マリー・アントワネットがトリアノンに造らせた自然風景式庭園を巡る展覧会へ。

Paris

ヴェルサイユ宮殿の庭園というと、ルイ14世が造園家アンドレ・ルノートルに造らせた左右対称で幾何学的に整えられたフランス式庭園が印象的。それに対して、マリー・アントワネットが離宮プティ・トリアノンに造らせた庭は、自然風景式の英国式庭園である。ヴェルサイユ宮殿のグラン・トリアノンでは9月27日まで、この英国式庭園にスポットを当てた『Jardins des lumières 1750-1800』と題した展覧会を開催中だ。トリアノンでのその庭の再発見も併せて楽しみたい。

展覧会場からプティ・トリアノンへ。同じ場所に頻繁に出現するというリスたちとの出会いがあるかもしれない。photography: Mariko Omura

展覧会名にある1750年から1800年というのは、マリー・アントワネット(1755~1793年)が生きた時代であり、フランスで人間の理性を重んじる思想が栄え啓蒙の世紀(siècles de lumières)と呼ばれた18世紀の後半である。左右対称を重んじる整然としたフランス式庭園に対し、小川、小道、洞窟、そして装飾的な建造物が織りなす絵画的な構成を特徴とする英国式庭園が生まれたのは1730年ごろで、これがロシア、スウェーデン、ドイツなどヨーロッパ各地に広がったのが1750~1800年なのだ。この新しいスタイルの庭に魅了されたのは宮廷人に限らず、ブルジョワたちも含まれていた。

この展覧会はその誕生の経緯を語り、ついで英国式庭園から生まれたアール・ドゥ・ヴィーヴルへと続く。絵画、デッサン、家具、建築プロジェクト、コスチュームなど160作品が展示されている。

ドイツ、英国、フランスの庭をミックスした18世紀の理想の庭園の模型。photography: Mariko Omura

フランス式庭園から英国式庭園へ

1730年代、英国のストウ、ストゥルファンド、そしてキューガーデンで生まれた庭園に対する新しい考え方を反映した風景庭園であり喜びの庭が流行した。会場に模型が展示されているが、英国の自由な風景を取り込み、そこにパゴダなど中国的要素をミックスしたもので、アングロ・チャイニーズ庭園とも呼ばれる。この手の庭園には、古代への憧れとしてローマやギリシャを想起させる廃墟などが加えられたものも。18世紀後半、ドイツではシュヴェツィゲンとヴェルリッツに、スウェーデンではドロットニングホルム、そしてロシアではツァールスコエ・セロとパヴロフスクの宮殿にこの様式の庭園が生まれた。会場に展示された、ルーヴル美術館所蔵の有名なトマス・ゲインズバラの『庭園での会話』や、1762年に世界で最も美しい景観のひとつと評された銀行家ヘンリー・ホアの邸宅にあるストゥアヘッド庭園を描いたウィリアム・ターナーの絵画などからこの庭の流行を見ることができる。

左:模型の一部。 右:クロード=ルイ・シャトレが描いた『ヴェルサイユの岩場と見晴台のプロジェクト』(1782年)photography: Mariko Omura
19世紀がジャポニズムなら18世紀は中国趣味の時代。右は1785〜1795年に描かれたパリのイタリア大通りに18世紀末に生まれた中国式浴場。photography: Mariko Omura
左:トマス・ゲインズバラ作『庭園での会話』。 右:17世紀末から18世紀初めの、南京のパゴダ。イギリスのキューガーデンを始め、ヨーロッパの庭園に芸術的なオブジェとして導入された。photography: Mariko Omura

風景式庭園とそのアール・ドゥ・ヴィーヴル

自然が感じられるシンプルで快適な新しいスタイルの庭園。これに似合うのは農婦が着るようなシュミーズドレスであり、ゆったりとした時間を過ごすためには装飾の少ない素朴な家具が必要となった。昼は散歩を楽しむ庭園は、夜のパーティーにもうってつけの会場でもあった。モード関連、家具を展示するこの第二部の締めくくりには、当時の宮廷人がいかに庭で過ごす時間を楽しんでいたのかを詩的に描いたジャン・オノレ・フラゴナール(1732~1806年)の大型の作品を展示。これらは、パリのSaincy邸宅のために描かれた5点のうちの3点で、目隠しごっこやブランコ遊びに興じる人々の姿は、幾何学的なフランス式の庭園では生まれぬ光景だ。

左:ジョージ・ロムネ作「Lady Lemon」。貴婦人もシュミーズ・ドレスを着るのが流行りだった。 右:英国式庭園の時代、食器や衣服に自然の草花のモチーフが描かれた。photography: Mariko Omura
田園の暮らし。photography: Mariko Omura
左:薄いモスリンのドレスを着た王妃マリー・アントワネットのポートレート。エリザベート・ヴィジェ・ル・ブロン作(1783年)。 右:風景を描いたボタン。photography: Mariko Omura
左:ランブイエの酪農場で使われていた食器類。 右:中央のスツールは洞窟用に作られたもの(1775〜1780年)。photography: Mariko Omura
展示されているフラゴナールの絵画。左は舞台で余興が演じられている『サン・クルーの祝祭』(1775/1780年)、右は『ブランコ』(1775〜1780年)。photography: Mariko Omura

トリアノンの庭園へ

展覧会の後は、プティ・トリアノンへ足を向けて18世紀後半の庭でマリー・アントワネットが造らせた自然風景庭園を散歩。

岩場を抜けてベルヴェデール、そして洞窟へと。photography: Mariko Omura
左:ベルヴェデール。 右:愛の寺院。photography: Mariko Omura

『Jardins des lumières 1750 – 1800』
開催中~9月26日
Grand Trianon
Château de Versailles
開)12:00〜18:30
休)月
料)35ユーロ(宮殿含む)、15ユーロ(トリアノンのみ)
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大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。