パリの手仕事が生まれるアトリエへ プラスチック容器不要で、輸送のエネルギー消費も少ない固形コスメがパリで人気。
Paris 2023.01.29
ずっと大切にし続けたい素敵なものが出来上がる背景には、手仕事を大事にするクリエイターと情熱あふれる物語がある。彼女たちを訪ねて、パリの小さな仕事場へ。
CASE #03 ジェレミー・エムセレム/ソレーヌ・ルボン
アトリエは店の地下。店内に飾られた石けんには、セメントタイル同様、複数並べることで別の大きなモチーフになるデザインもあって、楽しい限り。
「私たちの目的は、みんなを固形のコスメに誘うこと」
そう語るのは、ジェレミー・エムセレムとソレーヌ・ルボンのデュオ。プラスチック容器いらずで輸送のエネルギー消費も少ない固形のコスメは、いま注目のアイテムだ。ふたりが2018年に立ち上げたシマンは、コールドプロセス製法によるおしゃれな固形石けんのパイオニア。ブランド名はセメントタイルにちなんだもので、円や三角形、花びらや葉を様式化したグラフィックなモチーフが特徴だ。
年間約6万個生産される石けんは、パリとボルドーにある2店に隣接するアトリエで、すべて手作業で作られる。パリの店の地下にあるアトリエは、ちょっとした化学実験室の趣だ。材料はゴマ、麻、ナタネ、アマナズナとココナッツの5種のオイル。「石けんの主成分はオイルと水、苛性ソーダ。苛性ソーダだけは合成素材ですが、これがないと石けんになりません」とソレーヌ。そこに、南仏グラースで調合するナチュラルフレグランスと、ミネラル由来の顔料が加わる。顔料で色付けされた原液は、大きなキューブの中に順番に色別に流し込まれて、グラフィカルなモチーフを描き出す。固まったところでカットされ、1カ月乾燥させた後、ロウ引きした紙に包まれて店頭に並ぶ。
最近のヒットは、石けん作りの工程で出る裁ち落としを集めて成形し直した丸い石けん。無包装で販売し、リサイクルやゴミゼロをそっとアピールする。こちらもパリジャンの心にフィットしているようだ。
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透明キューブの中に、石けん液を色別に流し込むことで、グラフィックなモチーフができる。固くならないうちにカット。
パリのラボ(100, avenue Parmentier 75011 tel:非公開)では新作の研究も行われている。真ん中に見える六角形は、パリのキッチンの床によく使われていた昔ながらのトメトをイメージした固形シャンプー。鮮やかなブルーの円柱は、石けんのモチーフの試作品。
雲母、酸化鉄、カーボンなど、ナチュラルな顔料はミネラル由来。唯一の植物由来はウコンのイエローだそう。
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「残念ながらフランス製ではないけれど、ココナッツオイルは常温でも固形で、石けん作りに適している」とソレーヌ。「オリーブオイルは泡立ちがよくないので使いません」
端っこの裁ち落とし部分は集められ、円形に成形し直して「シュット・プレセ」(7ユーロ)に。四角い石けん(10ユーロ)に比べ、価格も抑えられるのでうれしい。
カットされ、商品化のために1カ月ほど乾燥させた石けん。ロウ引きの紙に包んで完成。
*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋
●1ユーロ=143円(2022年12月現在)
editing : Masae Takata (Paris Office)