見えて最後の階段を上ったと思ったら、視線の彼方にはさらにもうひとつの鳥居が......。
とどめの階段を上りきり、今度こそ到着です! 時計を見ると15分ほどしかかかっていませんでしたが、運動不足の身にはなかなかハード。とはいえ、多少の疲労も相まって余りある聖地のパワーに出会うことができます。
やっとこさたどり着いた熊野那智大社は、那智の滝に対する自然崇拝を起源とする神社。もとは滝の近くに社殿がありましたが、1,700年ほど前に現在地に遷されたのだそう。
鮮やかな朱塗りの社殿に向かって手を合わせ、眼下の雄大な景色を見晴らすと、聖地の澄んだ空気に洗われて晴れやかな気持ちになりました。
境内にそびえているのは、樹齢約850年の御神木の大樟。根もとの内部が空洞化していて、無病息災などを願って御神木の中を通り抜ける「胎内くぐり」をすることができます。
真っ暗な穴を抜けて眩しい地上に出ると、生まれ変わりを体験したような不思議な気分になりました。
那智大社と隣接する那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)は、那智大社とともに熊野信仰の中心地として信仰を集めた、まさに神仏習合の聖地でした。
それが明治初期の神仏分離令によって別々になり、青岸渡寺は寺院として独立しましたが、今でも熊野三山といえば、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社と青岸渡寺の三社一寺なのだそう。
現在の本堂は、織田信長の焼き討ちの後に豊臣秀吉が再建したもの。寺院建築には欅や檜が使われることが多いのですが、ここはすべて地元の熊野杉でつくられています。
青岸渡寺本堂の後方には三重塔が建ち、那智の滝を望む景観も見えますよ。
11月から1か月間は、世界遺産登録20周年を記念して、普段完全非公開の瀧寶殿が数十年ぶりに開扉されます。国の重要文化財である那智経塚から出土の金剛界立体曼荼羅をはじめ、青岸渡寺の秘宝が見ることができるので、こちらもお見逃しなく。
続いて、那智の滝を目指して坂道や石段を15分ほど下ります。
到着すると、鳥居の奥に轟音とともに流れ落ちる滝の姿が! 133mという日本でも指折りの落差を誇る滝は大迫力です。滝そのものが御神体とされ、社殿はありません。
命を育む水の流れは神々しさに満ちていて、現代の生活では失いがちな大自然への畏敬の念を呼び覚ましてくれます。
帰りは、石段を戻ったところにあるバス停「那智の滝前」からバスで一気に紀伊勝浦駅まで戻ります。
このバスも1時間に1〜2本と限られているので、時間をチェックしてから滝に下りるのがおすすめです。乗車時間は20分余りになります。
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ホテル浦島の洞窟温泉がダイナミック過ぎる!
今夜の宿泊先「ホテル浦島」は、紀伊勝浦駅から徒歩5分ぐらいの観光桟橋から船で向かいます。しばらく待つと、大人気の「カメさん号」こと浦島丸が迎えに来てくれました!
まさに、竜宮城に向かう浦島太郎気分です。送迎船は天候や時間によっては運休することもありますが、そんな時はシャトルバスでも行けるのでご安心を。
ホテル浦島は、今どきのデザイナーズホテルでは体験し難い、規格外の驚きがたくさんあります。
まずはその規模。1956年の創業時は木造2階建の小さな温泉旅館だったのが、次々と増築を重ねて、現在は4つの棟が長い連絡通路で結ばれ、半島まるごとホテルに。
もっとも高い場所にある建物には、日本一高低差があるといわれるエスカレーターで昇っていきます。これがなかなか壮観。
昔はケーブルカーが走っていたそうです。フロントでは館内図がもらえるのですが、それを見ながらでも迷子になりそうな広さ......。
そしてホテル浦島最大の魅力は、何と言っても大洞窟温泉にあります。
ホテル内に温泉は5ヶ所ありますが、うち2ヶ所が海底の隆起で生まれた天然の洞窟に湧いた温泉なのです。とりわけ「忘帰洞」には度肝を抜かれました!
熊野灘の荒波に削られてできたというゴツゴツした洞窟は、間口25m、奥行50m、高さ15m。幾つもある湯船には、白濁した硫黄泉が掛け流されています。
なかでも、開口部が三角形に削られた露天風呂は、太平洋との距離が半端なく近い! 荒波がザッパーンと高いしぶきをたてて、目の前まで押し寄せてくるのです。しぶきが湯船に入ってくるほどのビッグウェーブが来ると、思わずみな大歓声!
ひとつとして同じものがない波は見飽きることがなく、ありのままの自然の迫力に時間を忘れて長湯してしまいました。「帰るのを忘れるほど心地よい」という称賛から「忘帰洞」と名付けられたそうですが、さもありなん。
忘帰洞はかなり広さに差がある感じで男湯と女湯に仕切られていますが、午前と午後の入れ替え制なので、両方忘れずチェックしてくださいね。
2024年7月にリニューアルしたレストランの夕食バイキングも好評です。「熊野キュイジーヌ」をテーマに、地元の山海の幸を中心とした多種多彩なメニューがこれでもかと並んでいました。
この日の夕食でひときわ存在感を放っていたのが「まぐろの兜とカマのロースト」。香草風味でローストされた身は食べやすくほぐしてあるのですが、身をとった後のカマ付きの兜もどーんと2本飾ってあって、シュールにゲストをお出迎え。
おすすめは社長自ら考案したという「浦島めし」。まぐろ版ひつまぶしで、まぐろの炊き込みご飯に薬味をかけたりお茶漬け風にしたりと、一杯で三度美味しい食べ方を堪能できます。
ほかにも「まぐろメンチミニバーガー」「漬けまぐろの冷製パスタ」など、まぐろの街・勝浦のホテルだけあって、多彩なまぐろづくしが楽しめました。
ついつい食べすぎて体重計に乗るのがコワいですが、まだあと2日歩きまわるのでノープロブレムです!